よろしくのその前に



「お、隣は天城君か。よろしゅうな。」
「お前の左手、毒手なんだって?」


女子を虜にすると噂の爽やかな笑顔で俺に挨拶してきたもんだから、会って1分も経っていないのに、始めましても宜しくも言わずにそう聞いてみた。それが帰宅部の俺と白石蔵ノ介というテニス部の部長の出会い。
その時の白石の顔を忘れられない。爽やかな笑顔が引きつったのを見逃さない、そんな顔もするんだなって思った。ま、白石の顔には「え、いきなり何なん?」て書いてあるけど。

俺は2年の時東京から大阪に引っ越してきた。2年の時はまぁ大人しくて真面目な帰宅部。学校内外と幅広い所から支持を得ている白石とは話したことない。もっと言えば目を合わせた事も、名前を呼んだ事もない。

じゃあなんでいきなりあんな事言ったのかと言うと。この春俺達は3年生になった、桜咲く入学式から数える事だいたい2カ月、3年生と言う響きにも慣れた所で心機一転席替えをすることに。
その結果、ベストな席を手に入れた。なんと窓際一番後ろ、誰しもが羨ましがる俺は東京にいた時仲の良かった友達の口癖を呟いた、「俺ってラッキー。」なんつって。
いそいそと席に座って外を眺めていたら、隣の席に誰かが座ったからくるり振り返れば、四天宝寺のアイドルがいたってわけ。

そして目があったもんだから挨拶された。初めて目を合わせたし初めて名前呼ばれた。そしてついでに気になっていたから初めての無礼。あっはっは。


「…毒手…あ、あぁ…。」
「噂。興味あったから聞いただけ。」
「はは、それ嘘や。」


ですよね。
いきなりの質問に引きつっていた笑顔も、あっという間に元通り。最初の優しい笑顔に戻ってしまっていた。なんだ、つまんね。なんとなく笑ってばっかの完璧野郎だから人間かどうか怪しいなと思っていただけに、毒手の話しも引きつった顔も興味があったのに。
本当に毒手なら納得してしまう、俺ならね。でも違うって引きつった顔で言われた今、なんとなく納得した。悔しいけどね。
席替えに盛り上がる教室の空気に比べたら少し低い俺のテンション、あぁ嘘って聞いたら余計にテンション下がる。もう駄目だ。
クラスメイトがぎゃあぎゃあ騒いでいる、でもその中でも白石の声はしっかりと聞こえてくる。大きな声でもないのに俺の耳に届いてくる。きっと良い声ってやつなんだろうね。


「天城君ってそういうの信じるタイプなん?意外やわ。」
「違う、人間ぽくないお前が悪い。」
「…天城君、おもろいな。」
「面白くない、毒手だった方が面白い。」
「そんな事あらへんって、ほんまにおもろいで?」


包帯を巻いた左手で口元を覆いながら肩を揺らす白石に、ムッとして話すのも嫌になった。右手で頬をついて体を窓に向け外を見た。もういいんだよ興味失せた。
もう桜は咲いていない。だってすぐそこに梅雨が待機しているしそのあとには夏が待っているし。はぁ嫌になる。

そんな梅雨やらに嘆いていたから気付かなかった、白石が机を寄せてきていた事。

机を持ちあげて運ぶガタンという派手な音がしたのに、俺は物音気にせず窓の外ばっかり見ていた。今まで俺が勝手に思い描いていた完璧にして完全なるテニス部部長というイメージが崩れるニヤニヤした顔で、白石に興味を無くした俺に興味を抱き始めた白石がいたことに気付かなかった。

さっきまでは白石の机と俺の机の間にある隙間が、人が余裕で通れるくらいはあったのにこの時点ですでに拳1個挟めるかどうかのレベルだったなんて。


「天城君の名前って、慎やったっけ?」
「…そうだけど。」
「せやったらこれから隣になるんやし慎君って呼んでもええ?俺の事は蔵でええから。」


なんでだよ、そう言おうと思って振り返ってビックリ。


「うえっ!?」


机を近づけた上に、椅子を俺のまさに横まで持ってきていた。俺の椅子と白石の椅子の間に隙間なんて存在しないくらいに。予想外の白石の顔アップは、男の俺でも思ってしまう、コイツ綺麗な顔してる。やっぱり人間じゃないと思う。
白石は返事も何もしない俺を良い事に「な、そーしよか。」と勝手に話しを完結させた。ついでに何故か手を握られ、にぎ?


「は、え、何してんだよ。」
「よろしくの握手やん。」
「両手で俺の右手をぶんぶんすんのがかよ。離せ。」
「ええやん。慎君の隣なれて良かったわ。仲良うしような。」


白石に興味があった俺、そして興味が無くなった俺。
俺に興味が無かった白石、そして俺に興味が沸いた白石。

卒業までの一年間、どうやら騒がしくなりそうだ。


「離せ、てか近いんだよ白石てめぇ。」
「蔵やって。蔵って呼ぶんやったら元にもどしたる、な?」
「………先生ー!!俺、目が悪いんで前の席がいいでーす!!出来れば廊下側最前列の忍足君とチェンジで!!」
「慎君!?」


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謙也、くじ運ないっていう。
この後きっと席代わって、謙也八つ当たりされて涙目。

2013,04,11

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