水魚の交わり



『駅前のマクド、待っとります。』


帰ってきた辞書の最後のページに挟まっとったメモ紙に確かにそう書かれとった。


「ひ、光…ちょおええかな?」
「きもいんで拒否。」
「ええから聞きや!!」


俺、忍足謙也はつい半年ほど前に恋に落ちた。そらもうイグアナと言う素晴らしい存在を知った時以上の衝撃やった。きっかけは今目の前に居る光なんやけど…コイツのクラスへ行ったときに会った天城慎という子やねんけど。

一目見て一秒足らず、俺はまず笑顔に惚れた。それからは知ること全てに惚れてもうて、今や会いたさから用もないのに光のクラスへ足を運ぶ事もある。
昨日、光と柔軟しとったら明日は辞書が必要なんだとポロリ零された光の言葉に、思わず食い付いて慎が辞書を持ってくるのか聞いてもうてたくらいや…。
そんで今日、辞書を忘れた言う天城が俺の元へ来ては辞書を貸してくれやなんて言いよった、神様おおきに。


「その…辞書の事、言うたん?」
「あー、流石にアホの謙也先輩でも気付かれはったか。」


この行動は絶対にこの男が裏を引いているっちゅーのは昨日からの流れで分かること。ちゅーことはや…


「…ひ、光…その…」
「安心したってください、俺は謙也先輩が慎を泣かせた時だけ殴りに行く係なんで。それ以外は何もせんで見守るんで。」
「な、なかす!?俺が!?天城を!?」
「やかましいっすわ。」


光の思いがけない言葉に声がでかくなってもうた。うわ白石が見とる、ちゃうねんサボっとるわけやなくて事故や事故!平気やからちゃんと練習するから!
慌てて自分の口をふさいで「ランニングでもしよか」と光を誘う、ランニングしながらやったら話せるやろうし。

しかしやで、さっきの光の発言から察するにや。光は知っとるのか…俺が天城に惚れとるの。
バレバレやったんかいな…とついつい顔を赤くしてまう俺に「きも」と投げつけられる光の暴言は気にせんようにしといて。ポケットに手を突っ込み、辞書にはさまっとったメモ紙を光に見せる。


「光、これやねんけど…。」
「はぁ………あ?」


面倒くさそうに受けとって中身を読み終えた、瞬間、足を止め俺の方を睨んで来る光…って待ちやその顔、ごっつ怖いねんけど!その眼力だけで人殺せるとちゃうの!?


「慎が使うてるメモやし、慎の字やし…」
「お、おん…辞書に挟まっとった。」
「チッ…アンタ、なんで此処におんねん。」


ついには先輩やのにため口でしかも舌打ちされた。この後輩可愛げない、天城から可愛げを学んだほうがええんとちゃうか?
しかし実際、光に睨まれとる俺は冷や汗だらだらや。え、俺なんか悪いことしとるか?普通に部活練習しとるだけやのになんでそないにキレられなあかんねん!

どこに光の地雷があったのかいまいち分からんでうろたえる俺を他所に、光は大げさに溜め息を吐き出しながら俺に背を向け歩きだした。
え、メモ紙奪われたままや…!好きな奴からの初めての手紙を返して欲しくてその背を追いかけ声をかける。


「光、待ちや!」
「部長。謙也先輩がさっき廊下に落ちとった饅頭食うたせいで腹が痛いいうて五月蠅いんで帰してもええですか?」
「なんやその理由!俺どんだけ馬鹿やねん!」


とんでもない嘘を言い始めた光の襟首を掴み無理矢理コッチ向かせれば、やっぱり人を殺せそうな眼力で睨まれる。思わず手を引っ込めてまうほどに怖い…。
そんなビビった俺の胸元にメモ紙を押し付け、面倒くさそうに二度目の舌打ちをしながら光は言葉を吐き捨てた。


「俺は謙也先輩なんてどうでもええです、せやけど慎が不安がったりしとるんは見てられんすわ。」
「…は、」
「マクドで待っとる、今もずっと。アイツ馬鹿やから学校終わってすぐ行ったはずや。アンタを待っとる。」


初めて、光の真剣な声を聞いた。低く重く威圧感含めた強い声。それは光の一番の友達のためのもんで。


「言ったやろ…慎泣かせよったら殴る。それだけですわ。」


五分後、制服に着替えた俺はマッハで駅前まで走った。これ以上光に怒られるんは御免やし…なにより、俺を待ってくれとる天城のために。




水魚の交わり




マクド入って店員さんの挨拶も無視して客席を見渡せば、一番端の席で肘をついて外を眺めとる小さな背中を見つけた。
ずっとずっと、ずーっと、俺はその背と並ぶ生意気な後輩の背が憎くてたまらんかった。一年の時から知り合い、お互いを親友やなんて呼び合うその関係が。

流石に店内で走るわけにもいかんから早足で近寄った。窓の方ばっか見て俺に気付かん姿に謝りたくて、光がくれたチャンスを生かしたくて。
せやけど、ここまで全力で走ったせいで疲れてもうた。声もかけんで向かいの席の椅子を引いて大げさに座って、


「…あ、」
「遅刻してもうた、堪忍。」


瞳を丸くさせ俺を見る天城に謝って笑った。

どこから話そう、なにから話そう。光がな天城のこと泣かせたら殴る言うてた事からか、待っとるからはよ行けってキレた事からか…ちゃう、そんなことちゃう。
俺が言いたいのはそんなことやなくて、


「天城。俺な、天城のことが好きやねんけど。」


本当に一番言いたかった言葉やろ。


「…謙也先輩、遅刻やし、いきなりやし…」


なんて返事してええのか分からん、なんて言う天城の笑顔が愛おしい。




「なぁ光。」
「…何すか?」
「前に天城君の事、好きやって…」
「そんなん半年前で終わったんで。」


好きな奴の恋を応援する。


「はぁー…ごっっっつ疲れる。」


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10月にClapにてのせていた
謙也のお話の続きが気になる
なんていう嬉しいお言葉をいただけまして。

拍手も入れ替え
お話も過去Clapへ移動したということで
書かせていただきました。

長くなったけど、こんな感じです。
でもマックのシーン短くなっちゃった。

あ、タイトルはことわざです。
水と魚の関係のように切っても切れない縁、という
意味だったはず。


2013,10,24

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