常磐色ころり



今日は大きな入道雲が青空とお互いがお互いを引き立て共存する綺麗な晴れ空で。
そんな日に、俺がユウジの隣にいるという奇跡について話したい所なんだけどさ、ユウジには他に言わなくちゃいけない事があるから奇跡についてはグッとこらえた。


「は?」


間抜けな声が俺の耳まで届いたから、大げさに肩をすくめて笑い返す。不愉快そうに睨まれたって気にしない、とにかく笑ってやった。


「だから、スマホにストラップとか付けるかって聞いてんの。」
「いきなりなんやねん…。」


小春も蔵も謙也も誰もいない、2人だけの帰り道。
今日のテニス部の事とか色々話しながら、俺は突然切り出した。「ユウジはストラップ好き?」って。
確かにこの話しを切りだす直前まで次のモノマネライブでやったらウケそうなネタについて話していたから驚いたかもしれないけどさ、そんな睨まなくったって良いじゃないか。

視線だけで「馬鹿や」と言われているのを感じ分かりながら、俺は頑固だから返事がくるまで聞き続ける。


「なー、どうなの?スマホには付けない派?鞄には?」
「だからなんやねんって。」
「聞いているんだから素直に答えろよ。」


なかなか答えないユウジにブーブー不満を零し、答えないのならばとユウジの鞄を引っ張れば、なんにも飾りがないのが見えた。
ただの重たい鞄に「ふーん」と自己完結した俺に苛立ったのか、ユウジは襟首を俺が鞄にしたように何のためらいもなく掴み引っ張りやがった。


「ぐぇ…」
「慎…あんま変なことしたら死なすど。」


お決まりの言葉を俺へ吐き捨て舌打ち1つ、そしてユウジはさっさと歩きだす。そんな背中を見送りながら、俺はやり過ぎたかな?と反省しているようなそうでもないような…曖昧なまま背中を追う、走りはしないけどね。

あーぁ、開いてしまった距離。非常に残念だ、と空を見上げれば綺麗な入道雲が俺を馬鹿にしていた。もうすぐお前の季節も終わるのに、それなのにまだ暑い今日。
どうして今日に限ってこんなに分かりあえないのだろう、いつもならちょっとした冗談とか悪ふざけとか許してもらえるのに。


「……」


寧ろ、今日だから?

綺麗な綺麗な晴れ空も赤く暮れて。目の前を歩く深い緑の髪を別の色に変えてみせたり、その背中を寂しそうに…はたまた1人で生きていけそうなほど力強く見せたり。
だからこそ、俺は一緒に並んで歩きたいのに。

特別な日だからって、少し敏感になりすぎていた。俺もユウジも。
鞄を開いて真っ先に目に飛び込んできた小さな紙袋を掴んで、その背中をロックオンしてやる。もう気付いたからな、だから大丈夫。

開いた距離、開けば開くほど愛おしいじゃないか!

口元を緩めて大きく一歩踏み出す、紙袋を握りつぶしてしまわぬように気をつけながら今の俺の勢いのまま走りだした。
今日のお前なんか大っ嫌いだからな、でもいつものお前は世界で一番大好きなんだ!


「馬鹿ユウジッ!!」
「いっ!?」


追い抜かす間際、ユウジの後頭部目掛けて紙袋を投げつけてやる。中身は軽いし小さいから大丈夫だろ。
そのまま逃げるように走って走って…いつもの別れ道まで先に着いた所で振り返れば、いきなりの攻撃にビックリしたのか歩いていた足を止め後頭部を抑えるユウジがそこにいた。

地面へ落ちた紙袋を見つけてから俺の方を見て「慎っ!ほんまに死なすど!!」とコッチへ走ってきそうなユウジに俺は一生懸命叫んだ。


「ソレ、お前の分だからな!」
「…は?」
「絶対鞄につけろよ!俺とお揃いだから!」


飾りのない鞄に良く似合うだろう常磐色のストラップ、俺とのお揃いストラップ。
大きく手を振って逃げ出す俺の背中を何も言わずに見送ったユウジに、不安と明日への期待で胸がいっぱいになった俺。

大きく手を振って走り去る俺が投げつけた紙袋を拾いあげたユウジのその心中とはいかに。

そんなの知らない、俺は知らない。


「なんやねん、覚えとったんかいな…。」


入道雲とストラップしか聞けなかった独り言が、そこにはあったなんてさ。




常磐色ころり




「慎、忘れとるんやと思うたやんけ…。」

「あーぁ、素直に渡せばよかった。」

「…せやったら素直に言えや。」

「どうしよう、怒ってたら。」

「コッチは慎に言いたい事あんのに…」

「怒ってたら…駄目元で言ってみよう…」


「「好きって。」」


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ユウジHappyBirthday

明日にしようかと思ったけど
思いついちゃったんだ(笑)

2013,09,11

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