強敵、現る



「ねぇ、俺とテニスしてよ。」


久々に青学へ遊びに来た俺に勝負を吹っ掛けてきたのは、青学のスーパールーキーだった。

青学には凄い一年がレギュラーに入ったとは聞いていたけれど、実際会ったのは今日が初めてで数分前に「はじめまして」と名乗ったばかりだというのに。
桃城やタカさん、不二とベンチに座って話しこんでいた最中も気にせずといった顔で、話しかけてきたのだからその度胸は恐ろしいものだと思う。まぁそうじゃないとこの癖物ぞろいの青学では生きていけないよな、と勝手に納得しながらも吹っ掛けられた勝負に苦笑いを返していた。


「ははは…残念だけど、今は出来ないよ。」
「今は?」
「うん。腕を痛めているからね。」


その言葉を出した途端、桃城達を包む空気が気まずそうに色を変えた。そのせいでテニスを辞めているから気を使ってくれているようだ。
ただスーパールーキーはソレも気にせずに俺へ一歩近づいては顔を覗き込んできた。
大きな瞳は真っ直ぐ俺だけを捕えていた、幼さ残る顔立ちからは想像できないほど生意気なようで。


「一球も駄目なの?」
「…どうしても俺と勝負したいの?」
「強いんでしょ?大石先輩たちが言ってた。」


金ちゃんもそうだっけ、強い人と戦いたくてしょうがないってところソックリだ。もしかして双子だったりするのかなと思えば、可笑しくて笑っていた、本気で聞いてきていたスーパールーキーには悪いけれど。
急に笑う俺に首を傾げ、彼は答えを急かす様に「ねぇどうなの。」と今一度聞いてくる。俺達の会話が他のレギュラーメンバーや部員たちにも空気で伝わっているようで、気がつけば心配そうに大石がこちらを見ているし、手塚が止めに行こうと足を踏み出した所だった。

確かに、俺の腕は治っていない。ドクターストップがかかったまま。体が成長しきるまでやめといた方がいいと言われている。

けれど、


「一球だけなら。」


こんな面白そうな事を逃すほど、俺は廃れていない。
立ち上がって上着を脱ぎ半袖になれば、待ってましたとスーパールーキーは嬉しそうに笑った。ただラケットは持ってきていないので不二の物を借りることになったけど。

正直、テニスをするためにテニスコートへ立つのは約二年振り。準備体操をしながらも俺の心臓は久々の実戦に興奮し始めたせいで、いつもより大げさに動く。指先が少しばかり痺れるほど、俺は実践の空気に喜んでいた。
本当は、世界中の誰よりテニスが好き。

スニーカーだけどあまりテニス向けではない普通の安いスニーカーに、デニム、Tシャツ姿でコートに踏み込めば、先に待っていた彼は帽子をかぶり直してから俺へボールを投げてきた。


「そっちがサーブ打っていいよ。」
「現役だから?ありがとう。」


受けとるボールの感触に、一度ジッと見てしまう。昔は毎日コレに触れていたのに…小さく笑って何度か地面へ投げては跳ねさせる。
コートの周りには部員全員がいるのではというほどのギャラリーが集まっていて。その中でも手塚は厳しい顔で見ていた、きっとこれが終わったらスーパールーキーには何かしらのペナルティが待っていることだろう。
一呼吸置いてから、ボールを高く上げた。久々にラケットで打ちぬける。手加減しなくても良いんだよな、ブランク持ちだし。

本気で打ったサーブは、全盛期の足元にも及ばなかった。




強敵、現る




「すまなかった。」


校門まで見送ってくれた手塚は、周りにレギュラー陣がいるのも気にせず頭を深く下げた。周りは驚いたが先ほどの事を考えればこうなるか、と手塚の後に続いて小さく頭を下げてくれた。


「謝られる覚えないんだけどな。」


腕も痛くないし、と何度か大げさに回してアピールすれば厳しいままだった手塚の顔がやっと緩んだ。

あの一球は、本当に楽しかった。
何回ラリーしたのか覚えていないし、その間中何を考えていたのかも覚えていない。
ただ感じていたのは、自然と動く体、風を切って走っていく楽しさ、ギャラリーの歓声、相手の横をすり抜けたボール…。

あの後、スーパールーキーはグラウンド100周を命じられてしまったのでこの場にはいない、見張りとして竜崎先生がいるからどう頑張っても此処へはこれないだろう。
怪我持ち、ブランク中の俺を気遣って手を抜いてくれたかどうかは今日初めて会った俺では分からないけれど、それでも久々に全身が震えるほどの感動を得た。
直接感謝は言えなかったけれど、とりあえず伝言を頼んでおこう。


「言いたい事あったんだけど、言えなかったから伝えてくれる?」
「なんだ?」

「…久々のテニス楽しかったよ、またね越前リョーマくんって。」





「にゃろ…」


足をふらつかせながら、走る彼の頭の中は先ほどの勝負の事だけ。


「あの人…怪我なかったら…」


氷帝の跡部にも勝ったことある凄い腕前なんだぞ。
そう先輩たちがいうから興味を持って勝負を吹っ掛けたが、まさか腕を痛めていて今はテニスから離れているとは知らなかった。
それでもあの勝負、数年のブランクがあるというのに。


「俺に勝つとか…結構本気だったのに…天城慎…か…。」


ぶつくさ文句を言いながら走る一年に竜崎先生は笑っていた。
良い刺激が増えた、今日の様なテニスができるのならきっと慎の怪我も1年待てば治るだろう。長年の経験から言えるものだ。しばらくはこれをネタに練習をさせよう。
まだまだ世界は深く広い、それを知れただろう未来の青学エースに激を飛ばしては100周を急かしたのだった。


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生意気なルーキーのお話を
是非書きたかったです。
リョーマとは
ライバルで兄弟の様な、
それでいて淡い恋心を抱かれているような
そんな関係であってほしい。


2013,07,16

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