笑顔注意報



分かっていたけど、仁王雅治はとても難しい人間である。
口調もよく分からなければ性格も気まま、服装も日によって変えてくるし仕草も気分次第、なにもかもその時の風が吹くままに変えては他の反応を楽しんでいた。

それに敏感に反応してご機嫌とり、なんてことが出来る人間はいないんだろう。いちいち変わる世界観に順応出来る人間なんて…って、思っていた。


「…ぁ。」
「ぬ?」


大っ嫌いな英語から逃げようと屋上へ来たまでは良かったけど、まさか先客がいるとは予想が出来なかった。

金網に背中を預け唯一の出入り口を見張っていたのは、俺より先に教室から姿を消していた仁王雅治。サボろうという考えを彼も持っていたらしい、英語が嫌いなのかは知らないけれど全く話した事のない俺からしたら『会いたくない』と言うのが素直な感想で。

だからと言って仁王雅治の顔を見てからUターンするわけにもいかないし、何も言わずに仁王雅治から視線を離して俺は彼がいる方とは正反対の方へ足を向けた。

彼だって一度俺を見ただけで視線は手元のスマホへ向けていた事だ、何も関わりを持とうと思っていないだろう。日当たりは仁王雅治がいる方がいいのだが、此処は我慢だ、日陰の中で床に寝転ぶ。空を眺めればコレでもかと海の色を反射させたような綺麗な青、その色を瞳に焼き付けてから、俺は体を丸め瞼を下ろした。


(次は昼だから絶対起きなきゃ…。)


弁当を食べられないなど、成長期まっただ中の男子には拷問も良いところだ。午後は真面目に授業受けますと先生に言いはしないけれど誓っておいた。

早く夢の中へ行きたいな。ただでさえ良く分からない仁王雅治が近くに、それも屋上に2人なんていう望んでもいない…望むわけない状況なんだから。

仁王にはミステリアスなのが良いと言う女子のファンが多い。そりゃ今の立海テニス部レギュラーはイケメンだらけでファンクラブがあったって不思議はない。とくに人気が高いのが仁王雅治。

同じクラスの俺は彼と関わりを持ちたくないな…と、同じクラスになった時から思っていた。なぜかというと、仁王雅治の周りはテニス部レギュラーが主だし、話しかければ何を話したの?とファンクラブが五月蠅いから。

だから、関わらず静かに


「おまん、サボるの何回目じゃ?」
「…ぅ、わぁあっ!!」


眠って、いたかった。

なんで話しかけられたんだ?と瞼を上げれば、目の前には女子を虜にする整った仁王雅治の顔。その距離、推定10p。悲鳴を上げるなと言う方が無理だと思う。

バッと体を起こし後ずさる。なんなんだ、仁王雅治を見る俺が面白かったのか、少しだけ顔全体を綻ばせて笑い、しゃがんだまま開いた距離を縮め俺の左側を陣取った。
首を傾げて俺の顔をジッと見つめ、返事を待っているのか様子を見ているだけなのか…定かではないけれど、とりあえず返事くらいは返しておくのがクラスメイトとしての最低限の交流だろうか。

いまだ驚かされたせいでバクバクと大きく鼓動を打つ心臓を落ち着かせようと、胸元のシャツを掴む。仁王雅治から視線を外して口を小さめに開いた。


「何度目って…1年に2回あるかないかくらいだから…」
「三年じゃから5回目くらい…ふぅん。」


仁王雅治はサボりの天才だから、5回なんて一年生の時に達成しているだろう。それも一学期中に。
俺の返事に軽く返す声は、どことなく楽しそうだった。どうせ暇していたに違いない、だから俺をからかって遊ぶのが楽しいんだろう。俺からしたらいい迷惑だ。

屋上じゃなく保健室を選んでいれば良かったなんて嘆いていても仕方ない、適当に時間つぶしとして仁王雅治に関わってみるのも面白いのかもしれない。
別に仁王雅治という存在に興味はないけれど…だいたい、同じクラスだけれどもなんとなく怖くて名字を呼び捨てする事も出来ない俺が、仁王雅治と仲良くなれるとは思わないし。


「おまんの名前…たしか…」
「天城。一応同じクラス。」
「同じクラスなのは覚えとったんじゃき…あぁ、天城。」


チラリと横目で仁王雅治を見れば、いつも年上のイメージを抱いてしまうニヒルな笑い方ではなくて、先ほど見せた口も目元も弧を描く同い年ならではの笑顔。

コイツ、こういう笑い方するんだ。クラスにいる時もテニスをしている時も、どことなく相手に何も見せないような表情しているってイメージしかなかった。まぁ噂では聞いていたけれどそれは『自分の本性を掴ませないようにするため』なんだろうけれど。

ということは、俺相手にそんな事も気にしないほど俺には興味がないということでいいのだろうか。名字すら忘れ去られていたクラスの風景の1人だった、と。
悲しいような嬉しいような、複雑な俺の心境も知らず、彼は続けた。


「俺は仁王雅治。」
「…知ってる。」
「ピヨッ。」
「…うん。」


その変な言葉にはどんな意味があるのか知らないけれど、とりあえず頷いておいた。知ってたけど2人の時にそれ言われたら焦る、なんの意味こもっているのか分からなくて困る。

まぁこうして仁王雅治がどういう意味があるのか分からないけれど、俺に話しかけてきてくれているのだから、俺からも何か話してみよう。とはいえ俺はテニスをするわけでもないし仁王雅治の友達と友達と言うわけでもないし…勉強の話しなんかしたって面白くもないし流行りの話しもつまらないし…。
今の俺には何があるのだろうか、と考えていれば不意にお腹の虫が小さく鳴いた。


「……に、仁王…は、」
「?」
「いつもどこで弁当食ってるの?」


何も話す事がないからって、これはないだろう。と俺も思っているさ。けれどコイツの事なんか良く分からない、趣味も好みも分からないんだから生きるのに必要な事の話しをすれば場は繋がるだろうと思ったんだよ。

でもいきなりの話題に仁王雅治は笑顔から瞳を大きくさせ口の弧もなくし俺を見てきた、言うなればコイツは何を言っているんだという顔だ。
でも俺はもうこう話しを切りだした張本人なんだ、やけくそと言わんばかりに言葉をつなげた。


「いつも教室にいないし、丸井とどっか行ってるみたいだから…。」
「…あぁ、テニス部の部室ぜよ。」
「そうなんだ…。」


部室ねぇ…話し終わった。もう少し深く聞けばいいのに、俺ってボキャブラリーと言うか会話スキルなさすぎる。

会話が途切れてしまって聞こえてくるのは、窓を開けている教室の授業内容くらい。あー空気重い、早く仁王雅治が俺に飽きますように。そうすればこの空気から逃げ出せるのに。
話した事がないのだから生まれる沈黙はどうしようもないものなのだけど。このまま後…20分近く仁王雅治とすごさなきゃいけないなんて俺には辛い。

ソレを理解してくれたのか、


「天城は、」


仁王雅治は、話しかけてきた。


「、え。」
「…いつも、誰と弁当食っとるんじゃ?」


仁王雅治を見れば、さっき見せてくれた笑顔でいてくれた。
なんで笑っているのだろう、分からないけれど…俺のした質問に似ている質問をくれた仁王雅治にほんの少しだけ親近感が沸いた。もしかしてこの空気に困ってそんな質問をしてくれたのかもしれない。

そう思えば、俺は今まで抱いて来た仁王雅治のイメージとのギャップに顔を綻ばせた、これが仁王雅治の前で初めて見せた笑顔だった。


「いつもは1人…自分の席で食べてる。」


ただその笑顔は、仁王雅治の脳裏に…心に焼きつくことになる笑顔だなんて知らず。
俺は勝手に抱いた1ミリ程度の親近感に浮かれ、笑顔のまま弁当までの時間を他愛のない話で潰していった。

俺が思っていた以上に仁王雅治…もとい、仁王はまともで面白い奴で、俺は話しかけられるまで抱いていたイメージ全てを捨てることにした。


「俺さ、仁王って怖い奴かもって思ってたよ。」
「ほう。」
「全然違った。俺、仁王と仲良くなれるかな?」
「…天城なら、大歓迎ぜよ。」




笑顔注意報




「仁王君、そちらは…。」
「天城、同じクラスぜよ。」
「あ、あの…お邪魔しました…っ!それじゃ!!」
「ほたえなや、今日から此処でおまんも弁当食うんじゃ。」
「なんで…!?」
「プリッ。」

「楽しそうだね仁王。」
「いーんすか?部員じゃないっすよ?」
「たるんどるっ!!」


-----------------

仁王、出来なさすぎわろた。
まったく別人になっていたら
ファンの皆様申し訳ないです(泣)

仁王が本当は怖がりでヘタレで
でも格好つけの強がりだと思っているので
どことなく格好悪かったりしたら
土下座します(本気)

2013,07,16

(  Back  )

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -