君のせい



雨が降った、それは全ての授業が終了して五分と経たずに突然降りだした。

生憎傘を持ち合わせていない俺は、パタパタと弱々しく降っているうちに帰れればいいかと思っていたのだけど運が無かったらしい。担任に少し手伝ってほしいと捕まってしまった。
なんということだろうか、と嘆きながらもさっさと終わらせて帰らなくては…というその思いとは裏腹に、頼まれごとの多さに手こずり、


「うわぁーお。」


やっとこさ終わらせて帰ろうとスニーカーに履き替え玄関の扉を開けたとたん、鼓膜に響く激しい雨の音。
ザーザー、まるで滝の近くにいるのかもと思ってしまうほどの土砂降り、きっと100メートル歩けば全身ずぶ濡れになること間違いなし。

濡れたくないというよりは、濡れて風邪を引くかもしれないという方が怖かった。が、このまま止むか怪しい雨の気紛れに付き合う位なら、ダッシュで帰って熱い風呂に入ってしまった方がいいのだろうな。
幸いにもスニーカーはボロボロ履き潰したもの、新品じゃなくて良かった。
鞄の中の教科書とかが濡れないようにとしっかり口を閉めてから、俺は一歩外へ踏み出した。


「結構冷たい…。」


雨粒は大きめでなかなかの勢いで降り注ぐ、これは100メートルどころか50メートル位で全身ずぶ濡れかもしれない、と足が無意識に急ぎだす。
すでに出来上がっている水たまりを大股で避けて角を曲がって。それでも至る所にある小さな水たまりを全ては避けきれず、足を突っ込んでは靴の中に水が入り込む。靴下が足にはりつく感覚に嫌になる。

額にはりつき始めた前髪をうっとうしく思いながらとにかく足を速めて走って、家までの道はまだまだ続く。
もうちょい近い所に家があれば、もしくは何処でもドアがあればなってくだらない事を考えていると、結構近い所で車のクラクションが鳴り響いた。

それはその辺の交差点で聞くクラクションよりも重々しく、少しばかり品の良さを感じた、なんて何処にでもいる中学生の安い感想だったのだが案外良い線行っていたらしい。


「れ?あれって、」


クラクションのした方向には黒塗りのいかにも高そうな車が一台止まっていた。
何処かで見た事あるようなその車がどうにもクラクションを鳴らしたようだが、回りにクラクションを鳴らすような原因が見当たらない。

なんだ?と思わず走る速度を落としながら様子を見ていると、後部座席の扉が開いた。
好奇心はこんな雨の中でも素直だ、一体どんな金持ちが乗っているのか気になってしまって思わず見れば、


「あ。」
「慎、なにしてんだ?」
「跡部だ。」


確かに金持ちが乗っていた。
まるで憐れんでいるのかそれとも呆れているのか、はたまたバカにされているのか。そんな跡部の視線を受け、足をそちらへ向けた。開かれたドアから中を覗けば優雅に足を組み寛ぐまさに跡部『様』がそこにいる。


「こんな雨の中を走る趣味があるとはな。」
「違うし。傘がないだけだし。」


アホか。そう言えば「アホはテメーだろ」と笑われた。
まぁ跡部だったら傘を忘れてもお迎えが来ているから問題ないんだろうけどさ。
俺は金持ちじゃないしましてやお迎えに来てくれる人も車もいない、だからこうやって帰るしかないと言うのにこの態度だ、流石は跡部様。

と、感心しながらいまだ濡れ続ける自分の体が冷えてきてしまったのでさっさと帰ろうと跡部に告げる。


「俺、寒いからさっさと帰りたいんだよ、じゃあな。」
「あーん?」


風邪ひいたら嫌だし、背中を向けて家への道を辿ろうとした俺の冷えた腕を跡部は掴んだ。
「お前、冷えてんじゃねーかよ」と言ってくる跡部に何だ?と振り向けば、そのまま引っ張られた。はたから見たらただの誘拐風景だったに違いない。
ボスっと俺の濡れ切った体を受け止める高そうな(いや絶対高い)車のソファに痛みなど感じはしなかったが、跡部に結構な力をこめられて引っ張られた腕は少し痛かった。

いきなり何が起きているのか。俺は急な展開に驚き寝ころんだまま跡部を見るが、跡部は当然と言わんばかりに車のドアを閉めて運転席の男性に「コイツの家に寄ってから帰るぞ」と1つ声をかける。


「慎、お前の家どこだ。」
「え、三丁目…え、跡部?」
「雨のなか走っているお前を見捨てるほど、俺様は鬼じゃねーんだよ。」


ちゃんと座れ、と今度は優しく腕をひかれた。だけど濡れ切った体は今の一分にも満たない時間の間にもソファを濡らしていて慌ててソファから下りた。


「ゴメン、濡らした。」
「あーん?そんな程度で何慌ててんだよ。」
「絶対高いだろこの車、ゴメン。」
「お前…馬鹿か。」


勝手に納得して確信をもって言いきる跡部の言葉にイラッとしたものの、また掴まれた腕は跡部の掌から暖かな体温を奪っていく。
コッチに座れ。そう瞳で言われてもなかなか動けそうに無い俺に痺れを切らした跡部『様』は、ソファに座ろうとしない俺に合わせてソファから下りて正面から俺を抱きしめた。

濡れた髪も制服も、冷え切った体もなにも気にせず俺を腕の中に閉じ込めて、俺の髪を何度もくしゃくしゃと撫でまわす。
一体なにが起きているのか全く分からないで茫然としてしまっていた俺は、耳元から跡部の笑い声が聞こえたことによってどうなっているのかやっと理解ができた。


「あ、あとべ?」
「お前で汚れるなら気にしねぇよ。」


跡部の掌が濡れていく。ワイシャツだって徐々に水分を含み始めている、色が変わっていくのが目に見える。
それでも構わないと跡部は一層の力を込めて俺を抱きしめた後、一度体を離しては腕を引いてソファに座る。さっさとしろ、そうまた瞳で言われて今度は仕方なく恐る恐る座った、跡部の隣に座った。

素直に言う事を聞いた俺に満足そうに、やっぱり跡部『様』は笑って俺の体を自分の方へ引き寄せた。


「慎のせいで濡れるのも、悪くねーな。」


嬉しそうに髪を掻きあげながら言う姿は、嫌味かってくらい格好良くて嫌になる。




君のせい




「……跡部って、馬鹿だろ。」
「もう一回言ってみな?あーん?」
「馬鹿、お前は馬鹿。」
「…二回も言いやがったな。」

「だって、無駄に格好良い。」
「はっ、俺様が格好いいのは昔からだろ。」


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久々のべっ様でございます。
書きたい書きたいと思いながら、
後回しにしてしまいまして。

また雨の話しですね、
管理人の雨好きが駄々漏れです。

2013,06,28

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