恋愛探し



「転校?」
「うん、大阪だって。」


急に決まったという親友の転校は本人からケロリと笑って報告された。

慎がテニス部から離れて半年と少し。
最初の頃、天才だ何だと騒がれていたのだがコイツは俺と同じでやりつくす天才だった。
よく一緒に練習を残ってしては帰りにコンビニ寄って公園で飯を食べる、なんて日課みたいなもんになっていた。


「俺も昨日聞いたんだよね。」
「…来年から、か?」
「そうだって。宍戸と一緒に進級できなくて寂しいよ。」


本当にそう思っていて笑っているのだろうか。

俺はもっと寂しいのに。お前がテニス部から抜けた時もテニス自体からも離れていった時も、俺では理解できないだろう痛みをコイツだけ感じているのだと知った時も。
まるで自分の事みたいに泣いた時もあった。それでもコイツは笑ってくれる、今もどんな時も。

考えすぎだったらどれだけ良かったのだろうか。
俺が泣いた倍、慎が影で泣いていると知った時。


(俺の心に、穴が開いた。)


何かを取られた気分になって、やり場のない、言葉にできない思いに、泣く事も笑う事もましてやバカにする事も出来なかった。


「もっと詳しく決まったらメールするから。」
「…おぅ。」
「宍戸、短かったけど一緒に居てくれてありがとな。」
「それは引っ越す当日に言えよ。」


見送りに来てくれるの?とやっぱり笑う慎が此処にいる。
多分な。と釣られて笑う俺が此処にいる。

それだけで満足なのかもしれない、それだけで。一緒に笑いあうことで温かい感情は全身を巡っていくから、きっとそれだけで幸せになれる。
ただその幸せが近い未来、無くなってしまうという不安が俺の足元を崩していく。

もう会えないわけじゃないのに、いまからこんなにも悲しくて苦しいなんて。
そしてこの感情を分かってくれないだろう慎に妙なことに苛立っていたり。


(激ダサ。)


近い未来、それはやってくる。
怖いと思う。ただ変えられない未来に怖いと思うだけでは人生やっていけないさ、短い俺の人生はこれから先もこんな思いをする時がやってくるのだろうし。
この未来を楽しいと思いたい、だから俺は笑うのかも…なんて思ってみたり。


「大阪、遊びに行く。」
「そうだな、皆で来てよ。」
「おう。美味しい所とか研究しとけよ。」
「あはは、そうだね。」


近い未来。

その日は当たり前だがやってきて。

多分…なんて言っといてちゃんと見送りに行った俺に、慎は笑いながら泣いた。
車に乗って遠くへ行く。窓から顔を手を出して一生懸命、俺に手を振り続けた慎の姿に俺も泣いた。ほんの少しだけ、ほんの一滴だけ。

その日から、心の何処かに隙間風が吹き抜けるようになってしまった。
家にいてもテニスをしていても、学校にいても弁当を食べていても、コンビニにいても勉強していても。
頭の中に単語が浮かぶ、『慎がいたらどうなるのだろう』と。


「…なんでだろうな。」


ちゃんと認めた過去、ちゃんと認めた別れ、ちゃんと認めた今、ちゃんと認めた涙。
何処がどう悪くてこの隙間風は俺を悩ませるのだろうか。


「分かんね…激ダサだな、俺。」


いまだ分からない隙間風に付き合いながら、俺は今日も歩いていく。
この隙間風が「恋」や「愛」なんていう感情のたぐいだと知るのは、まだ先の話である…それは近い未来、である。
今はそれも知らないまま、何処かにあるはずの楽しみを探し足元ばっか見ながら慎の名残を拾う毎日。過去の俺、この毎日は最高に楽しい時間なんだぜ、気付けよ激ダサだな。

なんて、気付いた未来の俺は当時をバカにしたりして。
それも楽しい思い出。




恋愛探し




From 天城慎
Subject 久しぶり
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宍戸ーやっと片付け終わったよ
もういつ遊びに来ても大丈夫だよ

でも美味しい所はまだ知らないけど!
みんなで遊びにおいでー!!


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ぽっかり空いた穴を埋めるのは
答えと自覚なのでありました。
ちなみにタイトルは「こいあいさがし」
と読みます。

2013,06,25

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