君が特別になる日



4月14日。その男は生まれたらしい。


「誕生日プレゼント?」
「テニス部からも用意してるんすわ。慎先輩からもなんか渡したってください。」


チロルチョコとか安っすい物でもええんで。そう酷い事をきっぱり言う光は真面目な顔していた。謙也は頬を引きつらせていたけど。

全授業が終わって帰ろうと鞄を手にした俺をひきとめたのは謙也だった。「話しあんねんけど」そう申し訳なさそうに苦笑いする謙也、そして廊下から顔を覗かせたのは光と一氏だった。2人も何やらキョロキョロと周りを見ながら手招きして。
別に急いで帰る理由も予定もなかったから3人についていったら俺とは縁のないテニス部の部室に辿り着いて、招かれるや否や教えられたのはそう白石の誕生日。

誕生日なんて生きている命には必ずある大切な日。それが4月14日だという。知らなかったから教えてもらって喜ぶべきなのか嫌がるべきなのか、俺と白石の関係的には後者に当たる。
でもテニス部的にはだ、いつも世話になっている部長様の誕生日。そりゃ喜んでいただきたいのだろうね、だから俺に何でも良いから「おめでとう」の一言を添えて笑顔で渡して欲しいというわけだ。


「でも俺、今月お金なし。」
「せやから、チロルチョコで…」
「やめや。白石が可哀想やっちゅー話や。」


さすがにチロルチョコを本気で渡すほど俺も酷くはないけれど、光はあくまでも真面目に提案して来ているようだ。謙也に言われて1秒で「部長ですよ?ええんですって。」と謙也の足をさりげなく踏みながら睨みつけた。これが2人のコミュニケーションなら大人しく見守ろうと思う。
痛いだのやかましいだの口論し始めた2人を置いといて、正直話した事がこれっぽっちもない一氏の隠れがちな瞳が俺を見ていた。


「お前からやったら何だってええねん。」


それだけ一氏は言って面白くなさそうにテーブルに肘をついて「はよ小春に会いたい」とぶつくさ文句を言い始めた。もうコイツの頭には金色しかないのだろう、なんだコイツ変なやつ。

しかし俺も白石に追い回されている身、白石が変に俺を気にいっていて変に好意を持たれているのも分かっているのだ。そしてそれを謙也やら周囲の人も気付いているから俺にそんなお願いを振ってきたのだ。
知らない人ってわけでもない、勉強や先生からの無茶ぶり(東京生まれ東京育ちの俺にボケろときたもんだ)に困っていたら助けてくれる。そう友達なんだ。
さて、財布の中すっからかん。だからと言って渡せそうなものが部屋や家にあった記憶もない。


「白石が喜ぶ物…?」
「あかん、そろそろ時間切れや。」
「ま、一日遅れたってええでしょ。」
「あー!!はよ小春に会いたいー!!」


どうにも発狂し始めた一氏は置いといて。

そういえばこの間、白石は言っていた。「慎を家に連れて帰りたいわー」なんてまさに変態の極みだと思ったが、それでも良いのかもしれない。
嫌なのだけど、まぁ友達の誕生日だ。これくらいのノリには乗っておかなくてはいけないのかもしれない。此処は関西の大阪。笑ってなんぼの土地だし俺もそろそろ染まらなくっちゃいけないって事だ。

ただ、これをやった後に白石以外の友達たちがドン引きしないかの方が心配でしょうがないんですが。
騒ぐ一氏にキレる謙也達を放って俺は部室から出た。一応3人には言っておこう。扉を開いて3人を振り返ればコッチを見ていた、丁度良いや。


「白石にあげる物決めたからあげてくる。」
「慎、何あげんねん?」


「それは、」と言いかけて俺の背中にかけられた言葉は


「慎…慎やん!!」


まだ制服姿の白石があまり見ない(気付けない)副部長と一緒にやってきた。俺の名前を大声で呼ぶなり鞄を落っことしてダッシュしてくる、今のお前の足なら謙也にも勝てる気がする。距離にして100メートルくらいだったのにあっという間に俺の目の前へ辿り着いた白石は、肩で小さく息をしながらいつも通りの笑顔で俺を抱きしめこんだ。


「ちょ、」
「どないしたん?テニス部に入る気になったん?」
「違う。」


ぎゅうぎゅうと俺を締め付ける腕を無理矢理剥がし、いつもなら此処で蹴りでもする所なのだが今日だけは…そう誕生日と知った今では蹴る事も出来ない。
白石の声を聞いて謙也達が部室から出てきては「早すぎやろ!」と副部長に文句を言う中、俺は溜め息を吐くように長く息を吐きだして、吐きだした分を取り返す様に息を吸い込んだ。

心の準備は整った、俺なら出来る。いつもは素っ気ない感じで皆の大阪ノリに乗らない俺のある意味一回しか出来ない渾身のギャグ(と言うことにしてほしい)


「白石。」
「おん?」
「誕生日なんだってな。」
「え、知っててくれたん!?」
「さっき。だから何の準備もしてない。」


感動と言わんばかりに両手を組んだ白石が今にも飛びかからんとウズウズしているのでさっさと言いきろう。


「だから、プレゼントは、」


バクバクと五月蠅い心臓のせいで動かなくなりそうな腕を、初めて白石の背中に回した。
俺の額が白石の肩くらいまでしか届かないというショックな事実も、甘い白石だけの不思議な匂いも、シンと静まりかえった周囲の反応とか色々頭の中を駆け巡る中。
言うべき事を、そう白石だけ聞いていれば良い事を情けなくも小さな声で呟いた。


「俺とのデートで、いい?」


忘れないように付け足したのは、白石の制服とキスしながら伝える




Happy Birthday





「…慎、ちょおもう一回!」
「は!?」
「もう一回!大きな声で!」
「ふざけんなボケ!!」


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そのあと綺麗に蹴りを決めてダッシュで帰る。
良くある感じで纏めてみたかった。流石に「俺をあげる」とは言わせられないので。
まぁ白石、お誕生日おめでとう。仕事で1日遅れたけど。

2013,04,15

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