※標準語ver



「どっちがいいのか分からなくてどっちも買っちゃった。」


遠距離恋愛の難しいところは色々ある、毎日会わないと思いが薄れてしまったり他の人に靡いてしまいそうになったり…寂しくなったり。
それが裕次郎にもあったのかもしれない、沖縄から俺の家へ遊びに来た鞄の中には包装紙でオシャレしているまったくもって同じ箱が二つ。裕次郎曰く、二種類の味があってどっちも買ってきたそうです。
わざわざバレンタインだからってやってきた裕次郎、なんだか気を使っていただきありがとうございますというか…俺は分かっているんだぞ。


「裕次郎、どっちも食べたかったの?」
「え!?……なんで分かったの?」


多分そうだろうなと思って聞いた言葉、大当たり。まぁ俺も一人で食べようと思っていなかったから良いんだけどさ。

てへへ、と照れ笑いをする裕次郎に俺も笑う。木手や平古場が「犬の様」と言ったことを思い出す。言い当てられて誤魔化す笑顔に大型犬を思い浮かべてしまった、言われたときは一応否定していたのだけれども…しっくりくるのが何とも言えない。
普段会えない分、さっきから俺に覆いかぶさってくるのもまたなんとも犬っぽい。久々だからね、そうだねうん、重い。潰されそうなんですけれど。


「裕次郎、いったん離れて。」
「慎はどっちが食べたい?」
「…」


箱を手に持ちより一層体重をかけてきた裕次郎に、少し諦め。あぁもうふわふわの髪がくすぐったい。気持ちは分かるよ、ずっと離れていたから。メールしても電話しても満たされなかったこの寂しさは抱きしめあったり手を繋ぎあってやっと消えていくんだよな。
俺だって本当はもっと抱きしめてほしい、ずっと一緒にいたい。けど、今はそうじゃないんですよ。重いんだよ。

とりあえず箱を受けとって、裕次郎の顔を見る。丸い瞳がぱちぱちと瞬きを繰り返しては俺だけしっかり捕らえる。あぁなんか情けない顔しているなー俺。


「裕次郎、いっかい離れて。」
「なんで?」
「一緒に食べるんだろ?お茶でも用意するから。」
「えー。」


文句を言う裕次郎に一睨み、ほらどけなさい。と視線で言ってやれば唇を窄めながら渋々離れてくれる…と言っても体重をかけるのを止めただけだけど。
それでも十分自由になった俺の体、箱を持ったまま立ち上がって「一階で食べようか」と裕次郎に手を差し伸べる。甘やかすつもりはないけれど…ないけれど。
ほんの1秒前まで不満そうな顔していたっていうのに、パッと笑顔に元通り。すぐに手を握り返して引っ張っていないのに勢いよく立ち上がる。瞳を細めて何か言いたげにむずむずと唇を動かす姿を見ると優しくしてしまう。

さ、一階へ行ってお茶でも用意しようか。手を引きながら階段を下りてリビングへ行く間、後ろからはご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
なんだか嬉しいのが感染してくる、いや俺だって嬉しいんだよ。でも裕次郎はそれ以上すぎなんだよ。


「ソファに座ってな。」
「いやだ。」


離れるどころかギュッと力が込められた掌に嬉しい溜息を吐き出す、困ったもんだよ。
寂しかったその気持ち、ちょっと侮っていたかもしれない。先に裕次郎の寂しさを埋める作業に取り掛かった方がよさそう。「じゃ、一緒に座ろう」と提案すれば笑顔でソファに行く。

隣りに座りあって、やっと掌を離した。自由になったその手に貰った箱の一つを渡す。俺は手元に残ったもう一つの箱を包む包装紙を開いていく。それを見て裕次郎もマネするように開いていく、べりべりと少し乱暴に。


「マカロン?」
「うん、味がいっぱいあるんだ。」


箱の中には綺麗に並んだ色とりどりのマカロンがそれぞれ四個ずつ並んでいた、確かに箱ごとに中に入っているマカロンの色が違う。鮮やかなマカロンはまるで作り物のようだ、食べるのがもったいないとはこのことだ。キラキラのマカロンをジッと眺め目で楽しむ。コレは確かに迷うよな、と二箱買った裕次郎の気持ちを理解して笑ってしまう。でもどう考えても一人では食べきれないよ。
まずは普通の茶色のマカロンを一つ摘みあげて、裕次郎にお礼を言ってから唇を寄せた。


「ありがとう、いただきます。」


流石に一口では食べきれないから半分だけ齧る、表面のさくりとした触感が脳に届いた…そのすぐ、持っていたマカロンが、消えてしまった。
代わりに俺の指には柔らかな温もりが触れた、マシュマロのような優しい触感に目を見張れば、指へ寄せられた裕次郎の唇がマカロンを口の中へ捕らえ閉じ込めていた。


「おいしい?」


目の前で起こったことを受け止めきれない俺に、裕次郎は自分のとった行動を普通の事とでも思っているのかさっきまでと同じ無邪気な笑顔で俺に詰め寄った。
しかし俺にとっては普通じゃない、まさか持っていたものを食べられるなんて。しかも指に唇が触れた、こんなこと普通じゃない。
口の中に入れたマカロンを噛むことも出来ない俺は問いかけに答えることも出来ず、呆然と目の前の笑顔を見ることしか出来なかった。こんなこと、そんなこと。

確かに二人で食べようって言ったけれど、こんな食べ方じゃないだろ。

ぐっと唇を引き締めて、マカロンを噛み砕いたのは裕次郎の問い掛けから1分ほど経ってたからになった。あぁもうこれだから甘やかしちゃいけないんだよな…痛感しました。


「…美味しいよ。」


とりあえず、マカロンに罪はない。罪なのは…この想いだけだ。




マカロン
(小さな爆弾)




全てのマカロンを平らげ、満足したらしい裕次郎に紅茶を振る舞いつつ俺は『今後において大事な話』を始めた。


「いいか?カラスじゃあるまいし人が食べている物を許可なく食べるな。」
「はい…。」
「しかも人が手に持っている物を直接食べるなんて犬かお前は。」
「…犬じゃない。」
「今さっき犬みたいなことしたのは誰だよ。」
「うぅぅ…慎、怖い…。」


今後の俺達にとって大事な話、だ。
そういえば犬の特集番組でも言っていたよな…しつけには褒めることと怒ること、どちらも必要ですって。甘やかす時間はおしまいだ、もう少し説教と行こうか。

そうしたらまた、甘やかしてあげる。

褒めることと怒ること、その二つに挟まれながら一緒に成長していこうな。


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標準語verでした。
沖縄語は
翻訳サイト様を
使いました。
感謝です。

アンケート第五位
甲斐裕次郎でした。
たくさんの投票
ありがとうございました!


2015,02,13


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