忍足謙也



俺は目立つ人間じゃない、クラスの中心から3歩ほど離れているところが俺の場所。
友達もそこそこいて勉強もそこそこでクラスメイトに名前をちゃんと憶えていてもらっている…それを今まで死守してきた。
どうせ見た目も普通なんだから生き方だって普通でいいや、そう思って生きてきた。


「つまり?忍足はチョコで?転んで?俺がデパート?」
「むっちゃ話ごちゃ混ぜになっとるやんけ!!そうやなくて!!」


今日も平和な一日でした、と家に帰ろうと下駄箱見てビックリ。愛用のスニーカーにもたれ掛かって一通の手紙がそこにいた。
ソレは真っ白い封筒だった、初めて見た封筒に覚えはなく首を傾げた。
まさかラブレター?いやそれはない、俺にそういった話が舞い込んできたことはない。じゃ果たし状?喧嘩なんて一回もしたことないっての。

とにかく心当たりのないソレは、ただ真っ白だった。手に取りひっくり返して裏を見ても真っ白な封筒、文句の付けどころがないほど何も書かれていなかった。
宛名も差出人もない…これは中身を確認しなきゃ誰に宛てたものなのか誰が出したものなのか分からない。
何にも縁のない自分にそんな不思議な手紙届くわけない、そう信じて疑わなかった。出し間違えたに違いないと。
どうか文句だけは言わないでくれよ、仕方ないし…と差出人に溜め息吐きながら中に入っている便箋を出して広げて内容を見てみれば…

『天城慎』宛てだった。

つまり俺。


「…あれ?」


内容はこうだ。
放課後、3年2組で待っている。
以上。
差出人、不明なのは変わらなかった。
だって本当にそれだけしか書いていなかったから。これはもしかしたら呼び出し?恋愛的な意味なのか不良的な意味なのか…怖かったが、覗くだけ覗いてみようと思った。
この時、俺は翌日土曜日がバレンタインデーというイベントごとのある日だと気づいていなかった、そういえば学校なのにチョコの匂いが凄かったな。

そして今に至る。

教室に居たのは同じクラスで3年生の中でも二番目くらいに目立つ奴、ムードメーカーでどこまでも明るい笑顔の似合う忍足だった。なぜか顔に湿布を張っていたが見間違うことなく同じクラスの忍足、間違いない。
男という事は殴られるのか…と覚悟を決めていたのだが、どうにも違う。というか良く分からない。後日第三者を含め話し合いをしたいくらい今の俺では理解してあげられない。


「せやから…その、慎のことが好きやねん、ライクやなくて…えーとラブの方で…。」
「…はぁ。」
「こ、この湿布は階段でちょお転んだだけっちゅーアレでぜ、全然関係ないねん。」
「へぇ。」


改めて呼び出してまで話してくれたことを一からゆっくり説明してもらう。
忍足は気恥ずかしそうに湿布を摩っては俺をチラチラ見ている、隠れていない方の頬はほんのり赤く染まっていた。そして彼の手には何やら可愛らしいピンクの小さい紙袋が握られている。

正直…最初は聞いた瞬間、明日がバレンタインなんだと思い出して良いジョークだと笑いかけた。でもそれよりも先に忍足が「コレ!」とその紙袋を渡してきて中を覗いたら、高そうなチョコが入っていて笑えなくなった。
そのチョコ…この間チラシで見たよ。デパートに入っている高級チョコブランドの限定品だった気がする。美味そうで見入ったのを覚えている。お値段は…馬鹿みたいに高かった。
そんな高いものをジョークに使うか?使わないよ。

そこまで知ってパニックを起こしたのだ、お蔭でなんかごちゃごちゃした。
でも忍足は優しいことに俺が落ち着くまで待って、もう一度話してくれた。こういう所がクラスの中心にいる理由なのだと知る。

しかし…まさか告白されるとは思っていなかった。しかも同性でイケメンに…顔を赤くしてチョコまで用意して手紙で呼び出して放課後の教室で。なんとなく俺まで気恥ずかしくなってくる。
好きになってもらえるのは嬉しいけど、恋愛経験ゼロの俺にとって忍足からの告白になんて答えていいのかまったく分からなかった。とにかく現状と忍足が言いたかったことを理解するだけで精一杯。嬉しいのと恥ずかしいので頬が熱くなっていくのを感じて、慌てて下を向いた。

自分のつま先を見だしなにも言わなくなった俺に気遣ってか忍足も言葉を発してくれなかった。沈黙、窓の外から聞こえてくる声が羨ましかった。
何か言わなくちゃ…つま先ばかり見ていたって答えは何処にもない。でも好きなんて分からない、俺は忍足のことを知らないし恋も知らないんだ。
素直にそう言ってもいいのだろうか…俺なんかを好きになってくれた忍足にそんなこと言ってもいいのだろうか。
だけど他に何もない、俺の胸の中には他の話題も言葉も見つからない。
唇が重く感じた、開くのを拒否しているかのように。あ、そうかきっと忍足もそうだったに違いない。


「…俺、」
「お、おん。」
「忍足のこと、ちゃんと知らない。あ、ああと、恋とか好きとか、知らない。」


だから、つっかかってしまうし、どもってしまうし…目を見て、話したくなる。

ゆっくり顔を上げて、真っ直ぐ見る。俺の言ったことは自信なさそうだし真剣さ感じられないかもしれないけれど…本当の事だよ。本当の本当、嘘なんてどこにもないんだよ。
真っ直ぐ見上げた先、忍足は俺のことを見返してくれていた。ぶれることなく俺へ向けられた瞳、真っ赤な顔に比べたら酷く澄んで輝いているかのように見えた。
きっと見るに堪えない顔をしているんだろうな、さっきよりも頬が…いや顔全体、いーや体中が熱いんだ。でもきっと忍足も同じだと思う…だって、唇が重たそうに震えているから。


「慎、その、なんやろ…お、俺で良かったら、勉強してみぃひん?」
「べ、べんきょう?」
「おん、あの…アレや、恋とか、好きとかっちゅーのを…。」


一緒に、一緒に。
小さくなっていく声、でも聞こえたのは「一緒に」って言葉。知らないなら学べばいい。忍足は眉を寄せながらも何度も何度も「一緒に」と言う。

そうか、忍足だって俺を知らないんだ。
ちゃんと話したことだってあまりない俺たちだ、急に恋人になんてなれないし急にお互いのすべてを知ることなんて出来ない。なら、時間をかけて知り合うしかないんじゃないかな。
また唇震えた、もう辛いよ、でも話したいよ。心の奥から針で突かれているみたいだ、さっきから体が動かない。体温ばかり上昇していく。

俺が今言いたいことを、言いたい言葉を吐き出さなくちゃ。ギュッと唇に力を入れて引き締めた後、ゆっくり動かした。開いたらパラパラリ、落ちてきた。


「じゃ、じゃあよ、よろしくおねがい、します…。」
「へ…え、お、おん。」


重たい唇、いつになったら軽くなって忍足と会話できるようになるんだろう?
クラスで目立つ奴に告白された、今まで地味なのをキープしてきた俺なんかが。今まで守ってきた場所を捨てる覚悟は…正直まだできていない。けれどきっと忍足がいるなら何とかなるかもしれない。
真っ赤な顔で笑ってくれる忍足となら、良い事知れる気がするんだ。だから少しだけ…一歩前へ出てみよう。

好きを知りたい、忍足を知りたい…どっちも知りたい。




ホローチョコレート
(中はいっぱいです)




忍足がくれたチョコの中に、銀紙に包まれたチョコがあった。なんだか妙に軽くて振るとカラカラ物音を立てるから、俺は小さい頃に親に買ってもらった卵型のチョコを思い出した。中におもちゃが入っていたあのチョコを。
きっとそれだ、少し懐かしくて齧らずに割ってみれば…パラパラパラ、ハートの形をした赤いチョコが数個落ちてきた。


「わ、すげ。」


どうやらイチゴ味らしいチョコを掌に全部乗せて眺める、こういうの誰が考えたんだろ…可愛らしさに思わず笑ってしまう。割るとハートが入っているなんて、まさにバレンタインのチョコレートだ。
それを忍足が俺に送ってくれた、わざわざ自分で買ってきたのか?一緒に帰った時、頬の怪我は今日転んでしまったものだと言っていた。普通病院行ったりするよな…階段で転んで頬を強打した、なんて。
でも忍足は早退しなかった。家が病院だから大丈夫とか言っていたけどその話をしている時、妙に顔が赤くて言葉がつまりがちだった。

もしかしたらなんだけどさ俺に告白するために早退しなかったとか?
それって…


「なんか、思っている以上に好かれているかも…。」


俺の勝手な想像なんだけどなんかそんな気がしてしょうがない。馬鹿な俺、お蔭でまた顔が体中が熱くなっていった。

美味しそうチョコレート、可愛いチョコレート。
でも俺の唇はまた重たくなって食べることが出来なかった、一応食べてみようと唇にまで持って行ってみたものの…開くことはなく触れ合うだけで終わった。

触れ合うだけ…キス、しただけ。


(次はもっとちゃんと話そう。)


いつの日か俺も好きだって思える日くるのかな?忍足と一緒なら、分かるよな?


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ホローチョコレートっていうのは
中が空洞になっていて
何か入っているチョコの事です。

なんだか初心な感じになりました。
ヘタレ is 忍足謙也。
もごもご喋りながらとか
もだえてたぎります。

アンケート第一位
忍足謙也でした。
たくさんの投票
ありがとうございました!!


2015,02,05


(  Season next)


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