丸井ブン太



「ガトーショコラ、スフレ、生チョコ、クッキー…ビターかミルクか…それとも…!!」
「早く1つ好きなものを選べ。」


そんなのムズすぎだろぃぃぃぃ…!と丸井の悲痛な叫びに周りの女性の方々が俺達を「何事ですか」と遠巻きに見てくるが気にしない。

ちょっとした賭けをしていたのだ。
バレンタインで貰える丸井のチョコの数と赤也のチョコの数、どっちが上かって言うのを。勿論丸井は自分の方がたくさん貰える方に賭け、俺は赤也がたくさん貰える方に賭けたのだ。で、負けた方は買った方にチョコを買ってやるというルール。
そんで丸井は赤也より数個上回っていた、だから男に二言は無しと今日で終わってしまうだろう大型ショッピングモールのバレンタイン特設コーナーに足を運んだわけで。


「あぁぁぁぁぁ…どれもコレも美味そうだろぃ…。」
「早くしろよ。」


当日と言えど、まだチョコは残っていた。まぁチョコを並べている棚に空きスペースがある辺り、所謂売れ残りってやつなんだろうけど…それでも俺達から見れば宝の山。
腐らせそうなほどチョコを貰ったくせに、野郎から貰うチョコに何を必死に悩んでいるのだか。
というか、流石に男2人でチョコを前に悩んでいるって相当目立っている。さっきから女性の買い物客が物珍しげに見てくる。そりゃそうだよな、どんなに棚にへばりついて唸っていようとも丸井は格好良いし。


「あと五秒以内。」
「それは絶対できねぇ。」
「なに決め顔で言いきってんの。」


それは格好悪い、前言撤回ってやつだ。
やれやれ。鞄を肩に掛け直しながら「板チョコにすれば?」と作る人向けに板チョコが10枚組で纏められているのを指させば「それも捨てがたい」と真顔で返される。冗談だからやめろ。

だいたい、なんでまだチョコが欲しいんだろう。丸井が貰った数が半端なくて鞄も持ってきていた段ボールも蓋が閉められない状態だったって言うのに。予想以上の多さに丸井の家まで運ぶのを手伝ったくらいだ。
きっとその中には丸井が求めるもの全てが入っていると思う、此処で悩む必要なんかないんだ。


「あ、なんだこのせんべいチョコって!ポテチチョコもある!おい慎、見てみろぃ!」
「…美味しいの?それ。」


お前がそれでいいならいいけど…お金出すのはコッチだぞ。せめて美味しいと確信のあるものを買ってくれ。
だがチョコを前に考えこむその瞳は喜びと楽しさでキラキラ輝いている。無邪気ってこういうことかね…なんて同い年のくせに年寄りっぽいことを思い苦笑が漏れる。


「なに笑ってんだよ。」
「べっつに。」


野郎から貰っても嬉しいなら、先に買って用意しておけばよかった。バレンタインが訪れる数日前から何回も浮かんでいた迷いに後悔した。
幸村に友チョコというものがあると教えてもらった時、真っ先に丸井の顔が浮かんだ。けど貰う数半端ないから良いかってやめたのだ。
どのみち買うことになった…けど、些か時間がかかりすぎている。

もう此処へ訪れてから結構経っている、さっさと決めてもらって家へ向かいたいんだよなー、とコッチも気に気付かない丸井に呆れながら棚に並んでいた箱を適当に手にし丸井へ差し出す。
中身はこんな感じですよ、と丁寧に横に添えられていた説明曰く中はクッキーとチョコが入っているようで。


「これは?美味そう。」


普通かもしれないけれど、と付け加えた俺から箱を受け取り俺が読んでいた説明を丸井も読んで「うー」だとか唸りだす。
確かに他のも美味しそうだけど、いい加減此処から離れない?さっきから売り場のお姉さん達がクスクス微笑ましげに笑っているんだよ。


「真剣に悩んでコレを選んだのかよぃ。」
「いや。目の前にあったから。」
「適当過ぎだろぃ。」


箱を棚へ戻した丸井がまた並んでいるチョコを前に考え込む。ガムを時折膨らましては破裂させる。
適当と言えば適当だけど…丸井が真剣すぎやしないか?たかが罰ゲームで買ってもらえるチョコ1つ。コイツが学校で貰ったチョコはその何倍だと思っているのだろう。その中には手作りのだってあるわけだし、既製品のチョコで悩むなんて馬鹿らしい。

いつまでも決めない丸井を待つだけで疲れて来ていた俺は、つい言葉を投げつけた。丸井が甘い物好きと知っていながらも、投げつけていた。


「丸井が真剣すぎんだよ、別に罰ゲームで買ってもらえるだけのチョコなんか適当でいいだろ。」


はぁ、と溜め息まで吐き出したその言葉、売り場のお姉さんたちにも聞こえていたらしくクスクス笑い声は消えた。
我ながら我慢がきかないなぁ…分かっている。視線を自分の靴先へをむけ、俺は丸井に背を向けた。気まずいけどこう言えばさっさと終わらせてくれるはず、と信じて。
そりゃこんなこと言った後に丸井と何を話しながら帰ればいいだとか、卒業までの日を今まで通りに過ごせるのだろうかだとか、色々不安が俺を襲った。
でももう言ってしまった、背を向けてしまった。後悔70%、不安20%、正解だという満足感10%。


「どんな形だろうとよ、慎から貰えるんだから真剣にもなるんだよぃ。」


丸井、君は今どんな気持ちでその言葉を絞り出すの?

下を向いていた視界に入りこんできたのは、背後から回された二本の腕。誰のかなんて見慣れた制服の袖で分かる、けど。
どうして二本の腕は俺の体を抱きしめたのだろう?背中に感じる暖かさはどうして俺へ降り注がれるのだろう?


「たくさん貰ったって関係ねぇ、慎からのチョコが欲しかった。」


罰ゲームだったとしても、気まぐれだったとしても、本気だったとしても。
どんな思いが込められたチョコだってかまわなかった。バレンタインという日に貰うことに意味がある。
馬鹿で駆け引きもできなくて子供っぽい俺にはこんなことしか出来ない。

だから、せめて嘘つきになるんだよぃ。


「嘘でも良いから、俺にだけのチョコが欲しいからこんなに真剣なんだよぃ。」




I told a lie、愛故に




「これ、オマケでどうぞ。」
「「え?」」


丸井が散々迷いつくした結果、俺が勧めたチョコを選んだ。
俺から何かいう事も思いつかなければ、丸井も何も言わないまま箱を差し出してきたからお互い視線も合わせないでレジへ持っていく。
そんなただ事ならぬ空気を察したのか、お姉さんたちが丸井が選らんだチョコと同じものをもう一個袋へ入れる。


「今日で終わっちゃうから。」


そんな言葉を笑顔で言われたら、中学生の俺達が「いりません」と全力拒否することもできず。同じものが二つ入った袋を渡され笑顔で「ありがとうございました」と言われてしまう。
いやいや、そんなオマケしてもらえるんなら、コッチがお礼を言わなくては…ちょっと背筋を伸ばしながら頭を下げた。


「「ありがとうございます!」」


ただ丸井もソレをやると思わなかった。合わせたわけでもないのに合ってしまったその言葉と行動に、横を振り向けば丸井も驚いたと瞳を丸くさせて俺を見ていた。
するとまたお姉さん達のクスクスという笑い声が聞こえてきて、恥ずかしくなる。あんだけ仲悪いみたいな空気だしたのにこんなにも息がぴったりってか?耳まで昇ってくる体温を無視して顔を上げて下手くそな笑顔を返し手を振り出口へ歩き出す。

自動ドアが俺達を察知して開けば、ビュウっと流れ込んで来る冷風。それが今は丁度良くて瞳を細め喜びこの身へ受け止めれば、丸井がはぁーっと息を長く吐き出すのが聞こえた。
それはコッチがやりたいことなんですけど…口にせずジロリと睨みつければ、丸井は申し訳なさそうに瞳を伏せ頬を掻いて。


「その、チョコよ…ウチで一緒に食わね?」


お揃いのチョコを入れた袋を持つ俺の手に、丸井の暖かい指が触れた。あ、と思った時には袋の持ち手を1つ奪われていて。俺達の間に袋がぶらり、チョコ以外の何かが詰め込まれながら呑気に風に揺れる。


「…そうしよう。俺に話す事もあるんだろ?」
「ぐっ…。」


今まで騙されていた、けどソレを見抜けなかった俺って丸井の友達と名乗る権利もなかったと思う。
これから俺が友達と名乗る権利を得られるか…それとも別のなにかを名乗る権利を得られるのか、今日はゆっくり話し合ってみようか。


-----


あみだくじ選出
丸井ブン太でした。

丸井が
ペテン師に唆されて
嘘つくの頑張っているとか
可愛いと思っています。


2014,02,14


(prev Season  )


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -