忍足侑士



「謙也、お前なにしでかしたんか言うてみ。」
「なんもしてへんわ!そう言う侑士、お前かてなんかしたんやないかっちゅー話しや!」


この忙しい二月にわざわざ謙也の家に来てみれば、不機嫌そうに板チョコを砕かんでそのまま噛んどる慎の姿。なんか俺の予想とか聞いとった話しと全然ちゃうんやけど。
謙也の話やったら慎と一緒にチョコを作っとるとかでお前もコッチ来ればええやん、的な事を聞いたから来たんやけど。


「もういっぺん聞くで?チョコ作っとったんやろ?」
「おん。ロシアンルーレットにしてテニス部に食わしたろうってなって。」
「そんで?」
「チョコを溶かしとったらああなった。」
「なんでやねん。」


何処をどうすればそこで機嫌が悪なるんや。しかし現に慎はむっちゃ虫の居所がようない。
せっかく会いにきたんにこんなオチとは想像しとらんかった、とりあえず笑顔の1つでも見せてもらえれば来たかいがあったなーと思えなくもないんやけど…しゃーない。
尻ポケットに突っ込んどった財布を抜き取って千円札を謙也の胸におしつける。アホな従兄弟はとりあえずは受け取るもんの、これはなんや?と訝しげに俺を見てくる。


「それでなんか機嫌とれそうなもん、買ってき。」
「…おん。」


謙也の足やったらすぐやろ、と付け足して買いだししてこいと促せば上着を手にし玄関へ向かう従兄弟。その背を見送り扉が閉まる音がするまで待って、俺は慎を見る。
もごもごと口を動かしとるけど、チョコ食いすぎて鼻血ださへんかな…とどうでもええ心配しつつ目の前にしゃがみ込んで顔をのぞきこめば口の周りにチョコの破片を付けたまんまで睨まれる。うわ怖ないで。
とにもかくにも、一体何が気に入らんくてそない機嫌悪くしとるのか…そこはハッキリさせなあかんよな、と伊達眼鏡のブリッジを押し上げて口を開く。


「どないしたん?なんか嫌なことあったんか?」


普段はお人好しで笑っとることの方が多い癖に、こうやってたまに子供に戻った様に拗ねる。それはそれは冗談にならんくらい何時間も何時間も。
俺かて大阪に居れる時間限られとるからなぁ、はよいつもの笑顔を見せてほしいんやけど。そのためなら千円くらいやっすいもんや。せやけど、まぁ…俺と話しをして笑顔になってくれた方が嬉しいっちゃ嬉しいやん?
やから話しはして何とか出来るんやったら機嫌を元に戻したい。愛しい笑顔を俺に向けてくれへんかな。


「嫌なこと、あったけど。」


ぽつりと呟き落とされた声を乗せた息は甘いもん、離れとっても鼻をくすぐったその甘さにちょおクラっとなる。あぁ慎に似合っとるなぁ…。
って、アホなこと考えとったってバレたら余計に不機嫌になってまうからそこは隠して笑顔を作り口の端についとるチョコを親指で拭ってやる。


「なにあったん?」


急かさんであくまでもゆっくり話かけたれば、不機嫌できっつい顔しとったのを緩めだす…どころか通り越して眉を下げ口を弱々しくへの字にしてもうて。
それでも急かさんでとにかく話てくれるのを待っとれば、チョコを拭う手に重ねられた細い指。


「…謙也が、」
「おん?」
「侑士はぎょーさんチョコ貰うさかい、他のもんの方がええんちゃう?って。」


……

ん?それは、謙也なりのアドバイスとかとちゃうんか?ちゅーか…ぎょーさんって、アイツとんでもない事を言うたな。
せやけどソレだけやったら別に可笑しな所がないと思うんやけど。謙也なりにこうした方がええでっちゅーもんであって、別に不機嫌にしたろとか意地悪で言うたもんやない。逆に優しい言葉やと思うんやけど。
意味がよう理解できんでいるのが顔に出てしもうたらしくて、慎は「だから」と先を繋げた。


「侑士がたくさんチョコ貰っていると思わなかった。」
「…お、おん?」
「だから、普通にチョコ用意しちゃったから、なんか悔しくなった。」


2人が従兄弟だとは言え、好きな人の事をちゃんと知っていないんだって思い知らされて。


毎年ぎょーさんチョコもらっとる。テニス部で目立っとるからやと思う。普通のチョコにケーキにクッキー…色んな形、色んな味、色んな種類。
それでも世界に一つしかないもんがある、たとえ形や味や種類が同じやったとしても、


「そんなん、俺には関係ないやん。愛しい慎から貰えるもんが一番に決まっとるやん。」


愛しとる人から貰うものっちゅーのは、どないなもんでも世界でいっちゃん輝いとる。




No.1でOnly.1




「そないな意味で言うたんちゃうって。」


両手に菓子とジュースを持って買ってきた謙也に「問題は解決したで」と慎の頬にキスしながら言うたれば、なんとなく自分が原因やったんかと単純な謙也でも気付いたんか説明を待たんで謝ってきた時は笑ってもうた。


「知ってるけど、悔しいんだよ。」
「せやけど知っとるもんはしゃーないやんけ。」


謙也も正論やし、慎も正論やし。
どっちも当たっとるんやし、その話しはもうやめればええんにお菓子を食いながらずっとグルグル同じ会話。
ま、慎の笑顔が見れたからええか…それに、どんだけ俺のこと好きなんか伝わったし来て正解やったなぁ。


「ちゅーか謙也、お前ここは空気読んでどっか遊びに行く所とちゃう?」
「はぁ?此処は俺の家や!それに慎とチョコ作らなあかんし!」
「そうだった。謙也、今から作ろうぜ。」


謙也の余計な言葉に、余計なことを思い出してしもうた慎が「さっきはごめんな」と謝りながら立ち上がる。え、嘘やん。
それに名案、と「せやな!善は急げっちゅーこっちゃ!」っちゅーて謙也は部屋から出てさっさとキッチンの方へ向かっていく。せっかく笑顔にしてもっとキスして抱きしめてとか期待しとったのに…。
ガックリ肩を落としポテチを口へ運びつつ、謙也の後を追うために部屋から出ようとする慎を見とれば、くるり俺の方へ向き直る。


「ほら侑士、お前も一緒に作ろうよ。」


早く、やなんて笑顔で言われてもうたら…もう逆らう気にはならん。ソレで今度は俺が不機嫌になるやなんて言うんもなぁ…格好悪いやんけ。
決して口にはせんで広げられとったチョコを一欠片、口の中へ放りこんでから立ち上がり待ってくれとる慎の手を掴んで笑い返す。


「ほな、キス一回な。」


それくらいの前報酬がなきゃ、アホなことに付き合う気になれんから。
慎から甘い匂いがした、さっきまで食べとったチョコの匂いが染みついとったらしく近づくだけでクラリとさせられる。
せやけど今は俺の口からも同じ匂いがする、同意を得る前にチョコを食べるが如く慎の唇を塞ぎ啄ばめばまだ貰っとらんのにチョコでお腹がいっぱいになった気さえした…


「…用意したチョコ謙也に上げても良い?」
「あ、めっちゃ欲しいですスンマセン。」


…けど、まぁ、貰うんやけど。


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上記以外のキャラで
一位になった侑士です。

久々の侑士なんで
心でも閉ざしてやろうか
とも思ったりしましたが、
むしろ閉ざされてしまえばいい
とも思えました(笑)

冷静かつ大胆、
それが侑士の印象です。
だーてーめーがーねー。

票をいれてくださった皆様、
本当にありがとうございました!


2013,02,12


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