甲斐と雪と



「ひーさん…。」


そりゃ沖縄に比べたら何処だって寒いだろう。もこもこのダウンにニット帽を目深にかぶった裕次郎の褐色の肌が12月の寒空にはミスマッチ。

大阪へ遊びに来てくれたのはいいんだけど、なんで12月にしたんだろうか。そう二回くらい聞いてしまったほど裕次郎は空港で会った時から「ひーさん」と震えている。
今日も観光地や俺が好きなたこ焼き屋さん、そして俺がもうすぐ卒業してしまう四天宝寺中学校などを案内してやりながら、呆れ思わず言ってしまう。


「春まで待てば良かったのに。」
「待てねーらん。慎に会いたかったさー。」


と、強がって笑うのは良いけど、鼻先真っ赤。沖縄では見る事が出来ないだろう姿に俺も笑ってしまう。とりあえず近くに自販機があって、そのなかに暖かいココアが入っていたはずだ。そう言えば「へーく!」と急かされる。


「今日は雪が降るかもって話しだしな。」
「…ゆき?」
「うん。…あれ、雪は知ってるよな。」


パチパチ、瞳を大きくさせ瞬きを繰り返す裕次郎。流石に沖縄生まれ沖縄育ちだと言えど、雪を知らないってことはないよな。
冬に空から降るフワフワした白いやつ。と空を指さしながら言えば瞳が徐々にキラリ、輝きが写り込む。そして俺の真似で空を指差し「雪!?」と大きな声を出した。
あれ?もしかして、


「見たことない?」


全力で頷く裕次郎に、沖縄で雪が降るって相当な大騒ぎなんだろうなと想像したら笑えた。きっと裕次郎と平古場がはしゃぎそうだな、なんて考えていれば裕次郎は急に元気になってきた。


「じゅんに!?」
「予報だとね。」


寒い寒いと小さくなっていた体が、雪でのびのびとなるのが可笑しくてついクスクス声をだして笑ってしまえば、はしゃぎ過ぎたと思ったのか寒さではない赤みを頬にさしこんでは笑みを零しながらまだ空を見上げて。

でも、本当に裕次郎は凄いタイミングで大阪へ遊びに来たものだ。強運なのかもしれない。大阪でも珍しい雪が、裕次郎が遊びに来た日に降るなんて相当だ。
日頃の行いってやつか?と裕次郎を眺めていれば、何時の間にか自販機の前へ辿りついた、どころか軽く行きすぎる所だった。


「ココアでいいの?」


いまだ空を見続けていた大きな瞳がやっとコッチへ向いて嬉しそうに細められた。そしてまた大げさに頷かれ、また誘われる笑顔。裕次郎と一緒にいると常に笑顔である意味困る。

ここは俺の奢り、とお金を入れてココアのボタンと押す。ガコン、と派手な音をたてながら落ちてきた缶を取りだし口から出し、もう一度お金を入れる。そしてもう一度ココアのボタンを押してまた出てきた缶を取りだす。
冷えた指先には痛いと感じてしまうほどの暖かい缶から早く手を離したいという思いから、「熱いから」と裕次郎に言いながら缶を一本差し出した。
少し注意深く缶へ伸びてきた指先が、熱さに驚いたか一度は引っ込められたがすぐに温まりたい思いからしっかりと缶を受け取った。


その缶に、ふんわり。


「あ。」
「なまむ…。」


着陸してはすぐに熱で水へと姿を変えた白いソレに、俺達は缶を持ったまま時間を止めた。見間違えではない、きっと今のは。

そう思ったのをきっかけとしたか、ちらりほらり、ゆっくりと降ってくる白い白い雪。
缶にも俺達の手にも服にも、辺りへ降り注ぐ雪に自然と空を見上げた。どんどん俺達が立っている地面へ向かって素直に舞い降りてくるその光景に圧巻されてしまった。


「本当に降ったよ…。」
「じゅんにやっさー…。」


予報は大当たり、なのだけれどそれよりも。この裕次郎の運を何よりも褒めるべきではないだろうかと思う俺がいて。
空から視線を下ろし初めて雪を見た裕次郎を見れば、嬉しそうに唇を震わせ俺を見ていた。その顔は俺と空港で再会した時にも見せてくれた『なんて言えば表現できるのか分からない』時の顔。
それは俺もだよ、と頷けば、


「いそーさん!!」
「っ、ゆうじ、」


ガン、地面に落ちた二つの缶。路地に響いた裕次郎の「嬉しい」の声。
自販機の前で嬉しさを我慢できなくなった裕次郎に抱きしめられながら、初雪を今一度眺める。
今までの初雪よりも綺麗だと思える、とても白くてふわふわしていて、どことなく愛おしく感じられる…それは、どうしてだろうか。


「まじゅんんちゅん雪やちゅらさんやっさー。」




綿雪のかふー




「奇跡だよ、流石裕次郎だ。」
「慎。やーんもまじゅんんちゅんい。」
「え、」
「あらん?」
「…へへ、いいよ。一緒に見よう。」
「約束やっさー!」


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ひっさびさの甲斐君。
誰コレ?状態だったら
本当にスイマセン…!

いつも通り、翻訳前を次のページに
用意しております。


2013,12,13


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