狩りしましょ 5-2-



((((いま、アイツ五人って…))))


引っ掛かる蔵の言葉に顔を見合わせた俺達は、どうしようもない不安に頬を引きつらせた。あの馬鹿が何かを言っているようだ…と指差しそちらを眺めれば村長の手を取りやる気満々だと無駄に完璧な顔で笑って意気込んでいた。


「5人で行けば倒せんもんはおらんで!やって5人って戦隊ものっぽいやん!」

「やっぱりアイツ5人とか言ってやがるぞ!しかも理由くだらない!」
「勝手に話し進めんなや死なすどお前…!」
「ちょお待ちや!なんで俺達まで行く前提で話し進めとるんや!!」
「ほんまどうしようもない変態っすわ。」


確認なしで村長に行くと表明する蔵に大人しく座っていられる訳もなく俺達は立ち上がって詰め寄る。しかし当の本人「え?」と悪びれた様子もなく寧ろ笑顔でコッチがギャグを言っているかの如く。お前の方だろソレは!!
だが、俺達にビビるほどコイツは軟弱じゃない。むしろ裸一貫で大型モンスターに挑むほどの阿呆である、肝っ玉だけは座り切っている。火山地帯熱いからってパンツ1枚で行こうとした奴だ(全力で止めた)


「困っとるんやって。」
「おん、それは聞いとったっちゅー…。」
「せやったら助けなあかんやんけ。なぁ、慎。」
「…え、」


俺にそう振ってきたソイツの頭の中なんて読み切れないし読みたくもないし、読めたとしても俺は俺で蔵は蔵。別の生き物であってシンクロしたりなんかできやしない。

だけど、今はそうもいかない。
数年前の…蔵が来たばかりのユクモ村を此処で生まれ育った俺は知っている、忘れることなんか出来ないくらい苦しくて大変で…死んだ人も傷ついた人もたくさん知っている。
蔵が「大丈夫やで」って笑ってくれた時、本当に守ってくれた時、ずっと此処にいてくれると約束してくれた時、嬉しくて泣いたから。


「困ってる、か…。」


俺が得たあの安心感は、今の今でも続いている。
ただの武器屋の跡継ぎが零した言葉は、情けない事に震えていた。けれど心は何処か八面玲瓏、澄み渡っていた。迷う必要などない、答えは1つだと。


「そうだよな…困っているなら、助けなきゃ。」
「おん。」
「…分かった、一緒に行く。」


あの日から君に貰い続けている物が多すぎて、どうやってお返ししたらいいのか分からない。だからせめて力になりたい。
思えば濡れた髪から落ちたものではない滴が濡れている頬を伝って行く。あの日の安心感をバルバレの人も感じる時が来てほしい、そのために何かが出来るのなら俺は蔵について行こう。


「先輩が行くんやったら俺も行きますわ。」
「っわ、」


いつの間にか後ろへ回り込んできた光が俺の腹へ腕を回し傷跡残る肩の上に顎を乗せてそう言い切った。さっきまでやる気無かったくせに…と赤くなった目で睨めば「そんな先輩に憧れとるんで」と良く分からない返事が返された。
蔵が光に「流石、伝説の低露出度ハンターやなぁ…」とまた可笑しな事を言っていれば、隣から盛大な溜め息が聞こえて来た。
痛んでいる髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら唇を尖らせ、何か文句を言いたそうにしている謙也がとりあえず俺を見て小さく笑う。


「慎が行くんやったら、俺も行くっちゅーこっちゃ。」
「え、でも…」
「ええねんて。そないな問題児2人も抱えられると思うとるんか?」


あ、それは無理。と声に出しはしないが思えば伝わったらしく「せやろ」と謙也が盛大に笑う。しかしそれが気にくらないらしく光が持っていたガーヴァのおもちゃを至近距離から全力で投げて謙也の額にストライクさせた。くちばしの所が当たったらしく蹲った。
光も謙也も来てくれるのは嬉しい、それと是非ユウジにも来てほしいのだけど…頑固なユウジのことだしなぁ、と謙也の反対隣りを見れば、意外な事にも悩んでいるらしく「んー」と唸るユウジの姿が。
これには全員(謙也はノックアウトしているけれど)が驚いてしまい、俺は恐る恐るユウジの名前を呼んだ。


「…ユウジ、その、」
「おっしゃ、俺も行ったるわ。」
「うんそうだよな、やっぱユウジは……え、」


諦めが8割だったのに、まさか本人からそんな前向きというか割り切ったハッキリした返事をいただけるとは思っていなかった。これには蹲っていた謙也も復活してはユウジをまじまじと眺めてしまって。
しかし驚いていない奴もいるもんで。パシッと手を叩いて立ち上がりユウジに親指を立て良く言った!と褒める蔵は最初からこう返事を貰えるだろうと思っていたらしい。


「それでこそユウジや!流石は俺が見込んだハンターやで!でも自分露出すくなすぎや!!」
「うっさい変態黙れ死なすど。」


だが信じてくれていた蔵にも辛辣なお言葉。まぁソレがいつも通りなんですけどね。
最初こそ蔵以外が渋ったというのに、いざ話しあえば全員あっさりと行くことを決めてしまったわけで。でもユウジが行くと言い出すとは思っていなかったな、とユウジを眺めていれば不意に視線が合った。


「…勘違いすんなや、俺は砂漠の海の向こうの防具が気になるだけや。」
「あぁ…まぁ俺も武器が気になる…。」


防具加工の才能もあるユウジにとって、見知らぬ幻の地ではどのような防具があるのかも気になるらしい。
多分行くと決めた決め手はそこだと思う、らしい理由に苦笑いしながら温泉で温まった体が冷めてしまい「寒いっすわ」と言いだした光に抱きつかれたまま温泉につかり直す。

蔵も風呂のふちから下りて温泉へ浸かり、謙也もユウジもつられて浸かった所で村長がゆっくり、そして深く頭を下げた。その肩が少しだけ震えているように見えたのはきっと湯気のせいで見間違えただけだ。


「本当にありがとうございます…村だけではなく私の我儘まで…心よりお礼申し上げます…。」


綺麗な声でそう言い上げられた顔はいつもの美しい笑顔。
この村で生まれ育った俺は、村長からそんな言葉をいただけるだけでもありがたいのに、村長の力になれたというだけで嬉しく…そして幸せで。そんな気も無いのに、俺の頬はまた温泉ではないものが伝った。素直にこの村に生まれて良かったと思った、守りたいと思った。


それから二週間、周りへの挨拶や荷物をまとめたりとで慌ただしく過ぎて行った時間。二週間後か、なんて余裕あるなと考えていたがあっという間に旅立つ日はやってきたのだ。
村長が用意して下さった馬車四台に荷物を詰め込んでいく、四台もあるんだから楽勝だろうと思っていたがいざとなればパンパン。それもそのはず、四台のうち二台は特別だったから。


「コッチがキッチンで…そっちが?」
「鍛冶が出来るようになっとるらしいっすわ。」


先輩のためやないすか?と新品の馬車の中を覗く光が「此処で寝るんだけは風邪ひくんでやめたってください」と釘さしてきた。しかしその可能性が大ありな俺は返事が出来ず、とりあえず笑っといたら睨まれた。
最近の馬車は旅がしやすいように改良を重ねているらしく、このように専用馬車なんかもあるという。料理人の人や鍛冶屋でも旅が出来るようにと。そのお陰で俺は鍛冶場が恋しいと思う事はなさそうだ。

それでも、生まれ故郷を離れるのは寂しい。
村の入り口から見るユクモ村は小さくて色とりどりで綺麗で賑やかで…何年見たって飽きない村の姿、しばらく見れないのだと実感ないままボンヤリ眺めれば、家が目にとまった。
武器と鍛冶の店、親父と俺でやってきた店…俺がいなくても大丈夫なのかな、なんて余計な言葉を脳内に浮かべては、見てられなくて瞳を擦った。

大丈夫、帰ってきたらまた親父の元で修業するんだ。そしてお店継ぐって約束した。絶対に帰ってくるんだ。


「おーい!そろそろ行くでー!」


先頭の馬車の入り口から顔を覗かせた謙也が手を振り俺達を呼んだ、ソレに光と揃って振り返れば手招きされる。


「あぁ……慎先輩、行きましょ。」


らしくもなく優しい声の光に、自分が泣きそうだったのがバレているんだと気付いて笑い返した。そして力強く頷いて、俺は愛しい故郷に背を向けた。こんな湿った思いでバルバレへ向かうなんて出来ない、此処はありったけ笑って見せよう。


「よし!行こうぜ!」


先頭の馬車まで走りだせば光の笑い声が微か耳に届いた。
荷物でいっぱいの馬車に乗りこめばユウジが荷物の上に座って、謙也が壁に寄りかかって、そして俺達のバルバレまでの旅のきっかけを作った蔵は運転席で大きなポポの手綱を手にしていた。ポポって普段は凄く静かなんだけど、怒ったら怖い。牙も洒落にならないくらいでかいし。
ユウジの向かいに座り込んだ俺の隣に光も座り、これで全員そろったと蔵が「よっしゃ」と頼りになる笑顔で俺達を見た後、前を向いて指差した。


「目指すはバルバレ、幻の街やで!」


荷物と希望と不安とやる気を詰め込んでいっぱいの馬車を、村長と村の人たちがこっそり見送って手を振っていた、なんていうのは、


「ところで運転できるんか?」
「知らん!やったことあらへん!」


頼りにならない言葉に顔を青くした俺がノリと勢いだけで走りだし酷く揺れる馬車から見えた愛おしい光景だった。
かくして俺達はバルバレへ向け走り出した、ユクモ村の人達を笑顔にしたようにバルバレの人達を笑顔にしたくて。


「あかんメッチャ揺れる、なんでや。」
「お前なんなんだよ!ユクモ村に帰れ!」
「旅は始まったばかり…前途多難、大歓迎やでエクスタシー!!」


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長ッ。
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弾かれてました。


2014,01,06


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