ドキドキワクワクばいばい



此処は人が通る場所じゃない。
地下鉄道、そのレールしか通っていないトンネルの中は異様な寒さ。暗いせいとかもあるんだろうけど…どうしてか鳥肌が消えない。腕を何度も摩っているが一向に治らない。


「なぁ、まだ?」
「もうちょいやで。」


早くこんな所、抜け出したい。暗すぎるトンネル内は傍に蔵がいると分かっていても恐ろしいので蔵の鞄の紐を掴まさせていただいている、妖精は逞しいので怖いとか一切言いません。それどころか楽しいとか言いやがったので蹴ったのは五分くらい前。

短い会話の後は何も話すことが無くなり、また黙々と歩くだけの時間。時たま何処からか水の落ちる音がする。それがトンネル内で何度も何度も反響する、消えない音は鼓膜にこびりついてしまったから聞こえるのか…それともいまだ反響し続けているからなのか分からなくなる。
頭の中にまで響くソレが俺の脳内をグルグル。可笑しくなってしまいそうだ。

早く早く、と急きたい思いもあるのだが急けないのが現実。長いこと鉄道が通っていないトンネル内は駅から流れてきたゴミや水たまりで歩くのも怖い。
あぁもう、最悪だ。下をむき足元だけしか見ていない俺は蔵の紐を持つ力を強めた。


我慢して何分経ったか、蔵は急に足を止めこちらを振りかえった。ランタンで照らされた顔は変わらない笑顔。なんだかんだでその笑顔にホッと安心している自分が此処にいた。


「あそこ、ちょお光り漏れとるやろ?」


固くなっていた俺の表情に気付いたのか空いている手で頭を何度か撫でられる。いや確かに背はお前の方が高いけど…解せぬ。でも今はこれすら癒しになる、有り難く受けとめておく。
わしゃわしゃと髪をかき混ぜ、満足したらしく笑みを強めた蔵が暗闇の先を指さす。ここから少し先らしいのだが…俺には良く見えず。目を細めたり歩を進めたり、蔵が光りがあると言ってから何歩か歩いてから、俺の瞳でもその光りを確認できた…って、


「此処からでも幅1センチあるかないかの光りを見つけろとお前は言ったのか?」
「あ。人間は視力弱いんやったか。」
「しかも150mくらい離れてね?」
「せやなぁ。」


もう妖精を信じるの辞めようかと本気で考え出したのがバレてすぐに「堪忍!」と謝られたのでとりあえず此処は許しておこうと思う。

蔵が言った光りは此処からだと高さ10センチほど、幅1センチほどしかない小さなもの。まぁ確かに光りだ、暗闇しかないトンネル内に突如として現れたソレは紛れもなく光り。


「あそこが…なんだっけ。」
「俺の知り合いが居る所まで行くために乗るトロッコの駅やで。」
「なんかややこしい。」


人間の駅の中に妖精の駅…しかもトロッコってどうなの。
しかしコレで暗闇ともおさらば、そうなれば蔵のややこしい説明などどうでも良くなる。
結構歩いて来たな、と振り返っても何も見えないのは分かり切ったこと。絶対に振り返らずに俺は小さな小さな光りだけを信じて蔵のあとを歩く。

徐々に光りへ近づけば、その光りが漏れているのが何かの隙間だというのが良く分かる。一体なんの隙間なんだ…とうとう目的の場所まで辿り着いた俺達は長いトンネル散歩を終了させた。
見つけた光りの漏れ、ソレはこんな場所にあるべきではない物。


「コレって、」
「おん、扉やで。」


ドアノブこそないが、まぎれもなくドア。しかし材質はトンネルと同じコンクリート。冷たく重そうなその扉がちゃんと閉まっていなかったから光りが漏れていた様で。
光りの線を作っている隙間、そのすぐ横に何やら穴があいているものの…パッと見ではドアが此処にあると気付かないだろうそのカモフラージュっぷりに感服し懐中電灯で下から上から色々照らしていれば、蔵は鞄の中からドアと同じ材質の棒を取り出し穴へ挿し込んだ。


「さ、行こか。」


棒をぐるっと回せば現代のドアのように普通に開いて行くコンクリートのそれに、自然と背筋がピンと伸びた。
此処から先は、俺の知らない世界。妖精の世界。ドキドキするし、ワクワクもした。
ドアを開き切って先に眩しい光りの中へ体を滑り込ませた蔵のあとを、いままで通り追いかけていくその最中。


(ばいばい。)


心の中で家族や友達、生まれ育った街に別れの言葉を呟いた。


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ひさびさで
おぼえてない。

2013,11,11


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