一緒に散歩ができればいい



確かに背後から聞こえた。先ほどまで見ていた鳥塚の方から。
周りには自分以外居なかったこの場所に草を踏みしめる音ではなく、


(…鳥、の羽の音…)


確かに聞こえた。
それもただの羽の音ではない、とてもよく響いたその音の大きさから察するに猛禽類が持つ様な大きな羽の音。しかし此処は山の中ではない、街からすこし離れた林の中。そんな事があり得るのだろうか。
ニュースの中でトンビが繁殖期に凶暴になるのを見たことを思い出しながら、謙也はもう1つの事を思い出した。


『人面カラスって知っとります?』


この鳥塚に出ると噂されている存在。特徴や大きさなどは聞いていなかった謙也はただ普通のカラスの大きさであるとしか想像していなかった。もしも…そうではなく人の顔に合わせた大きさだとしたら、体は自然と大きな物になるだろう。

自分の耳が拾った物音が聞き間違いかもしれない、と思うというよりも願った。


(俺は、望んでへんで…っ)


体はゆっくりと真実を確かめるために三人と一匹が待っている方から、背後にそびえ立っている石碑の…羽の音がした方へ。


(そんなん望んどるのは光や白石や…)


ペンライトが恐る恐る石碑を照らす、石碑の下から文字を逆に辿り、頭へ。


(俺は今の生活に満足しとるんや…っ!)


瞳に映る者が信じられなかった。
心の中で何度も願った、何も居ないというそういう平和を。天城と話すようになって変わった新しい日常の平穏さを。

首より下しか照らさなかったが、鳥塚の上に一匹の鳥がいる事がわかった。
ペンライトが照らしたソレは大きかった、両翼を広げれば1メートルは越えるだろう。鉤爪も鋭く、ペンライトの光を受けて鈍く輝いていた。
ただ違和感があった…首より下を照らすその光の端に、風でなびく何かが移りこむ。それはサラリサラリとなびいていて…その音に天城の髪を思い出した。絡まり知らずの髪を。

そう、髪だった。


「…うそ、」


光を上へ上げれば、視線が合った。謙也と同じ…鳥の体の上に合成されたのではと瞳を疑うほど自然に合わさっている人の顔。人面カラス…その瞳が謙也を捕えると、にやりと唇は弧を描いた。
非現実な光景、あり得ないはずの存在に謙也は動く事も叫ぶ事も出来ずただ眺めてしまっていて。足がすくんだわけでも腰が抜けたわけでもないのだ、ただただ足の裏から根が生えてしまったかのように動けないのだ。

そんな謙也など気にもせず…カラスは、言葉を、吐き捨てた。


『アト 100日後ニ 誰カ 死ヌ』


掠れた女の声だ、謙也が耳に届いた声をそう分析している間に、人面ガラスは残酷な言葉を吐き捨て満足げに両翼を羽ばたかせ石碑から浮き空高く飛んでは闇夜に消えていった。髪をなびかせながら真黒な体を誰にも見つけられないように。

羽ばたく音も、掠れた女の声もしなくなった鳥塚の前。謙也はただ何もできずに鳥塚を照らし続けた。
ザァっと風が吹けばこすれあう葉の音を聞いているはずなのに…耳にはあの声と言葉がこびりついていてソレしか聞こえなくなった様に何度も何度も再生される。
その何度目かの再生される声とともに、唇は少し震えながら言葉をなぞってみる。


「あと100日後に…誰か、死ぬ…。」


その言葉を吐き出すと今までの硬直が嘘のように、ペンライトを持っていた手から力が抜け地面へ落としてしまう、どさりと地面から音がすればやっとあぁ…戻らなくては、そう思い出す。
ペンライトを拾い、柵に引っ掛けたシャツも持って、走ることなく歩き戻る。肝試しなど中止だ、適当に嘘を考えながら道を戻る中、財前から聞いた噂を思い出す。天を仰げば月が煌々と輝いていて…無性に泣きたくなった。


「…俺、死んでまうのかな…。」


人面カラスに会った大学生が肝試しから100日後に自殺した。
謙也もまた、その道をたどってしまうのかもしれない…見えない何かと戦うのはどんなに怖いことなのだろうか。

100日後、4人で一緒に散歩へ行けるのだろうか。

生きたいのはもちろんだが、謙也は大きな事は願わなかった、ただ一緒に笑って散歩ができればいい…今と変わらない生活ができればソレだけでいい。


100日後はやってくる。
その時、自分はどうなっているのだろうか。

見えてきた三人と一匹に思いを馳せながら、謙也は笑った。


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一応
此処で終わっておきます。
続きはポンポン出ますが、
まぁ機会があれば…。
自己満足作品にお付き合い、ありがとうございました。
『夕/闇/通り/探検/隊』を元にしたパロでした。

2013,08,27


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