にゃんぱら。



何やっても平凡、もしくは平凡以下だった。
テストも赤点を免れはするが決して褒められる点数ではなかった。
体育も出来ないわけではないけれど目立つことはまずない。
就職先もいたって普通の企業で、そこで今も可もなく不可も無く働いていて…これで何年目の春を迎えるのだろうか。

平凡な大卒ルーキーは、3年の時間を経て煙草を好む大人になりました。酒は好きじゃないんだけどね。

スーツを着るのも慣れたもの。ネクタイだってお手の物。ただワイシャツのボタンは1つ外し、そしてネクタイも少しばかり緩く巻いている。もう当時の初々しさは一切ない。
そのせいなのかね。


「はぁ…。」


期待されている大卒新入社員がキラキラ眩しかったよ。はきはきと自己紹介するその姿を見た後の煙草の味ときたら…美味いのに苦い。
こりゃ油断したらお役御免と部署を飛ばされかねないぞっと、自分に言い聞かせながら煙草の火を消して喫煙ルームを出る。今は休憩じゃない、もう帰るだけ。帰り道に歩きながら煙草を吸う事を非難されるご時世だから、こうやって仕事終わりは煙草を吸ってから帰る。歩いて10分程度なんだけどね。

それに、家で吸うのも少し前から辞めているし。

鞄を持ち直して、ただでさえ緩めのネクタイをさらに緩くして。ボンヤリ空を眺めながら帰る…なんて、風流なもんじゃない。これからの自分の立場に着いて真面目に考えながら。


(俺、給料下がったら困るんだけど。)


ウジウジと背中を丸くしながら歩く帰り道の長い事。やってられなくなりそうだ。まぁソレも家に帰れば忘れられるのだ、と言い聞かせる。

俺の家はまぁまぁなアパート。古くも無く新しくも無い、家賃も都会にしてはそこそこ安い。近くにコンビニや駅もあるし穴場物件だと思う。しいて言うなら、俺の以外の住居人が新婚さんあるいは同棲中の恋人ばっかって事が辛い。

三階建てのアパートの階段を静かに上がっていく。小さなお子さんがいるご家庭もあるわけで。今は19時、アニメとか面白い番組で家族一緒に楽しんでいる頃だろうし。
仕事終わりに三階まで階段で上がるっているのはキツイ、息が若干切れる。鞄のいつものポケットに入れている何処か神社のお守り付き鍵を取り出して、あぁやっとゴールだ、とさっさとスーツを脱ぎたい思いに急いで鍵を開け扉を開ける。

がちゃり、と捻ったドアノブ。一歩踏み込んで真っ暗な玄関の中へ。扉を後ろ手で閉めながらしっかり鍵を掛ける。

すると、居間の方からトットットッと小さな足音が聞こえてきた。


「…ただいま。」


疲れ切った体を床に腰掛けさせれば、全身から力が抜けた。そのつもりもないのに、ばたっと倒れこんでしまっていた。
ソレをラッキー、と思ったのかは分からないけれど。


「うなー。」
「のわ、」


少しはねっけある淡い茶色の毛が優しい雰囲気を醸し出す美猫登場。ただし登場場所が良くない、俺の顔に前足を乗せるな。


「蔵、おりろ。」
「うー。」
「嫌じゃないだろ。」

ちょい、と首根っこを掴んで持ち上げ床に下ろせば、暗闇に慣れた瞳がすぐそばにもう一匹いるのを見つけた。
金に近い不思議な色をしたフワフワの毛の美猫、あ、さっきから美がついているのは多分「親バカ」だからだと思う。いや可愛いよ?全員美人さんだよ?オスだけど。
どうにも蔵に先を越されてしまったようで。俺に撫でられるのを待っているようだ。謙也は普段足が速いのだけれども、こうやって俺が外から戻って来た時は遠慮しているのか飛びついてこない。


「謙也、ただいま。」
「にゃ、」


名前を呼んで頭を撫でれば嬉しそうに瞳を閉じながらすり寄ってくる。可愛いったらありゃしない。別に気を使う必要なんかないのに。
さて、と猫のためにも立ち上がって居間へ歩を進める。きっと腹が減っていることだろうに。壁のスイッチを押して居間の明かりをつければ、もう一匹の美猫が俺のデスク上のパソコン横でこちらを見ているのを見つけた。
真黒なつやつやの毛並みが綺麗な美猫、俺と目が合えばおかえりと言っているように「なぉ」と一鳴き。


「光ー、たまには玄関まで来てくれよー。」
「なーぉ。」


フィッと横を向いてしまった…面倒くさいのか?泣くぞ。

俺はこの三匹を拾った。三カ月くらい前、寒い日だった。帰り道の途中に落ちていた段ボールの中から聞こえた鳴き声に反応してしまって、開けて蹲った小さな三匹を見た瞬間、段ボールを抱えていた。
家に猫のためのご飯も何もないのに、考えなしに小走りで帰った。猫なんて飼った事も無いのに。

ただ、三匹を見た瞬間、俺の頭の中に浮かんだのは俺の家でのんびり暮らす大きくなった三匹の姿だった。
縁だ、この三匹と生きる縁なんだってドキドキした心臓の痛みを今も覚えている。

それから家で煙草を吸うのは辞めた、火は危ないから。休みの日に一応念のためにと動物病院に行ったら遊び盛りの子猫だと言われたから絶対危ないと確信したのでね。
それと、コイツらは俺の仕事への思いも変えてくれたのだ。


「ご飯にしますか。」
「うなー」
「はいはい分かったって。」
「にゃーぁ」
「落ちつけって。」
「…なぉ」


ご飯くれと足元に集まってくる三匹の姿を見るとね、頑張って働かなきゃって思うわけよ。
1人と三匹、一緒にのんびり暮らす生活を守ろうってね。


「にゃぁ!」
「あ、蔵!謙也のご飯食うなよ!」
「うな」
「って、光も謙也の食うな!」
「なぉ」
「パンチするなコラ!!」


なかなか、のんびりとは行かないけどな。


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ねこねこ。逆も考えたことあるけど、
コッチの方が可愛いかなと…
これらが人型になるのも楽しそうだけど、なにせ長い。
諦め半分です。

2013,06,15
2013,07,12移動


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