コンビニで買える恋とはなんぞや



コンビニって便利ですよね、はいコンビニ勤務3か月の高校一年生天城慎ですどうも。
最近のコンビニときたら何でも揃えちゃってて品出しするこっちの身にもなれよと上層部に言いたくなるくらいだ、あと店内調理するもの増やしすぎ。

そんな不満たらたらな俺だけど、悲しいことに人手不足により辞めることがかなり難しい状況。だいたいこのお店、近くに中学校あるのに人いないとかどうなってんの?
これが放課後になるとじゃんじゃんやってくるわけ、買い食いはじめ文房具とか雑誌とかエロ本とか…おいこら中学生ーなんて怒りたいけれど同じ男だ分かるから何も言わないけどね。
それぐらいなら良い、別に馬鹿にされているわけじゃないし。みんな団体でやってきてチマチマ小っちゃい買い物するのが少しイラッとするだけ、笑顔でちゃんと接客してるしね。


「今日は何時までなんじゃ?」


こいつは例外だけど。

寒くなったよね、本当布団から出るのが困難なくらい。だから首に赤チェックのマフラーをしっかり巻いているわけね。それが白い髪に似合っていてなんていうかもう…憎い。
レジカウンターに肘ついて上目使いで俺を見てくる近所にある中学校の制服着ているこいつ(年下だからこいつ呼びでいいんだよ)、確か仁王だって名乗っていたはずだ。無駄に大人びた整った顔が憎たらしい奴だ。

つーかさー年上しかもコンビニの店員さんに何言っているわけこいつ、10円引きのシールはってやろうか貴様。
働き始めた3か月前、シフトに入ると必ず現れるようになったのが仁王だ。最初の一週間くらいだったかな…それくらい早い時から俺はこいつに目を付けられた。
品出ししていると隣に並んできて俺が持っていた期間限定わさび味のポテチを指さし「それ、美味いんか?」と聞いてきたのが始まり。その時は食べたことなかったしお客様だと思っていたから丁寧に「きっと辛いと思うんで、辛いの苦手だと食べれないんじゃないですかね」って優しく答えたんだよ、そうしたらにっこり笑って御礼言ってわさび味ポテチ買って手振って帰ったわけ。

そしたら翌日からシフト入っている日に必ず現れて、品出ししていれば隣に並ばれ話しかけられレジカウンター内に引きこもれば今のようにカウンターに肘ついて話しかけられるという。


「聞こえちょらんか?何時なんじゃー。」
「あー聞こえない聞こえない、何も聞こえない聞こえない。」


俺さ、週4でシフト入れてもらっているわけ。火曜日と水曜日と金曜日と土曜日で。こいつさ毎回来るんだよ、何曜日だろうと何時だろうと必ず来ては俺を2時間くらいからかって何かしら買い物して帰るんだよ、中学生のくせに財力おかしい。
くっそ今日は手にノートとファッション雑誌とジュースもってやがる、さっさとお買い上げして帰ってくれないかね…!
他にもお客さんいるけれど、もう三か月も前からやっている俺とこいつの籠城戦に常連さんは「いつものね、はいはい」みたいな感じだし。つーかこの店常連ばっかきて新規さん全然こねぇし!誰か助けろよ!


「暗くなるの早くなったじゃろ?送るぜよ。」
「年下になんでそんな事心配されなきゃならないんだよ、中学生ははやく帰れよ!」
「見た目は同い年かそれ以上じゃろ。」
「うっせ中学生!制服で分かるんだよ中学生!」


今何時だと思ってやがるんだよ、19時だよ帰れ晩飯食って風呂入って宿題やって寝ろ。すこやかに寝て俺のことなんか綺麗さっぱり忘れてしまえ!
手に持っていたノートやらを奪い取ってスキャンしながら睨みつけて「子供のくせに」と言えば「おまんも同じじゃよ」と笑われる。イケメンって笑顔がずるいよな、だって笑顔向けられると怒っていたことが馬鹿みたいに思ってしまいそうになる。
綺麗な笑顔だよ、本当無駄。俺みたいな普通のに向けるだけ無駄っていうかここでこうやって俺をからかっていることが無駄だ。
何が楽しいんだろうな、コンビニの店員をからかうのって。される側は迷惑極まりないだけだ、やる側のメリットってなに?暇つぶし?

わざわざ手渡しされた1000円札を受け取って、おつりをレシートにくるんで適当に投げる。お互いがお互いとどう思っているのか良く分かる瞬間ですね、そーですね。


「買い物終わったお客様はお帰り下さいゴーホーム。」
「そんなこと言う店員さんは天城くらいじゃな。」
「年上を呼び捨てすんな。」


カウンターから出て悠々とおつりをポケットに突っ込んだ仁王のマフラーを引っ張る。しゃんと立たせたなら肩を押して自動ドアの方へ無理やり歩かせる。これがこいつの帰り方ですいつも通りですむかつくね。
俺よりも背が高い年下は終始笑いっぱなしで買ったものを詰め込まれたビニール袋を抱きしめながら「そこまで言うならしょうがないのー」なんて馬鹿言いやがる。
今日は火曜日かよ、明日もこれやるのかよふざけんな。背が高いだけじゃなくて体格も良いこいつの相手はいつも疲れる。本当にやめてほしい、切にそう思っている。本当の本当に勘弁してほしい。

自動ドアのセンサーが人を確認して音楽を鳴らしながら硝子戸をゆっくり開く、今日からだいぶ冷え込んできたらしく吹き込んできた夜風はヒンヤリとしていた。制服は半袖で腕に当たった風に肩を押す力は少し弱くさせてしまうくらい。
あーやだな、今日はマフラーしてきていないんだよ…一時間後の帰り道のことを思って顔を顰めていれば、赤チェックのマフラーを巻いた首を動かし俺の方を見たこいつは、フッと力を抜いて柔らかく笑った。


「寒いのは嫌って顔に出とるぜよ。」
「…中学生、ゴーホーム。」


図星、でもその通りと認めるわけにはいかない。適当に突き放す言葉投げれば「はいはい」と軽い返事。そして自分の力でやっと外へ一歩歩き出してくれた年下…抱きしめていたビニール袋を左手で持って、右手で巻いていたマフラーを乱暴に外して。


「香水くさいかもしれん…まぁあるだけマシじゃろ。」


格好つけ、俺の首にわざわざ巻いてからいつものように笑い手を振り「またくるぜよ」と言い残して去っていく…今日は、赤チェックのマフラーも残して去って行った。
自動ドアのセンサーが誰もいないだろうと察知して硝子戸を締める、店内と店外に隔たりが生まれ格好つけた年下が寒空の下歩いていく背中が見えにくくなる。代わりに硝子戸に映りこんだ俺は、なんていうかミスマッチ。
コンビニの半袖制服には似合わない赤チェックのマフラーとビックリしたまま停止した顔、なんていうか本当にどっちが年上なのか分からない。


「…店員さん、お会計。」
「えっ…あ、すいません!!」


常連さんに声を掛けられて慌てて動き出せば、軽くかけられただけだったマフラーが落ちそうになった、でもギュッと、ギュッと握りしめた。落とさないように。


「寒いのう。」


首元から無くなった温もりを必要でもないし不要でもないものが入っているビニール袋で代用できないかとギュッと抱きしめている力くらい、ギュッと。




コンビニで買える恋とはなんぞや




「返す。てか中学生が香水とか生意気だろ。」
「偏見じゃ、何歳だってお洒落する権利があるなり。」
「つか何買いに来たんだよ帰れよ。」
「今日はそーじゃのー…天城でも買おうかのー。」
「死ね。」


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こういうのを
書くわけじゃなかったんだけど…
普通のお話を
書こうとしてたら
これが出来上がっていた

コンビニ店員らぶ
いかがでしょう。


2014,11,21


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