そして咲く



試合=ショータイム。
自分=舞台役者。
仲間=盛り上げてくれる仲間役者。
試合相手=自分達を引き立てる役者。

それ以外の自分=『   』


「あー…」


自分の演技は天才的、なんだ。ただ実際の自分はどうにも上手くいかない。
試合の時は華麗に点を取り美しく咲き誇る花の様に、常勝の言葉に恥じない演技を。
ただそれはその時だけの寂しいもので。
華やかさの後ろには影がある、自分もまた、影を背負うただの人間である。


「またやっちまった…。」


自分の部屋の扉に背を預けてはズルズルと座りこんでいく。お尻が床にくっつけば、膝をたてて顔を覆い隠す。

弟達に当たってしまった、八つ当たりした。
たまにやってしまう。上手く演じれない時、上手くパートナーと息が合わせられない時、常勝の言葉に泥を塗りそうになった時…上げれば切りがないほど。
俺は試合をショータイムとして楽しみながら勝つ半面、たまに息詰まる。いきなり「なんでこんな風に試合しているのだろうか」と訳が分からなくなる。

だって、たかがテニス。


「たかが、」


演じるのが好きならば演劇部にでも行けばいい。スポットライトを望むのならそっちへ行けばいいじゃないか。
でも俺は、ソレをテニスで求める。テニスには自分を照らすスポットライトもなければ演技を褒めてくれる評論家も自分の演技を導く指導者もいない、正しいのか正しくないのか分からなくなる。

素直にテニスをすればいいのに。何度も自分の演技に疑問を投げつけた、けれどいつも行く先は決まっている、こうじゃなければ楽しくない。

赤也の様に。
強い奴を倒すのを楽しめるわけでもない。
真田の様に。
約束を守るため一途に挑めるわけでもない。


「……俺って、」


なんなんだよ。

1人部屋で丸くなって大好きなはずのテニスを、自分のテニススタイルを殺してしまいたくなる。電気もつけず1人呟いては闇に消えてしまいたくなる。

このまま、このまま…そうすれば、誰も困らない。
俺に八つ当たりされてしまう弟たちも困らない、両親も安心してくれる、こんな俺を心配してくれる奴はいないさ、このまま…


「丸井ブン太は、人を引き付ける美しいテニスをする才能と努力を持ち合わせている。」


この部屋には、俺しかいないはずなのに。
バッと顔を勢いよく上げれば開いた覚えのない窓から、吹き込む風がカーテンを大げさにひらひらと泳がせているのがまず目に入った。次にそのカーテンに包まれながら、暗闇の中に確かな存在感を示す1人の知らない存在があった。

なんで此処に人が…そう口を動かそうとする前に、ソイツは口を動かした。


「君は欲の塊だ。」
「……は、」
「大丈夫、今のままでいればいい。そのまま真っ直ぐ歩いていけば、たくさんの歓声が君を認めてくれる。」


その唇から紡がれる言葉が、あまりにも難しくてどう返していいのか分からないし理解するのも追いつかない。満足げに笑うソイツに、俺は何も言えなくて。
不法侵入とかどうやってとか、なにも言えない。

ただその綺麗な声を、もっと。

そう願ってしまっていたり。


「花は咲き誇る。試合で君と言う花が咲くのなら、私生活では蕾のままでいいんじゃない?」


ただし、枯れないようにね。




そして咲く




「なんか今日の丸井先輩、絶好調っすね。」


コートの外で赤也の声が聞こえた。誰と話をしているのかは知らないけれど、褒められたのは分かったからどうでも良いかと思う。
たとえば踊るように走り、たとえばセリフを言うようにガムを膨らませ、たとえば大げさに演じるようにボールを打ち返し。

たとえば、誰よりも輝きたいと花の様に咲き誇ってみたり。


「どう?天才的だろぃ?」


つつー…とネットの上を渡るボールに、口の端が上がる。
今日の俺は…間違えた、今日も俺はショータイムを楽しむ。今まで以上に、これからも。

昨夜の数分の時間をもう一度、と願いながら脳裏に焼き付けた不思議な存在を思い出しながら。


「…つーか、アレは誰だったんだ?」


もしかして、テニスの神様?…まさかな。


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2013,07,10


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