事×4



「やっぱ此処におったと?」
「…なんで見つけるんだよ、馬鹿野郎。」


学校は広いです。無駄に。でも三年間も此処にいれば流石に迷子にはならない、むしろいい隠れ場所とか色々秘密を見つけてしまうもの。
立ち入り禁止とは言葉だけの鍵がかかっていない屋上も校庭の隅にあるボロボロの旧体育倉庫も埃っぽくて古い匂いで充満している資料室も、かくれんぼをするなら丁度良い。サボったり1人でボンヤリしたり眠ったり…そのために探しだしたベストな場所。

でも、必ず一人にはバレてしまう。


「なんね、そぎゃん言い方。」


カラリと笑う大きな男、千歳千里は同じクラスの同じサボり仲間。
仲間…とはいえ俺達は一緒にサボろうとか話したことは無い。たまたまお互いサボった時に屋上で鉢合わせになって、千歳から話しかけられ無視するわけにもいかず2時限くらい一緒にサボった。
そうしたらどうだ、千歳は暇つぶしの相手が出来たとでも思っているのかサボるたびにかくれんぼが始まる。何処に居ても隠れても、必ず見つけられてしまうのだ。

そのせいで睡眠時間はガクッと減った、今日だって図書室の本棚と本棚の隙間で体育座りして寝ようとしていたのに。


「なんで見つけるんだよ…。」
「ここで寝ると?外の方が気持ちよかよ。」
「お前がいると思ったから此処にしたんだよ。」


そんな俺の気も知らずにしゃがみ込んで首を傾げる千歳は笑っている。
サボるなら一人で勝手にサボってくれないだろうか、今までも何度だって「探すな」とか「話しかけんな」とか冷たく言ってきたが効いた試しはない。不屈の精神か、はたまた馬鹿なのか。
今日も寝れないのか、膝に額を当て「うぜー」と心底からの声を洩らしてみせれば俺達だけしかいない図書室に響いた千歳のあくまでも爽やかな笑い声。

しかしコレで隠れる場所は残り少ない。あとは空き教室とか体育館の倉庫か更衣室か放送室か…トイレは鍵がかけられるけれど絶対に嫌だ。
思い当たる所を上げて見れども、今までの例もあって隠れきれる自信は残念ながらない。連敗記録は伸びるばかり。


「…お前さ、なんで俺の事見つけられるの?」


決して統一性のない気まぐれな隠れ場所、ソレを的確に見つけ出す。俺が単純だとか見つけられやすい所にいるとかじゃないのに何故かピタリと見つけられる。
顔を上げて疑問という名の不満を投げれば、笑顔をそのままに頬を掻いて幾拍かの間を空け千歳は首を横に振った。


「特別なことはなんもなか、ただなんとなくったい。」
「なんとなく?」


それでこれだけ見つけ出せるなら、是非警察犬にでもなるべきだと思う。でもそんな理由で満足なんか出来るはずもなく。訝しげに顔を歪め見ているとやっと笑顔を消して「んー」と唸りだした。
何もなくて見つけられるとなると、もうこのかくれんぼに勝つことは不可能になる。そうなると俺の平穏なサボりライフが壊されることになる。それだけは避けたい。

が、肝心な千歳から返ってきた言葉と言えば。


「俺の名前、千里っていうばい。」
「…知ってる。」
「名前通りに千里眼ばあるかもしれんったい。」


答えにならない答えだけ。
コイツは何を言っているんだ、呆れ見ていればニシシと笑い呑気に俺の頭を撫でまわされる。ぐしゃぐしゃと大きな手に混ぜられた髪で視界が少し妨害されて、憎たらしい笑顔は見えないけれど不愉快極まりない。

しかし…馬鹿馬鹿しいと思う答えに何処か納得してしまっている俺が此処にいる。
千里眼があるから今までも見つけていたのだと思えば、どう言うわけかしっくりくるんだ。だって資料室の本の山の中で眠っていても見つけられるし旧体育倉庫の跳び箱の影で眠っていても見つかられたし。


「一緒に外で昼寝ばせんね?」


今日は綺麗に晴れている、でも風が少し強くて気持ちいい夏の日。外で寝ないと損をしてしまいそうだ、とは思っていたけれど千歳と鉢合わせるのが嫌で図書室を選んだ。つまり見つかってしまった以上、図書室で寝る意味は無い。


「…お前と居ると、疲れる。」
「どぎゃん意味たい。」


この世には敵わない奴がゴロゴロ転がっているそうだ、その中の一人は紛れもなく千歳なのだ。これ以上無駄な抵抗はやめて、溜め息吐き出して立ち上がった。しかし問題は屋上で寝るべきか裏山で寝るべきかだ。
それと、もうかくれんぼに絶望を見いだしたのなら隠れるのを止めてしまえばいい。つまり千歳の事を認めてしまえばいい、一緒にサボる仲間なのだと。
だっていつも見つけられて一緒に喋って時間を潰しているのだから。そろそろ認めざるを得ないのだろう。


「今日は裏山の気分なんだけど。」
「陽射しが強か、木陰で寝たら気持ちよかね。」


千里眼を持つ千歳千里、悪い奴ではないよ。ただ少し人懐っこすぎるだけで。
後に分かる事だけど俺と千歳は思考が似ているらしい、だから隠れる場所が分かっていただけだったと。




俺が考えている事は
 君が考えている事で
君が考えている事は
 俺が考えている事で




一緒にいて楽しい人というのがある。理解してくれて言った事に笑ってくれる、そんな単純な事が出来る人。
先生にサボる事を咎められた、親にも何度か怒られた。でも千歳はサボる事を辞めろなんて言わないし寧ろ自分も進んでサボっている。
くだらない事にしろなんにしろ、言った言葉に返されるのは基本笑顔。そして負けじとくだらない事やどうでも良い事を言ってくる。

時たま、兄弟かもしれないと疑うほどに。


「千里、お前ってさ妹だけしかいないよな?」
「急にどぎゃんしたと?」


まぁそう思っているのは俺だけだけど。


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思考の9割
同じ
残り1割は
千歳の胸の中


2014,07,22


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