一日千秋



でっかい立海大付属で、ソレはきらきら輝いていた。けれど見つけるのに二年とちょっとかかった。


「ブンちゃん、最近上の空じゃの。」
「…ん……おわっ!?」


だるい音楽の時間、出席番号順に座れと言われてっけどクラスメイト達は案外自由に座っていくから俺も適当に座った…そこまでは覚えてるんだけどよぅ。気付いたら先生音楽室に来てるし仁王が隣の席に座ってた、ぜんっぜん気付かなかった。
時折無意識で膨らましたフーセンガムが破裂することなく、ただ空気が抜けしぼんでいたのはなんとなく覚えてるんだけど…それ以外はあんまり覚えてねぇ。
「じゃ授業始めますよ」と先生の合図で日直が号令をかける、その間も仁王の奴が興味ありげに俺の顔を覗き込んでくる、そういうところが苦手なんだよぃ。
はぁ、と溜め息吐き出して席に座りながら仁王を睨めば返されたのは笑顔。絶対馬鹿にしてるだろぃ。


「…べっつに。」
「ほぉー?」
「……なんだよぃ。」
「べつに、じゃな。」


先にだした俺の言葉を借りて誤魔化す仁王の笑顔は深くなるばっか。俺が隠し事している、それがバレちまっているらしい。
同じテニス部の仁王に隠し事をしっぱなしって言うのは後々面倒が起こるのが目に見えているんだよぃ、赤也辺りにでも「悩みがある」とか適当に言っては騒がせるに違いない。
俺はそこまで頭良くない、でもわかる。同じレギュラーとして仁王って奴の事を無意識で要注意人物だって警戒してるんだろぃ。
だから此処はある程度までなら話しておく、ソレが最善だと思うわけ。
先生の話しを無視して仁王の方を見ないで一度ガムを膨らまし、今度はパチンッと破裂させてから声をひそめ話しだした。


「気になるんだよぃ。」
「誰がじゃ?」
「…右斜め、三つ前の。」


一個前の授業、数学が終わって。
俺は教室で新しいガムを出しては少しだけ時間を遅らせた、わざと。そうすればクラスの大半が音楽室へ先に行くだろぃ?

その大半の中に、目的の人がいる。
背は俺よりも低い。目立ったことする奴じゃない。図書委員。眼鏡。ぶっちゃけ、地味な奴。
ちょっと前に俺が図書室で勉強しようとして寝てた所を見つけて起こしてくれてよぅ、しかも勉強教えてくれたんだよぃ。
なんてーか…あの時が、離れない。分かりやすく公式を解体して一から教えてくれる声も教科書の文字をなぞる指先も、要領を得ない俺に笑って教えてくれた細められた瞳も。
それから、俺は俺より小さい背中を見ることが増えた。これは意識して増やしていた。決して振り返ってくれない背中を、ただ馬鹿の一つ覚えみたいにじーっと。

ソイツは音楽のときだいたい前の列の端に座る。だから遅れて行って前の方に座っているのを確認してから、俺は後ろの離れ過ぎない席を狙って座る。そうして後は興味ない音楽の授業の内容なんか聞き流して…後ろ姿を眺める、それだけ。


「アイツ見てると、満足するんだよぃ。」
「…プリッ。」


仁王は聞いて来た割に、あまり理解できてねぇだろう俺の答えに口癖を1つ。ソレ以上俺も言う事なんかないし、また飽きることなく小さな背中を見た。
あの日みたいにまた図書室へ行けば、勉強教えてくれんのかな?それとも今度のテストで良い点取って「あの時教えてくれたおかげだろぃ」ってお礼を言いに行けばいいのかな?
もう少しだけ近くへ行きたい。でも考えるばっかで実行しないのは分かんねーんだよぅ、どれが一番いい行動なのか分かんねーんだよぅ。

そうして今日も時間ばっか流れて行くんだろぃ?まったく酷い話だと思わね?じっくり考える時間ももらえねーなんて。


「一日千秋、じゃの。」
「は?」


急に出された言葉は、聞いたことのない物。なんだそれ?と思わず仁王の方を振り向けばニシシと笑い返されるだけ。何かを意味しているんだろうけど、俺は知らないし切りだした当人は笑うだけ。
どう言う意味?って見ていても仁王はもう話すことはないと正面向いちまった。気分屋な奴、たまにあるけど慣れない振りまわしに付き合ってられないと俺も前を向く…けど、視線はやっぱり、


(きっと真面目、なんだろぃ。)


いつも変わらない姿勢正しい目的の人。少しでいい、俺の方を振り向いて顔を見せてほしい。




一日千秋




眺めるだけの音楽の授業を終えて、教室へ戻るやスマホの辞書で一日千秋を検索して、俺は仁王を睨んだ。


「余計なお世話だろぃ!」
「今のブンちゃんにぴったりじゃろ?」
「うるせッ!!」


仁王を蹴ってギャーギャー文句を言う、それを教室へ戻ってきた目的の人が遠目で見ていたらしい。仁王が言ってたから嘘かもだけど、見られていたらそれはそれで恥ずかしいだろぃ。
案外的を得ているその言葉、悔しくてしょうがねぇけど今だけは素直に受け取っといてやるよぃ。


「いつか『じょういとうごう』になるからいいんだよぃ。」


夢を見るのは自由だろぃ。仁王は「そうじゃな」と笑って俺の肩をポンとたたいた。
未来を夢見る俺と何も知らない目的の人、俺達はまだ存在を認めあって数日程度の関係。


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一日千秋 いちじつせんしゅう
切実に恋に慕う気持ちや、人や物事を待ち遠しく思うさまのこと。
待ちこがれる気持ちの切なるさまを言う。
「千秋」は千年の意でたった一日が千年の長さにも感じられる事。


情意投合 じょういとうごう  
二人の気持ちが互いに通じ合う事。
「情意」は気持ち、「投合」はぴったり合うの意。


久々のぶんぶん。
誰コレ状態。


2014,06,24


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