問1



「やから俺にしとけっちゅーたやんけ。」


教室に響くほど大きな声で胸をはる俺の友人が今だけ邪魔でしょうがなかった。
つい昨日の事、俺は恋人に「別れましょ」と言われてしまった、理由は簡単なもの…俺が想像と違ったから。
もっと優しいかと思った、もっと大事にしてくれると思った、もっと愛してくれると思った…言われた言葉に思い当たる節があって俺は最後に一言言うだけ、「しょうがないね」だけ。
たった数カ月で1つの恋があっけなく終わりを迎えた。ソレに皆は「また次がある」「もっと良い人見つかるよ」とか慰めてくれる…のに、


「謙也って、最低だよな。」
「なんでやねん。」


目の前の謙也は、まず最初に「よっしゃ!」と叫びながら派手にガッツポーズを決めやがった。
理由は…知っているんだ、入学してからずっと言われ続けていたから知っているんだ。
でも認めたくない、なにが楽しくてコイツは同性のいたって普通の…優しくもない大事にもしない愛しもしない俺へ真っ直ぐ「好き」と思いをぶつけてくるのだろう。

でも謙也に此処で慰められたら、それはそれでとても苦しいものだったに違いない。むしろこうして喜んでもらえた方が俺としても別れた意味があったというか…いや別に謙也と付き合う気なんか一切ないけれど。見た目ならかなりレベルの高い謙也と言えど、付き合うなんて考えられない。
何はともあれ、謙也だけは笑ってくれる…ソレだけが今は救いだった。気が楽になる、ふっと肩の力が抜けて机に肘をついて頬杖をつく。


「俺が悪かったんだよな、きっと。」
「そんなん理想を求め過ぎた相手が悪いやろ。」
「でも思い当たる事だらけだったから。」


優しくないっていうのは、どうやって気を使えば良いのか分からなくて距離とっていた所があったから。
大事にっていうのは、もっと構ってあげればよかったのに一緒に帰る事もなかったし電話もメールも俺からしなかったから。
愛してくれないっていうのは…その全てだ。相手の事を友達の枠から出してあげられなかったからなんだ。

だって、知らない。好きになるって言うのも恋って言うのも。

まぁ告白されたからって二つ返事でOKだした俺にも問題あったけど。想像の俺はどんな奴なんだろうか、何でもできるスーパーマンだったのだろうか。
今更なにも出来ないけれど、ちょっとだけ聞きたくなった。開きっぱなしの教室の扉から廊下を見たって、あの子は見えないし俺がいるこの教室へ来ることはない…いや期待なんかしていない、会いたいとも思わない、けれど…。


「謙也。」
「おん?」
「なんで俺の事、好きになったの?」


あの子に聞きたい事を謙也に投げてみる、俺が聞きたい答えではないのだろうけれど。
だってあの子は言った、俺の事が気になりだしたのは去年の冬だったと。それに比べて目の前の友達は入学当初からだ。


「理由なんかあらへんよ。一目惚れっちゅーやつやったから。気付いたら好いとって、そっから全部好きになってったんやから。」


ねぇ、昨日の君。
俺に告白してくれたあの日、君は今の謙也と同じ思いでいてくれたのかな。
俺は君にそんなこと…一度も思えなかったんだ。


「……そっか。」
「おん、せやから付き合わへん?」


でも、今。
少しだけ胸が苦しいよ。心臓が縮こまる様な息苦しさと焦っている時に感じる脳が機能を停止した様な虚空を感じる。




問1
 今の気持ちを
 簡潔に述べなさい。




「それはないって。」


頷きかけた、あと少し悲しみが深かったら頷いていたに違いない。
拒否の言葉に謙也の顔が不満げに歪んでいく。今までだって何度も拒否してきたのに、まだ飽きないらしい。見習いたくなる愛情と懐の深さ、直して欲しい執着と真っ直ぐさ。


「もうちょっと頑張らないと惚れられないよ。」
「…よっしゃ、そんなら遠慮なくアタックしてったるからな。」


今だけ通じる俺の我儘に笑ってくれる謙也、また息苦しさが増していく。
でもどうしてだろう、凄く嬉しくて楽しみにしている俺が確かに存在している。想像の世界ではなく現実に。




 ワクワクしている。



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ちょっと
おせおせな
謙也。


2014,06,24


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