不慣れな



『ただの不良、凶暴な奴』


彼を知ったのは結構昔、噂で聞いて実際に見て素直に尊敬した。
ただその性格と生き方や人との接し方…つまりはテニスの才能以外の悪い所が目立つばかり。
実際は悪い奴じゃない。確かに喧嘩よくするし口も悪いし素行も良くない。

けど、いい所だってある。


「亜久津、買い物行かない?」


久々に山吹へ顔を出せば千石が五月蠅いばっかりで亜久津の姿を見つけられなかった。だから壇君のお手伝いをして情報を貰って公園へ足を運べば、ベンチで横になっているふてぶてしい真っ白な奴。

そろりそろり、近付いて上から顔を覗き込んでさっきの言葉を投げかけた。久々に会った亜久津の顔はまた少し怖くなっていた。なんていうか迫力が増したね。


「…なんだテメェ、コッチにきやがったのかよ。」
「久しぶり。」


亜久津とは引っ越しする数カ月前に会ったっきりだと思う。直接引っ越すとは言えなかったけど、千石達からその話しを聞いた日、彼から初めてのメールを貰ったのを思い出す。


「なぁ、どうなの?」
「あぁ?」
「買い物。」


昼寝の最中を邪魔した事を怒っているのか、眉間に皺をよせギロリと俺を睨むその眼光の鋭さは相変わらず。久々に間近で見るとやっぱり怖かった。
でも臆する事なく横になっている亜久津の足の方はまだ若干のスペースを残していたので、遠慮せずにお邪魔させてもらう。ベンチに座れば邪魔だと言いたげに背に当てられた靴底、力は一切籠っていないからいいけどさ。


「どけろ。」
「これは公園のベンチであって亜久津の所有物じゃないだろ。」
「邪魔だっつってんだ、どけろ。」


何度か優しく蹴りを繰り返す足に、優しい奴だと思う。そんなの思うの俺だけかもしれないけれど実際にそう思うのだからしょうがない。
今日は天気がいい、そろそろ桜のつぼみが膨らみだしても可笑しくない陽射しを見上げて今一度「どうなの?」と問いかける。
眩しい日差しは白く見え瞳に突き刺さる、白は亜久津の色。逆立てている綺麗な髪色は優しさを含みだした風にゆらり揺らめき透けて見えてしまう。


「久々に会ったんだし、たまにはいっぱい話そうぜ。」
「…チッ、しつけぇな…。」


春は三寒四温、寒さと温かさを乗り越えた先にやってくる。俺はその言葉を見かけるたびに思う、あぁ亜久津みたいだなと。

ただ、亜久津の場合は三温四寒かな。

ベンチから立ち上がって亜久津の腕を掴んで引き揚げれば、さっきよりも睨まれるけれど決して逃げたりしないし嫌がりもしない。蹴られも殴られもしない。
人は言う、亜久津は危ない奴だと。関わらない方がいいと。
たしかにそうかもしれないけれど…こんなに優しい奴と関わるなって言う方が酷じゃないか?振りほどけるはずの俺の手を払わず、寧ろ手を握り返してくる。骨っぽくてガタガタの大きな手。

でも、ちょっと力が籠りすぎてて痛いけど。
もしかして少しだけ怒っているかもしれない。


「なに笑ってんだテメェ。」
「室町君から美味しいケーキ屋さん教えて貰ったんだ。」




不慣れな力
(これから慣れればいい)




「ありがとうございましたー。」


綺麗な内装のケーキ屋さんでテニス部の分も買ったせいで二箱ぶら下げ見えから出れば、外で待っていた亜久津が「遅い」と視線で訴えかけてくる。


「だって数が多いから時間かかったんだよ。」


モンブランも買ったよ、とモンブランが入っている方の箱を亜久津へ差し出せば片眉をピクリ動かしてポケットに入れていた手を出して箱を持つ。ただその力は多分俺の手を握っていた時よりも優しいんだろう。
なんとなく悔しいけれど、モンブランだからしょうがないか。もう1つの箱を揺らさないように気をつけながら山吹中へ戻ろうと歩を進めた、


「オイ、そっちも寄こせ。」


そうしたらどうだろう、まるでカツアゲしているかの様な言葉。
振り返ってみれば、空いている手をコッチに差し向け相も変わらず眉間に皺をよせ睨んできている亜久津の姿。でも怖くないのはミスマッチなケーキの箱と優しい言葉のせい。
悪いとは分かっている…けれど、こんなの我慢できるわけないだろ?ついつい笑ってしまいながら差し向けられた手に、俺の手を重ねてしまう。


「手が繋げなくなるからいいの。」
「…ッチ。」


今度は優しい、優しい力加減。先ほどとは打って変わって離れてしまいそうなほどの加減に、俺の方から力を込めてしまう。
山吹中までのちょっとした時間、俺が一方的に色んな話しをすれば亜久津はたまに相槌を打って聞いてくれた、そんな春待つ柔らかな午後の事。


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ヤンキーデレ。
あっくん
かっこういいよ。

2014,03,24


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