静かに爪を砥ぎ
※腐男子主
※腐話あり
恋をするって、こんなに大変なんすね。
「見ろ赤也…!アレこそ俺が求めた至高!!」
「ただ仁王先輩が柳生先輩と話しているだけ…」
「ちがう!きっと仁王は柳生を口説いているんだ!」
ども、立海大付属中学二年の切原赤也っす。俺は今、残念な人に恋をしているんすよ、助けてください。
「どっちだ…どっちがどっちなんだ!?気になる!」
この先輩、幸村部長の知り合いらしいんすけどコレがまた凄く変態で残念なんすよ。男同士の恋が大好きとかっていうよく分からねー人。
自分が所属している茶道部がテニス部よりも先に切りあがるからって、こうやってテニス部を見学に来てはありもしない妄想を繰り広げていく…おもに俺が犠牲者っすけど。
確かに仁王先輩達、かなりイケメンだし黙って並んでいりゃ絵になるんすけど…けどっすよ?どーなのこの人。
遠くで仁王先輩とか柳生先輩とかが話しているのを見ているだけでこの騒ぎっぷり。
「うわあぁぁぁ丸井が入ってきた…っ!嫉妬かこのヤロー…可愛いじゃねーか!」
「…」
2人が話している所に丸井先輩が入り込んでいる光景に、口元を押さえて凝視する姿…なんつーか危ない。
でもよー…この先輩…普通にみんなと話すんだけど、本当に別人みたいなんすよね。なんつーの?あれ…えーっと、アレを被ってるんすよ。俺と幸村部長の前以外はすっげー優等生になるんすよ、コレが恐ろしい事に。
そんな先輩の二面性を知っている…と同時に、俺は仁王先輩たちが事あるごとに見学に来る先輩が気になってしょーがないっつー事も知ってんすよねー…。つまり、ライバルなわけっす。
確かにこんな変なこと言いだす勿体ない人だけど、俺は凄く優しいことちゃんと知ってるから別にいーけど。勉強だって教えてもらってるし。先輩達が知らないこと知ってるからいーし。
「なぁなぁ赤也!アレってなんの話ししてんのかな?」
「たぶん…ゲームの話しとがじゃないっすかね?」
俺の腕掴んで気になること聞いてくれると、ちょっと嬉しいし。
こうやって先輩の妄想を聞いたり質問に答えるたびに、先輩は仁王先輩達から視線をわざわざ離し、俺の方をちゃんと見て笑って言ってくれる。
「へー…ありがと、赤也。」
先輩の笑顔、優等生っぽくない絞まりのないゆるゆるの笑顔。そんな笑顔を俺がしたら真田副部長に「たるんどるっ!」って怒られそうなソレは、滅多に見せてくれない素顔のもの。
俺は別にいいんだ。
先輩がいかに変な人で男同士の恋愛に「萌えーっ!」って叫んだり息切らしたり話す相手によって性格かえたりしたって別に良いんだ。
「赤也、一緒に帰んない?幸村だとこういう話し付きあってくれなくてさー。」
「いーっすよ。そんかわり奢ってくださいよ。」
「おーけー。」
その笑顔を俺だけが独占出来るんだから。だって、俺がその笑顔に萌えているから…なんつって。
先輩、俺だけにその素顔を見せてくださいよ?ぜってー他の奴等と話しちゃだめっすからね。
静かに爪を砥ぎ
確実に胸を狙う
練習が終わってから近くのバーガー屋で客が少ないのを確認してからの先輩は、止まらなかった。
「やっぱ仁王と丸井ってのも良いけどダブルスのパートナーとして柳生が突っかかって来るよな!頭良い繋がりで柳も来るともう悶えるよな!そんな不純な部員達を真田が叱りつけにいってそのまま巻き込まれちゃえよって感じ!?そんな感じ!?」
ぺらぺらぺらぺら、止まり方を忘れちまったみたいに先輩は現実的じゃない変な事ばっか話す。ゆるり解けた油断しまくりの笑顔を俺だけに振りまきながら。
話しかけられることに興味はないから悪いんすけど聞き流して適当に相槌、ただ瞳にはしっかり先輩を移しこんで。
あぁ今日もその笑顔を見られた、俺って特別なのかな。幸村部長はこの話しに付き合わないっつってたし…ならこの笑顔は全て俺の物なのかな…なんて。
なんで好きになっちまったのかな?苦労するぜこの恋は。
「…先輩は、なんで俺にだけそんな話しするんすか?」
そんな大した希望も見いだせない恋に終わりが見れたら、俺は諦められるんすけど。
いつもは黙ってばっかの俺がいきなりそんな素朴な疑問を話しの間に挟み込んでみれば、先輩の唇はピタッと止まった。
「………赤也に話すと楽になれる…から?」
「なんすかそれ?」
「分からない。俺を知ってもらえているような気がして、嬉しくて話しちゃうんだよね。」
あっけらかん、と笑顔で話し続ける先輩に会ったばかりの頃を思い出す。
そういやちょー優等生っぽかったっけ…俺にすら外面で話しかけていたんだ、ただ先輩が俺達の練習見ながらニヤニヤしてたから話しかけたんだっけ。
先輩にとって俺は妄想のはけ口なのかもしれねー…けど、俺の心臓が壊れそう。
知りたいっすよ、もっと全部知りたいっすけど。
溢れ出てきそうな言葉と思いと涙が唇を引き結んじまって、情けねーけど何もいいだせねー。
でも、やっぱ先輩は先輩だから。
「そしてあわよくば、赤也をコッチの世界に…!」
早くおいで!と笑う先輩の瞳がきらきら輝いている、すげー綺麗だし可愛いんだけど…すっっっっっっっげーやだ。
でも先輩、俺って先輩の事好きなんすよ?
「…ある意味でなら、そっちの世界の人間っすけど。」
「なん…だと…蒔いた種から若葉が…!」
好きになる、好きにハマる、好きが深まる、好きが止まらない。あーくそ、好きすぎてもう辛いっす。
「あーもう、なんで先輩だったんだろ…。」
「俺の秘蔵のBL本かしてやろうか!?」
「まじ結構っす!」
「遠慮すんなよー!!」
好きっすよ、だから俺もそっちの世界へお供させてほしいっす。誰もついて来れないほど深くて眩しい可笑しな世界へ連れてってほしいっす。
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寛大な赤也…
こんなのどうでしょう?
2014,02,24
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