俺の倍の倍



仁王雅治の嫌いな所。

1、気分屋すぎる所。
2、よく授業をサボる所。
3、それに俺を巻き込む所。
4、怒ってもへらへらしてやり過ごす所。
5、たまに変装してくる所。
6、スキンシップが多い所。
7、女子から貰ったものを他の奴にあげる所。
8、「好き」って何回も言ってくる所。
9、事あるごとに俺の事を呼ぶ所。


指折り数えるお昼休み。仁王が何処かへふらりと遊びに行った事を良い事にこっそりこんなことをしてみたりして。

俺は仁王が好きだ。
見た目もさることながらその俺にはない思考と行動力、そして妙に大人すぎる仕草が俺の心をくすぐってしょうがない。
ただ足を組む、そんな他愛もない普通の仕草も仁王がやると映画のワンシーンの様で悔しいが見惚れるくらい。そんな奴を眺めるのは楽しいし、話してみるのも遊ぶのも楽しい。

しかし好きの思いの裏には不満だって詰まっている物。だから本人の姿がない所で数えてみればたったの9つまであげた所で止まってしまった。
右手の親指を折り曲げつらつらりと小指まで折った辺りから苦しくなった、その苦しさにも負けず今度は指を立ててそろそろりと親指へ向かえども…親指が起き上る事はなかった。


「…もっとあるはず、なんだけど。」
「なにがじゃ?」
「っ、おっわビビった…。」


立ち上がれた四本の指を動かし親指を眺めていれば、背後からかけられた声に心臓が飛び跳ねた。イメージ的には1mくらい飛んだ気がしたんだけど、心臓は俺の胸にちゃんといるのを鼓動で感じる。
ばぐばぐ五月蠅いのを我慢して振り返れば絡み知らずな美しい銀髪を揺らしながら俺の顔を覗き込む、せめてあと1つ嫌いな所をあげるまでは会いたくなかった奴の姿。


「隙だらけぜよ。」
「考え事してたからしょうがない。」


茶化す様に俺の頭を撫でては「プリッ」と短い言葉を吐き出すその唇の形はくっきり下弦の月。あぁもう嫌になる。
そうだ、これにしよう。10、俺を脅かして喜ぶ所。これで親指が起き上る。
いまだ律儀にも起き上っていないままの親指をゆっくりと他の指同様に起こせば、俺は言い表せないほどの妙な達成感を感じた。なんでだろう、凄く嬉しい。

背後に立つ仁王を振り返っていた姿勢を元に戻し、パーの形になれた右手を見てみる。
なにも好きだけじゃないんだ、俺だって仁王の嫌いな所をこんなに見つけられるんだ。


「…なに手を見てにやけとるんじゃ?」
「え?お前の嫌いな所を数えていたんだ。」


しゃがみ込んで俺の机に顎を乗せて見上げてくる仁王に「10も見つけられた、凄いだろ」と胸を張って右手を見せる。
まさか俺がそんな事をしているとは思っていなかった様で、仁王は「…ピヨッ?」と珍しく瞳を見開き俺を見てくる。なんだかソレが嬉しくて一層達成感が大きくなる。そんな顔してくれるなんて予想外でその右手で仁王の髪を撫でてみる。

ふふん、どうだ。

…なんて、余裕でいられるのなんて一瞬のことだった。
本当に一瞬。次の瞬間には仁王の顔はさっき以上の笑顔に変わってしまって。あれ?と俺が右手を動かすのを止めてしまった。
嫌いな所を数えるために折り曲げて起き上らせていた指を綺麗な銀の草原の中で捕まえたのは、


「そん倍くらい、俺のこと好いてくれとるんじゃな。」


余裕たっぷりに笑い立ち上がって俺の顔を覗き込んで来る月の様な日によって姿を変える人。

好きの裏返しは嫌い、ではない。好きの反対は無関心。
嫌いな所を数えてしまうほど好きでいられる、そんな裏返しの愛情だったと気付くには時間と経験と知識が足りなくて。


「10の倍…それは『友達』で収まるんかのう?」


魔法の言葉を囁かくその唇、下弦の月。
コッチへおいでと手招く言葉には…なぁ仁王、どんな思いを込めているんだ?




俺の倍の倍を
抱え込んでいる
   それが君




「好きの裏返しは無関心…まさにこのことなり。」


数えた分だけ、好きだったと自覚していたということ。
仁王を友達だって思えていた今までの時間、俺を特別だって思ってくれていた今までの時間。


「…仁王は俺の嫌いな所、20くらいあげられるのか?」
「プリッ。」


11、そうやって思いを隠してしまう俺にだけ奥手な所。


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隠れ乙男
におう

2014,02,24


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