ガラクタ



俺の下駄箱から落ちてきた手紙は冬らしくない明るく温かみがある淡いオレンジ。
ヒラヒラヒラ…揺らめきゆっくり床に落ちていく様を眺めるだけの俺が変なのだろうか、隣にいた千石が慌てて「ちょ、」と声を漏らした。
とりあえず、靴をしまい上履きを出して床に置く『ついで』に手紙を拾ってみれば俺の名前を書かれただけで相手の名前は特になし。


「ラブレターじゃん。」
「そう思う根拠は?」
「だって下駄箱に入っている手紙はラブレターって決まってるよ。」


朝からラッキーだね!満面の笑みで興味津々と手紙を見てくる千石に対して、俺は眉間に深い溝を作り上げ睨みかえす。
おめでたい妄想で頭いっぱいらしい千石には何も言うことなどない。上履きを履いてはさっさと教室へ足を進めた。手紙をポケットに突っ込みながら。
急に歩きだした俺へ「待って待って」と名前を呼びながら千石はすぐに追ってくる。おかげで周りの生徒がコッチを見てくる。千石は自分が目立っていることに気付いていないのかな。迷惑だよ。


「手紙読まないの?」


俺の隣に並んだ千石がニヤニヤと笑いながら聞いてくるのもこれまた非常に不愉快。恋愛事が好き?ソレは俺と真逆の趣味だ。


「なんでお前の前で読まなきゃなんないんだよ。」
「え…い、いやー誰が出したのか気になるし…。」


学校の女の子の顔と名前が一致する千石らしいっちゃらしいけれど、それが理由で手紙を見る権利なんかない。それでも手紙を見たいというのなら手紙を押し付けてしまおうか。
どうせ手紙の答えは1つ、というよりも知らない人から告白されたってイエスと言えるわけもなく。

幾度となく千石が「ねーねー」と聞いてくるのも無視をして、何人かいる生徒によって賑やかな教室へ入って席に座りポケットから手紙を取り出して、


「そんなに気になるなら読めよ。」


千石の顔に当たりそうなのも気にせず、ずいっと差し出した。


「…え?」


さっきまで緩みっぱなしだった笑顔は流石に消えて、頬が若干引きつっている。
ほら、と鼻先に封筒の端を掠めてみれば一歩下がり真剣な顔で勢いよく顔を左右に振って拒否。いくら俺が恋愛事に疎いとか興味がないといえど、そればっかりは千石も出来ないと怒ったように久々に怒ったと言いたげに口をへの字に曲げた。


「それは自分で確認するもんだよ。」
「気になるんだろ。」
「えーと、それはさ…」


俺の言葉にびくっと跳ねた肩は「確かにそうです」と言っているも同然。そしてシュンと小さく背を丸めるのは「ソレは出来ないです、ごめんなさい」と言っているようなもん。
ころころ変わる千石の表情を眺めるのは楽しいものだ、俺には出来そうにないから。色んな事に敏感で聞き逃さないし見逃さないんだろうな。千石の瞳には世界は何色に見えているのだろうか。

差し出しっぱなしだった手紙を引っ込めた。他にクラスメイトがいるのもお構いなし、俺は手紙の封を抑えるシールを雑にとって千石の頬につけてやった。


「おわっ…もー、なんだよー。」
「似合っているぞ。」
「うわー嬉しくなーい。」


軽い会話の中で便箋を取り出して。封筒とお揃いの淡いオレンジにはどんな思いが綴られているのだろうか。そこにだけ、興味が沸いた。カサリと、紙の音は周りの笑い声や朝の挨拶でかき消されて。

ただ、


『「大好きです、付き合ってください。」』


消えない声が1つ。
俺の瞳が文字をなぞり読むと同じタイミングで、千石が同じ言葉をなぞり上げる。


「…え…」


頬にシールを貼りっぱなしの男はまた笑ってみせた。でもいつもと違う、その笑顔に込めた意味が読み取れない。
便箋の端に書かれた名前は俺が呼び慣れた友達の名前、見慣れた綺麗な文字、便箋の色は、彼の、


「俺が読んだって意味ないでしょ?」




君を愛するだけの
   ガラクタなのです




ガヤガヤとクラスメイトが増えてきて賑やかになる一方の教室で、千石は俺の背中に腕をまわした。そっと、そっと。温もりを欲しがる子供よりも弱い力で。額が俺の肩へ預けられれば、フワフワの髪が俺の頬をくすぐる。


「好き、ずっと前から好き。」


囁かれた言葉の意味など、俺は分からない。
驚きから手に力が入らなくなってしまって、便箋が掌から逃げヒラヒラヒラ…床へ揺れながらゆっくり落ちていってしまって。


「興味がないなんて言わないで。」


俺が必ず好きにさせるから、独りよがりの愛を見守ってください。

あぁ神様がいたらお願いするのにな。


(千石の思いを一欠片だけでも理解できる感情をください。)


とりあえず温もりが心地いいから千石の背中に腕を回して、便箋よりも濃くて美しい髪に頬を寄せてみた。


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ちゃらちゃらしているのが
悲恋していると
泣ける。


2013,12,24



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