音恋その2



「おー…。」


授業をサボって音楽室でギター弾いていたら後輩が釣れた。名前を財前光というその後輩は俺のギターを褒めに褒め、天狗にさせてはこう言った。「俺の曲のギター弾いて録音させてもろうてもええすか?」と。

それから二カ月。
一週間くらい前に弾いた俺のギターの音が動画サイトで聞けると言うので光の部屋で見る。でかいパソコンがある机とペアの椅子の座らせてくれた。
ギターをメインにスピード感と爽快感溢れるメロディ、そして歌詞をなぞるボーカロイドとかって言う音声ソフトの女の子の声。


「凄いなぁ…この映像も凄いんやけど、ほんまに凄いなぁ!」
「はぁ、凄いしか言えへんくらい感動しとるんですね。」
「よう分かったな!やって凄いで!」


言葉のボキャブラリーが貧相な俺の言いたい事をなんとなくわかった、と頷く財前は笑顔。自信たっぷりの作った本人ならではの笑顔だ。

しかし…自分のギターがこんな凄い曲の一部になってしまうなんて。
次から次へと流れてくる文字(コメントとかっていうらしい)も賞賛のものばかり。「ぜんざいPの爽やかなのいい」とか「これはうまい」とか「こういうの好き」とか…俺も便乗して財前褒めたくなる。


「財前、お前凄いな!」
「今日5回目の凄い、おおきに。」


わざわざ数えとった財前には恥ずかしくなるけれど、こう曲を作詞作曲編集と全て1人で作ったというのがまず凄い。そして俺の平凡なギターも格好良く聞こえるようにしてくれたのも凄い。もう恐れ多い存在だ。


「せやけど、先輩のギターもめっちゃ評判ええですよ。」
「え、それはないで。」


ないないと高速で手を振れば、ほら、と指差されたコメントは「ギターいい」「知り合いのギターうめええ」とかギターへの賛同の文字。
いや普通やし!面白味も何もないギターや!なんで褒められとるのか分からんから今度は頭を高速で振る。ないない!


「再生数も伸びとるし…またお願いしてもええですか?」


曲が流れ終えた部屋に響いた財前の声に振りかえれば、マウスを操作するためか俺に覆いかぶさっている状態の財前の顔がすぐそこにあった。
ここ最近毎日メールしてる、学校でも一緒に弁当食べたり揃ってサボったり…そんな面白い後輩の本当の姿を、俺は知っている。テニス部のレギュラーでもないのに知っている。

そんなことに、どうしようもなく優越感を覚えた。


「…俺の平凡なギターでええなら。」


新しいおもちゃを得て一心不乱に喜び遊ぶ子供のように、俺は財前の裏も表も知れてリスクも気にしないで無邪気にギターを弾く。それだけで俺のギタリストへの夢がよみがえってくる。

夢を引っ張り出してくれた財前に笑い求められる音を奏でるのが、今の至福。
ただ、財前がくれるものはこれだけじゃないこと…やっぱり俺は知らなかったし予測できなかった。




音恋その2




「平凡て…なに言うとるのかさっぱりですわー。」
「なんやねん、平凡やんけ。」
「へー。」
「全然聞いてへんやろ!聞けや!」
「さっぱりですわー。」


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サイトを作ったばかりの頃
音恋が好きで好きでしょうがなかったです。


2013,10,21


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