お気をつけください



『黒羽春風くん、黒羽春風くん。お友達がお待ちでいらっしゃいます――』


場内アナウンスをするお姉さん(まぁどっちかと言うとおばさん)を眺めながら、隣にいる爽やかな奴を憎んだ。


「あのさサエ…。」
「なに?」
「迷子になったのって、俺達だよな?」


千葉にある大きなショッピングモールにテニス部レギュラーと俺という中学生男子大盛りで遊びに来たのだけど。
この隣にいらっしゃる佐伯虎次郎さんがだね、ちょっと俺の手を引いて「珍しい物あるよ」と他の面々から離れ色んな店を渡り歩いてしまったのだ。
俺も最初は色んなアクセとか服とか見てすげー楽しんじゃったんだけどさ、途中から「あれ、みんないなくね?」って気付いたよ。
右を見ても左を見ても後ろを振り返っても知っている顔はなく。唯一が正面にいたサエだけだった。

これは後でバネからビンタじゃね?と恐ろしい事を連想してしまった俺が皆を探そうとサエを説得(此処で10分無駄にした)し、提案されたのが館内放送という迷子を呼びだすもしくは迷子を捜しての定番手段。


「絶対バネにビンタされるって…。」


迷子になっといて迎えに来いとか何様だよ。
きっと剣太郎にも怒られる、1年部長なだけあって責任感あるし…いっちゃんには泣かれるかもしれない、とっても心配性だから。そんであの泣き顔が可愛い…あ、関係なかった。
ダビデもなんだかんだでしっかりしているしなぁ…ダジャレさえ言わなければかなりいい子だよ。というか、地味に怖いのは亮じゃないか。六角のお母さんこと亮を怒らせたら…死ぬ。


「どーしよー…。」
「なにをそんなに悩んでいるの?」


それなのに、この迷子の原因は呑気に笑ってやがります。館内放送をしてくれたお姉さんに笑顔でお礼を言い、また俺の手を引いた。
サービスカウンターのすぐそばにあるベンチに座って待っていよう、と提案する笑顔の無駄さ加減がもう誰にも負けないくらい男前。なにその潔さ、迷子になっても前向きに何とかしようあははってオーラ出ているぞコラ。サエ、俺の代わりに怒られてビンタされろよ。


「迷子になったけど、俺は楽しいよ。」
「あっそ。」


手を握ったままのサエに何か言うわけでもなく、ただその笑顔を見ていたってビンタを回避できるわけでもなく。ただ、伝わる掌の暖かさに溜め息しか出てこなくて。早く迎えが来ないかな、と半ばやけくそ気味に王様になった気分で呟き落とす。
もう最悪だよ、最悪。早く家に帰りたいとか退屈とか思ってしまいながらサエの肩に頭を預けて瞼を下ろした。

もう寝てやろうかっていう俺の些細な気持ちに、気付かなくったっていいのに。


「嫌だった?」


瞼を上げてチラリと見上げれば、サエにジッと見られていた。六角の校風に合う爽やかな性格を滲ませる整った顔は、個性豊かな六角テニス部でも男前もしくはイケメンという個性として存在感を表すほど。
キラキラの銀の髪だって、すれ違う女の子が思わず振り向く位その綺麗な顔立ちに似合っていて。俺なんかが傍にいるのを遠慮してしまうくらいなのに。


「俺は2人だけでデートしたかったから連れ出したんだけど。」


そんな容姿で俺なんかを口説いて何になるんだろう。

束縛してくれる、傍にいてくれる子が好きだってサエは言う。
全てを理解してくれる、分かってくれる子が好きだって俺は言う。

繋がれたままの掌に力を込めた。顔をあげサエの方へ顔を向けた…唇を、差し出す様に。
束縛できる程器用じゃないけれど、俺は好きな人には一途だよ。傍にいてあげる。だから俺の全てを理解してくれるサエは、そんな俺を分かっていてほしい。
空いている掌が周りから視線を遮断するように俺の顔を隠して、サエの綺麗な顔がゆっくりゆっくり傍へやってきた。初めて間近で見た朝日を受けた海のように輝いている瞳が瞼の奥へ隠されて、唇同士が掠った、


「おいこらバカップル。」


と同時にバネの怒り心頭してますというのがすぐに分かる声に俺の体は勢いよく跳ねあがり、掌も解いてサエから離れてしまったのだった。




館内でのイチャつきは危険が伴います、お気をつけください




「てめぇら…人が探しまわっている間に随分と楽しんでいたみたいだな…。」
「バネ、怒るならサエを…!お、俺は被害者だから!!」
「サエさんさえ、しっかりしていれば…っぶ。」
「面白くねーよ!!」

「あはは、間に合わなかったかー。」
「クスクス…惜しかったな。」
「うわー!!キスとかサエさん大人ー!!」
「落ちつくのねー。」


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首藤と小石川って親戚じゃね?

2013,09,24


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