ハンデ



「まだまだだなー、リョーマ。」
「…にゃろ。」


年に数回会う弟の様な可愛い奴は、今日も今日とてじっとり俺を睨み上げた。
久々にリョーマの家へ遊びに行き、会うなりさっそく帽子を取って頭のてっぺんに掌を合わせ高さをそのままキープして、俺の体へ当てれば鎖骨辺りに当たった。まだまだ余裕のある背比べにニヤニヤしてしまう。
生意気な青学一年ルーキーも、三年生の俺との背比べには勝てない。テニスじゃリョーマの方が上かもしれないけどね。


「ふふん、俺に勝てるのは何年後かなー?もしかしてずっと勝てないかもなー?」
「絶対抜かすし…余裕でいられるの今のうちだけっすよ。」


どこまでも挑戦的なリョーマは何事も勝ちたい負けず嫌い。ソレを知っていてこうやって挑発しているんだけど。
でもリョーマなら、あっという間に俺の背を追い抜きそうで怖い物がある。それでいて一年生の今ですら整っていると思う今は可愛い顔。これは将来化け物並にカッコいい大人になりそうで困るよ…リョーマの親父さんも相当なイケメンだし。
だから今くらいは余裕ぶっていたいんだよ。俺の家系的にそこまで背が伸びるわけじゃないし。

じろっと睨んで来るリョーマの瞳を隠す様に帽子をかぶせてやり、いつも通り家族の皆さんには大阪銘菓を渡し挨拶を済ませる。


「つまらない物ですけど、良かったら。」
「わぁ、美味しそう!いつもありがとう。」
「…ねぇ、早く部屋行こうよ。」


紙袋をリョーマの従姉さんに渡している最中も俺の服の裾をグイグイ引っ張って…って、引っ張るという言葉で納めていいのか分からないほどの力加減を発揮するリョーマを今度は俺が睨む番。今は挨拶中、忙しい。

しかしそれを聞かないのが流石と言うべきか。痺れを切らしたリョーマは俺の腕を掴んで「晩飯できたら声かけて」と家族に言い捨て階段へと足をむけた。
あー…美人さんともっとお話をしたいのに…そんな邪な俺の思いを知ってか知らずか、「別に後でいいじゃん」と提案してくるリョーマが少し憎い。


「あのな、俺は大阪から東京へ来て真っ直ぐ此処へ来たばっかで疲れているんだけど。」
「ふぅーん。」
「聞いてないだろ、おい。俺が今なんて言ったか言ってみろ。」


階段を昇り切っても腕はそのまま、結局リョーマの部屋の中へ着いて目の前に置かれているベッドに座らせられるまで離されなかった。
部屋の隅にある棚に飾られているトロフィーが日の光を受け輝く綺麗な景色に、前よりも数が増している事に気付いて意識をリョーマから逸らしてしまった、それが本日の終わりだと気付いたのは


「どこ見てんの?」
「へ、うわ、」


俺の首へ回された腕、膝の上に乗って全体重をかけられ後ろへ倒された時で。
チュっと頬へ降り注ぐ柔らかな唇に俺の体は固まり動けなくなるのを、コイツは熟知している。さっき馬鹿にしすぎたから仕返しはされると分かっていたけれど、まさかこんな仕返しだとは。
耳元に寄せられた少しかさついているリョーマの唇から言葉と共に吐き出される息に心拍数は異常値を記録する。


「りょ、ま…」
「どうせ身長はしばらく勝てないよ。」


だから、他で勝つから。

俺の得など何一つない勝手な宣言に、俺は寒さを感じた。負けず嫌いを怒らせない…これ、大事。
もう俺の負けで良いよ、とぎこちなく腕をリョーマの背へ回しお互いがお互いだと分からなくなるまで力いっぱい抱きしめあい温もりを…意識を支配し合っているのが誰なのかを確かめあって。

一階から「ご飯できたよー」と呼ばれるまでそのままだったりした…なんて未来永劫2人だけの秘密。

そんな秘密から数年後…俺は唯一勝っていた身長も負けてしまうのだった。




約20センチ程度のハンデ




「まだまだだね。」
「いや、もう勝てないと思う…。」
「身長高いと楽っすね。」
「なにが?」

「抱きしめたり、キスするのとか?」


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イケメン的な意味で将来有望。

2013,09,24


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