君をのせて



大きな足音をたてながら学校の階段を駆け降りる。


「さいあっく!!」


遠くで先生の「走るなよー」って呼びかけられる声が聞こえたけれど、知らん!俺は今人生で一番急いでいるんだよ。
だいたいこうまで急ぐことになった理由は先生の長話のせいじゃないか!「時間がないんで」って6回は言ったぜ、でも「まーまー」だよ、出ました大人の必殺技「まーまーいいじゃないか」

そんなこんなで俺はこうして急いでいるわけだ、何がどうなってそうなったとか察しろ。

玄関で靴を適当に脱ぎ靴箱につっこみスニーカーを履く。かかとを踏みつぶして勢いよく外へ飛び出せば、


「のわぁ!!」
「なんじゃ、人の顔を見るなり…」


すぐ近くにいたのは仁王だった、いや驚くぜ。だっていきなり銀髪がドドンと現れたらインパクト大だろ。お前は自分の髪だから見慣れているんだろうけれど、コッチは見慣れていないんだよ。
急いではいるものの流石に一時停止してしまった、とりあえず仁王は謝っておくべきだよなと頭を少しだけ下げる。


「今、すっげー急いでいるんだ、悪い!!」


じゃ、と校門まで真っ直ぐ走る。途中靴が脱げないように気をつけながら俺が出せる最高速度まで頑張ってみる、明日の朝筋肉痛になったらどうしよう…いや、そんなの些細な悩みだ頑張れ俺!!

角を曲がってとにかく走る。あれ、手をグーにすると早く走れるんだっけ、それともパー?チョキ?なんてくだらない事を考えながら走っていると。

――チリリン


「え、」


自転車のベルの音が背後から聞こえた。
歩道の真ん中を走っていたから通行の邪魔になってしまったのかも、後ろへ少しだけ振り向き確認すれば、そこにはさっきも見た色が。


「急いどるんじゃったら、乗りんしゃい。」



銀色を揺らしながら悠々と俺を追い越し前を塞ぐように降りたのは、まさしくさっき会ったばかりの仁王。
自転車を止めてポンポン、とサドルを叩く彼を息を切らしながら見れば「座りんしゃい」と腕を引かれる。

そうは言っても、仁王の自転車、2人乗り出来るところ無いじゃん。サドルの後ろはタイヤのカバーだけ。その上に乗るのは痛いと思う。
自転車のすぐそばまで連れてこられても、と視線を上げれば俺の脇下へ差し込まれたのは仁王の大きな手。え、なんで、と思考が困惑した時には、もう、


「え、えっ!?」
「後で高額請求なり。」


サドルに座らせられていて。
自転車を貸してくれるという意味なのか?そうなのか?の割には横座りなんですが。
仁王を見上げれば、走って汗だくの額に張り付いた前髪をかき上げられた。いまだ息が整わない俺の背中をポンポン、と叩いた後、にやりと笑って自転車のスタンドを蹴って走りだした。


「仁王なに、」
「ほたえなや。」


勢いをつけてからペダルへ足をかけ、ふわりと自転車を跨いだ仁王の背中が俺の視界を埋める、それだけしか見えなくなる。
仁王はサドルへ座らず少し前のめりな立ち漕ぎ姿勢のままペダルを漕ぎ始めた。予告なく急に加速され、ギュン、と風と重力が俺を振り落とそうと働きだす。

だから必死で仁王の腰に抱きついていた。ぴったりと頬をくっつければ熱さがじんわり伝わる。
息をするたび肺にやってくる仁王の香りに心臓が痛くなる、走っていたせいとかじゃなくて…普通に痛い。なんでだろう。

回る車輪に巻き込まれないように足を浮かせつつ、俺はただただ落ちたくないからと、そして仁王の背中にくっつけている頬や腕からの温もりをもっと感じていたくて…無駄に力を込めていて。
苦しかったり痛いかも、心配したけれど仁王が何も言わないから…家に着くまでこのままでいいんだって甘えてみた。


「もうすぐ着くぜよ。」


俺が仁王の全てに心臓を痛くしたと同時刻、今まさに流れていくこの時間。

仁王の心臓も痛くなっていたなんて。




君をのせて




「間に合った…サンキュ!」
「何をそんなに急いどるんじゃ?」
「…幸村サント柳サンガ勉強ヲ教エニ…」
「……プピーナ。」


--------


爽やかと言えば、自転車2人乗り。

2013,08,21


(prev Back next)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -