幸運は自分で掴む




「はい、あーん。」
「アホ千石。」


アイスを掬ったスプーンがズイッとコッチへ差し出される。向かいの席に座るのは満面の笑みで俺を見てくる千石清純。嫌な顔をしながらスプーンをフォークで押し返したって、嬉しそうに笑って返品されたアイスを食べる。

場所は聞いて驚くな、合コン後のファミレスだ。
ついさっきまで可愛い女の子が三人、そして俺と千石のほかにもう1人同じクラスの野郎がいたんだけど…今は俺と千石の2人だけ。


「そんなんだから女の子帰ったんだろうが…。」


嫌でも溜め息が出てくる。思い返せば女の子三人とも遊び慣れている千石にロックオンしていたと思う、だけれども千石がこうだったから三人ともドン引き…帰るというので千石を説教しなくてはならない俺と説教を受ける千石は残るので、同じクラスの野郎に駅まで送ってこいと指示を飛ばした。

それはもう20分も前の事…結構可愛い女の子ばっかだったのに残念、そう肩を落とせば千石はケロッと「俺がいるからいーじゃん。」と言いやがるし。


「だいたい千石、この合コンお前が俺を誘ったんだろ。」
「うん。いつも断られていたからOK貰えてラッキーだったよ。」
「…いや、俺が言いたいのは、誘っといて合コンぶっ壊すなよってことなんだけど。」


今俺が座っている座席の方には女の子が三人並んでいて、千石が座っている座席には男三人で座っていたのだが、千石は俺の隣に座っては手を握ってきたり肩を抱いてきたり、さっきのように「あーん」とやってきたり…。

そりゃ、学校じゃ遊びでやっていたけれど。
弁当のおかずをあーんだとか、休み時間にプロレスごっことかやるけど…ソレを合コンでやるかね?やらないだろ、全世界の彼女欲しい男性諸君。


「もー、奢れよ…本当損した…。」
「いいよ。」


べしゃっと机に突っ伏してウダウダ言い続ければ、向かいからは軽い声。アホがいる、女の子大好きだって言うアホがいる…大好きなら女の子追いかけてこいよ。じろりと睨めば人懐っこい笑顔が返された。

ま、こうしていたってしょうがない。
起き上ってアイスを食べ続ける千石を眺めているのも飽きたし、これ以上怒っていたり不機嫌丸出しにしていても楽しくない。
元通りにちゃんと座りなおして、奢ってくれるのならばとメニューを開き何か頼もうとしたら、


「そんなにアンラッキーかな?」


やっぱり呑気な声。
アイスを食べ終わり皿を端へ寄せながら千石が不思議そうに俺を見てくる。


「アンラッキーって…まぁ、逃げられているからアンラッキーだろ。」


合コンってものを履き違えているのではないだろうか、やっぱりアホかと思いながらメニューを閉じて合コンと言う意味を調べてこいと言ってやろうとした所で、フッと千石の顔つきが変わった。

さっきまでの優しさに溢れていた瞳の色がテニスの試合で見るような真剣な色を帯びた。散々俺をからかった手が机の上で組まれ、笑みを作り上げていた唇が一の文字に結ばれる。
明らかな温度の違いに俺はメニューを片付ける事もなく、ただ千石を見た。見られていたから見かえしたって言う方が正しい…そう条件反射で見続けた。滅多に見れない真剣な顔に驚いたから。

綺麗に結ばれていた唇がそっと開かれれば、


「俺はこうして二人っきりでいられるように出来たから、ラッキーなんだけどな。」


いつもより低くてハッキリとした声が野郎2人のボックス席に響いた。




幸運は自分で掴む




「…は?」
「だから合コン呼び出して、わざと女の子帰して…今、こうして二人っきりになれたってわけ。」
「わざと…?」

「うん、ずっと告白したかった。好きだよって。」


好きだから、一緒にいられるのはラッキーだよ。


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なんで千石さんって
可愛いんだろうなぁ…。

2013,08,21


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