I'am Vampire




氷帝学園、一年の中でも最も生徒が生き生きしているだろう学園祭当日。
俺を巻き込んだ跡部率いるテニス部は、その整っている顔を活かせばいいのに何故かお化け屋敷をすることになっていた。多分だけど日吉あたりのせいだろうけどね。

そんな日吉が張り切ったせいか、なかなかもって本格的な内装が出来上がった。皆のコスプレも明るい所で見ても少し怖いくらいだ…あ、岳人とジローはどう頑張っても可愛かったから客引きしているけれど。


「…っぷ、」
「だから動くなよ、また失敗した。」


開店まであと三十分、最後の準備と顔や手に血糊をつけたり包帯を巻いたりしている中で、裏方で俺と眼鏡を外した侑士は何回も同じことを繰り返していた。

侑士は血まみれドラキュラに扮しているので、顔にコレでもかと血糊を付けてやっているのだけれども、筆や指で血糊を付けるたびくすぐったいらしく笑って動いて失敗ばかり。
これで何度目か分からない真っ赤になってしまったタオルで侑士の完璧な顔を乱暴気味に拭って綺麗にし、いい加減にしろよと睨む。


「もう時間ないんだぞ。」
「しゃーないやん。くすぐったいんやから。」
「じゃ自分でやれよ、俺に頼んだのはお前だろ。」


自分でやっても怖いかよう分からんから、やってくれへん?
って頼んだのは10分前の侑士だ。自分でやるなら出来るんだろう、とぶつぶつ文句を言いながら血糊を指先で掬ってもう一度侑士の前髪を上げて額につけていく。

本当の血みたいに鮮やかな赤が侑士の綺麗な顔を彩る、着ているドラキュラの服は黒のタキシード。つけているマントの中が血糊に負けないくらいの赤だったり白のフリルが施されていたり真っ白な手袋に血がついていたり、このお化け屋敷の中にいるメンバーの中では色合いが明るい。

目立つ存在だから完璧に仕上げたい俺の思いも他所に、やっぱり肩を震わせては唇を噛み笑うのを我慢する侑士。分からなくもないけれどね、液体が額や頬を伝っていく違和感は気にすればするほどむず痒いから。


「我慢しろよー。」
「分かっとる、せやからはよ。」
「うん。」


額から目尻に、目尻から頬へ伝っていく道をつくる、口の端からも顎へ伝う道を作る。ぷるぷる震える唇を血糊が付いていない方の手で摘まんで動くなと制すれば、侑士の手がお返しにと俺の頬をつねる。
何しているのやら、と何も言わずにやらせておく。頬と首にも返り血の様な模様を書きこんだりすれば、なかなか怖い物になる。なんでもこの血糊、跡部財閥が確保した映画とかに使う超本格的な血糊なので暗闇で見ると本物だと勘違いするほど。

最後にドラキュラなんだから、と唇に軽く塗ってやれば、やっと侑士の血糊メイクは終わった。ホッと息を吐き出し、今まで侑士の失敗した血糊ばかり拭っていた真っ赤になったタオルで指先を拭く。


「終わったよ。」
「ほんま?」


ぱちっと瞳を開けた侑士はメイクに似合わない明るい笑顔で近くにあった鏡を覗き込み、おー…と関心の声を上げながらいろんな角度から自分の姿を確認している。


「ええやん、やっぱ頼んで正解やなぁ。」


おどろおどろしい姿の癖に嬉しそうに笑うのが何とも言えない違和感なのだが、まぁ喜んで貰っているのならいいか。
さて俺はこれで自由になったわけだ、やっと解放されたのでまずは跡部にでも顔を見せに行かなくては、と血糊の入ったカップを片付けながら考えれば、その手を手袋を付けている侑士の手が握った。


「…なに?」


手袋についている血の模様に、少しひやりとした。お化け屋敷やホラー映画の撮影などでは本物がよってくる…そんな話を日吉から聞いたのを思い出す。
でもこれは侑士の手。手袋を通してほんの少しだが熱が伝わってくる。振り返れば侑士が血糊入りのカップを見ていた、そして口の端をゆるりと上げたままソレを指差し、


「まだ使いたいんやけど。」


そう言っては俺の首に頬を寄せた。


「っ…ど、どこに?」


そんなつもりもないのに声が上ずった。血糊入りのカップを持つ指先に込める力が強くなっていた、先の部分が白く変わってしまうほどに。
些細な侑士の行動に、何故か緊張している自分が此処にいる。いつもと違う学園の空気のせいかいつもと違う服の侑士のせいなのか、眼鏡を掛けていない侑士のせいなのか。
俺の手を握っていた侑士の手が、そっとカップの淵をなぞれば付着する血糊を確認するように見てから、空いている手で俺の腰を捕まえる。
腰に回る手に体は馬鹿みたいに大げさに固まった、体が一瞬震える位に。ソレを楽しそうにクスリ、侑士が笑っては息を首筋に吹き付けた。


「な…っ、」
「あんな、俺の首にキスマークが欲しいんやけど。」
「き、キス?」
「ドラキュラに噛まれたような跡が欲しいねん。」


こんな感じの。

言葉を吐き出した侑士の唇が俺の首元に触れ吸いつき音を残した後、血を吸うためと言いたげに牙をたてた。
その痛みにか、その行動にか…この、心臓の鼓動の痛さにか、俺は血糊入りのカップを掌から逃がしてしまい床を真っ赤に染めた。カップは割れなかったけれど、俺の中にある何かが割れた音が頭の中に響いた。




I'am Vampire




「あーぁ、落としたらあかんやん。」
「ゆ、し…」
「ん?顔真っ赤やで?血糊ついたんか?」
「…ゆ、侑士の馬鹿野郎っ!!」

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やだー侑士さんせくはらー。

2013,07,26


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