病原体から患者へ





病気になった。
その病気は一生治らないと思う。
厄介なものを患った。

きっと、俺一人の病気なんだ。


コンビニで買ったアイスを食べながら隣でお菓子を食べるブン太を見る。
夕陽を受けて煌めく瞳や赤みを増す髪、まだ中学生だと言うのにほのかに大人らしさを漂わせる顔立ち。帰り道を共にするこの時間は俺にとって何物にも代えられない時間。
同じクラスで隣の席、何となく仲良くなって迎えた暑い夏。ピークを通り越えたとはいえジリジリと降り注ぐ太陽の光、遠くで切なくなるヒグラシの声、何処かで別れを告げあう子供の「ばいばい」。


「あー…今日も終わっちゃうんだな。」
「急に変なこと言いだして…あ、熱でもあんだろぃ?」
「馬鹿か。」


うまい棒の袋を開けながら俺の顔を覗き込む笑顔の眩しい事。言われたことに対してぶっきらぼうに答えれば一層笑顔は深く楽しそうに輝いた。

コイツになに言ったってこれから先の未来は変わらないんだ。

どうしてかそう思っている俺がため息を吐き出しながら、溶けてしまいそうなアイスを食べる。こんな沈んだ気持ちになる夕暮れにはバニラが良く合う。


「言いたい事があるなら言うべきだろぃ、なんかあったのか?」


さくさくさく、とリズムよくうまい棒を食べる音を鳴らすブン太を見れば、うまい棒を口に含んでいるのに真剣な顔しているもんだからちょっとだけ面白い。
言いたい事なら山ほど、と言えばコイツはどんな顔をしてくれるのだろうか。案外意地悪い俺の考えなど知らず、心配してくれているのかジッと見てくれるブン太。ソレを見かえしながら、少しばかり液体となったバニラを舐めとる。舌先に甘さと冷たさを感じながら、何から話そうか思考を巡らせる。


「……あのさ、」
「ん?」


俺が何を言い出すのか、興味深々と言いたげにブン太は口の中にあったうまい棒をのみこんで首を傾げた。
たいした話じゃないけれど…そう付け足しながらまずは此処から話そうと思う。


「俺、病気なの。」
「……え。」


一瞬にして固まる空気に、バニラアイスも固まってほしいと思った。話しながら食べているのでは間に合わないから。ブン太の瞳が零れ落ちそうなほど大きく見開かれて、帰路を辿る足は止まってしまった。
そんなにか、と思った所で思い出すテニス部部長の事。彼は病気だったんだと。それと同じでなにか重い病気なのだろうか…きっとそう勘違いしているはず。
ふふ、と喉を震わせて笑えばブン太の瞳はいつもの大きさに戻って、笑っている俺を見つめる。


「重たくないよ、普通の病気。」
「…病気に重いも軽いもないだろぃ。」
「ううん、軽い。」


足を止めたブン太を無視して、俺は足を進めながら指に付いてしまいそうなバニラを舐める、噛み砕いてしまいたい感情を押しやり少しずつ舐める、この感情もまた優しく舐める、飽きるまで溶かしつくすまでどこまでも舐める。

それが俺の病気だから。


「あのな、」
「なんだよ、」
「この病気はブン太といれば一時的に良くなります。」
「はぁ?」

「でも同時に、ブン太といれば新しい病気へ繋がってしまうのです。」


それだけ、言いきり振り返れば分からないと俺を見るブン太。分からないならそれでいいんだよ、瞳が細くなるのが分かる。夕陽を背に受けながらバニラアイスを揺らし、地面に甘く白い液体を落とす俺の事なんか分からなくて良い。

落ちたバニラの欠片が俺の病気を治すはずもない、一生治らないこの病気はブン太でも治せない。
二つ目の欠片が落ちる時、ブン太は一歩前に歩いた。俺の事を探るように見ながら…でも俺を見たって答えは見つからないけれど。

答えは、俺の胸の奥にあるのだから。


「それって、」
「うん。」
「こういうこと、だろぃ?」


冷たい物が欲しい。
そう思うほど、俺の唇は熱にうなされる。この夏一番暑い日に世界で一番熱い思いは、人生で一番必要な熱に触れたから。
ただこの熱のせいで病気は悪化の一途を辿ってしまうそうだ。




病原体から患者へ




「…そういう、こと。」
「回りくどすぎだろぃ、もっとわかりやすく…」
「なら、丸井ブン太が好きすぎてもっと一緒にいたくて一日の長さに不満があるって言えば良かった?」
「お、おう…。」
「じゃ今度からそうする。」

「……え、本気?」
「うそ。」

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自分が書く男主って、
素直じゃない子が多いような
と、思った。

2013,07,26


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