君の笑顔は俺から始まる





「あ、丸井君からメールだC〜!!」
「おいジロー!!練習だ!!」


ベンチ脇に置いていたスマホが音をならせば、ジローはぴゅんっとダッシュして確認しに行く。これが本日五回目となると流石の王様もキレた。
嬉しそうに内容を見ているジローもお構いなし、襟首を掴んでズルズルと引きずりコート内へ連れて行く。しかしその辺はジローの丸井ブン太への憧れの大きさ、全然気にしていないようでお返事を書きこんでいるようだ。


「まったく、お前はそうやって練習をサボるから…って話を聞けっ!!」
「あー!!まだ途中ー!!」
「話を聞かないお前が悪いっ!!」


跡部はジローが大事そうに持っていたスマホを奪い樺地へと渡す。返して欲しいとジャンプをすれどお願いすれど、その手にスマホは帰ってくることなく。練習終わるまで没収の処分を受けたジローは、この世の終わりとでも言いたげに肩をガックリ落とし膝を抱え蹲った。

ううう、と泣いているのか唸っているだけなのか分からない声を出しているジローを笑う宍戸と侑士、当然だと岳人と日吉は溜め息を吐き、唯一鳳はどうしようかとおろおろし始めて。
しかし一貫して皆思っている事は「自業自得だ」ということ。
練習中にスマホ…それも強敵、立海大付属の選手とのメールでこの事に発展したなんて、苦笑いせざるを得ない。


「ったく、これで少しは懲りるだろ。」
「せやけどアレ、唸っとるばっかで練習せえへんし邪魔やで。」
「あーん?」


侑士の声が聞こえたのか、終いにはしくしくしく、と泣いていますアピールの声に跡部の眉がぴくっと動いた。このままだと蹴られるかなんかで無理矢理動かされるんだろう。

それは可哀想だな、と全てを客観的に樺地と一緒に見ていた俺は重たい足を動かし跡部の横へ並ぶ。


「ジローを借りてもいいですか?跡部部長。」
「なんだよ改まって…気持ち悪い。」
「いーいーでーすーかー?」
「……好きにしろ。」


ペシリと優しく頭を叩く跡部に「ありがとう」と言い、足をいまだ蹲っているジローへ向け歩き始める。もうやる気なんてないんだろうな、寝たいかサボるかの二択しか残っていないだろうジローの真似をして隣にしゃがみ込んでみる。腕で顔を隠しているジローからはずっとしくしく、と泣いているらしい声。

どこまでも子供の様で愛らしい、なんて言葉じゃ許されない現状に苦笑いしながら俺はジローの髪をくしゃくしゃと撫でまわした。


「ジロー。」
「……」


声を掛ければしくしくと嘆く声はピタッと止んだ。そろりそろり、上げられる顔は眉を八の字に口をへの字にして悲しそうな顔しているのだが、「やっぱ駄目?」と書かれていたから1つデコピンをして。
駄目なものは駄目。もう一度髪を撫でて大げさな溜め息をしてやれば、ジローの顔色が変わる。ハッと何かに気付いたように俺をジッと見ては一歩距離を縮め俺の膝とジローの膝をコツリとぶつける。


「もしかして?」
「ん?」
「もしかしてもしかして、」
「なに?」


わざとらしく首を傾げれば、ぱぁっと花が咲いたような華やかな笑顔。
そわそわと体を揺らしながらさっきまで顔を隠していた両腕を俺の肩へ回し、近づいたジローの唇は俺の耳元で内緒話をする。


「…頑張ったら、Eことある?」
「ご名答。」


それだけ言ってジローの腕を払って立ち上がる。ジローも立つよね?と視線を送れば、岳人を真似るような大きなジャンプで俺に抱きつきながら立ち上がる。やっとジローが動いた、跡部をはじめとした面々がこちらを見ながら苦笑を洩らす。

そんな視線も気にせずに、ジローは抱きつく力を強め先ほどの内緒話の続きを囁く。いつもより低めの声でわざと俺の首筋に唇が当たるようにしながら。


「それって…デート?それとも、」
「さぁね、なんだろう。」


さて、と歩き出せばジローを引きずりながら歩く羽目に。重たいけれどまぁいいかとそのまま跡部の方へ向かいながら、練習後のスケジュールを考える。どう頑張っても家に帰るのが遅くなりそうだ、なんて親に言い訳しようかななんて。

でもねジロー、こんなに俺を嫉妬させたんだから甘い事ばっかじゃないってこと感じていてね。


「…あ、ジロー。練習中くらいメールやめろよ。」
「だってー…丸井君とのメール楽Cーもん。」
「だめ。少なくとも俺の目の届く範囲じゃだめ。」




君の笑顔は俺から始まる




「……あ、分かったCー!!それは嫉妬、むぎゅ、」
「はいはい、練習しようか。」
「へへっ、ゴミンね!!」


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こんな長い題名拍手じゃなきゃできない。
ジロー天使。

2013,07,25


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