思わない?
食べなきゃ死ぬよ、寝なきゃ死ぬよ、動かないと死ぬよ、息しないと死ぬよ。
命と言うものはなんて面倒で大変な生き物なんだろう。俺は自分が命であることを恨むばかり。出来ることならば深海の奥底か地中の奥深くで静かに空を見上げていたいのに。
「ほら、口開けろ。」
「…えー…甘いのは嫌だって言ったじゃん。」
「お前が何も食べねーからしょーがねーだろぃ。」
たまには日光浴びろ、そう俺の腕を引っ張ったのは一年生の時から同じクラスの丸井。
この性格ゆえ何かと独りぼっちで浮いていた俺に声をかけたムードメーカーは、俺の性格を知るなり色々と世話をしてくれるようになった。なんでも丸井自身が良くからかわれるから、人を世話するのが嬉しくも楽しくあるらしい。なんてひどい奴だ。
しかしなんでもやってくれるので俺としては楽だ。
教科書を出すのも弁当を食べるのも丸井が楽しそうに用意するのだ、俺の手にシャーペンを持たせるのも箸を持たせるのも彼の仕事。
そして今日も放課後にケーキが美味しいという喫茶店にやってきた、丸井に連れられて。俺は食べることに興味がないので水だけ飲んでいたんだけど、美味しいからと丸井がケーキを勧めてくる。
いらないと言っても丸井は聞かずにケーキを掬い取ったフォークを差し出すだけ。
「もっと食べねーと骨になっちまうぞ。」
「……それもいいかもね。」
「死んでもか?」
「丸井が葬式に参列してくれれば…別にぃ。」
「ばーか。」
死ぬのは、怖くない。
むしろ喜んで。
そう丸井に会ったばかりの頃言った。面倒くさがりを通り超えた自分の発言、決して嘘ではない。
だって毎日毎日毎日、日が昇り月が昇り…それに合わせて規則正しく義務的に起きて着替えてご飯食べて学校行って…ってするのが嫌なんだ。
自分なのに自分じゃないみたい、俺は誰に決められた法律やルールの中で生かされているの?俺はやりたいことをしちゃいけないの?ただ安全な自室で眠りについていたいだけなのに。
そんな俺に、丸井は言った。
「俺がお前ともっと遊びたいんだから生きてくれなきゃ困る、死んだら遊べない…そうだろぃ?」
そう、そう言った。
昔と変わらない丸井の言葉、だけど前は酷く真面目に怒りながら言ってくれた。今は少しだけ「またいつもの病気か」と言いたげに笑いつつ言ってくれる。
ほら、と改めて差し出されたフォーク。よくよく見たらスポンジに挟まれているスライスされたイチゴが入っている、生クリームのケーキはなんて言ったっけ…あぁ、しょーとけーき。
銀色によって一層綺麗に輝いている白と黄と赤の綺麗なコントラストは、息をしていないのにイキイキしているように見えた。まるで食べられるために存在しているのだと言っているようだ。
なら、俺は、丸井に生きてくれと望まれるために世話をしてもらうためにこの世界で息しているのかもしれない。
でも俺は思う。
俺よりもしょーとけーきが息している方が価値あるんじゃないかなって。
クラシックが流れる渋い喫茶店に赤い髪は目に毒、だけど優しくてイキイキしている丸井の笑顔が少しだけ目の保養。
「ほら。」
「…食べさせてくれるなら、せめてしょっぱいものがいいな。」
「それは今度、今は甘い物食べて幸せになっとけよ!」
溶ける生クリームも、柔らかなスポンジも、粒を感じるイチゴも…俺の生きる糧となってしまうのか、可哀想だ。
ごめんな、でも仕方ないんだ。俺は生きろと望まれたから何かを消費しながら生きるしかないんだ。そうだ俺が生きる、生かされる理由は…
「な?美味しいだろぃ?」
目の前の、人のためだけ。
「口の端に生クリーム、ついているよ。」
「…早く教えてくれよぅ…。」
今日も食べて生きるよ、眠って生きるよ、動いて生きるよ、息して生きるよ。
面倒見てくれる丸井が飽きるまで、俺は丸井と一緒にいよう。丸井が俺のことを放っておいてくれるようになるまで、飽きるまで。
飽きられたその時…俺が一人で生きようと思えたら、俺はイキイキとしているように見えるはず。
ある意味我儘を言っていると
自覚してはいるんだけど
辞められないから
仕方ないと思うんだ
だから少しくらいは
許してほしい、
贅沢な生き方をするのも
ある意味人間らしいと
思わない?
飽きるまで、生きよう。
「ほら、口開けろ。」
「…えー…甘いのは嫌だって言ったじゃん。」
「お前が何も食べねーからしょーがねーだろぃ。」
フォークの上に乗る君の名前はなんだっけ…あぁそうだ、しょーとけーき。
これで何年目のしょーとけーき?今日も息していないのにイキイキしていて素敵なしょーとけーき。
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当サイトで一番
長いタイトルだと
思われる
ぜいたくーぅ。
2015,03,20
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