心に綺麗なナイフを



「日吉の事、好きだ……って言ったらどうする?」
「趣味の悪い冗談ですね、と言って先輩を軽蔑します。」
「もうすでに目が軽蔑している気がしますけど?」


挨拶ってやつは大事。
分かっているんだけど気になったから朝の廊下で挨拶しないで聞いちゃった、その結果日吉が睨んでくる。あらやだ怖いわ、思わずオネェだわ。歩いている他の生徒もビクッてなっているよ。


「何考えているんですか?また変なこと聞いて騙されているんですか。」
「今回は侑士も岳人も関係ないよ。」


俺はいつも侑士や岳人に色んな嘘をつかれている、っていうのも俺が何でもかんでも信じて色んな友達や知り合いに言いふらすから。その騙されっぷりが見事らしいよ。
じゃ、分かっているなら全部信じるなよって思うでしょ?そうなると今度は本当の事を教えてくるんだよ、つまり本当の事を嘘だと思わされるって言う…怖い話だよね。
それに宍戸なんかはよく怒っている、「馬鹿を馬鹿にするんじゃねぇ!」って。お前の方が俺のことを馬鹿にしている気がするんだけど。
そして日吉も怒る側の人間だ、どうでもいいことを俺に話しかけられて迷惑なのか「赤ん坊に何を教え込んでいるんですか?」と怒って…怒って?る?呆れている?

そんなわけで今も絶賛ご機嫌斜めな日吉。なんていうかありがとうな、俺のために不機嫌になってくれて。


「で?いきなりなんですか?」
「侑士たちがライクとラブの違いも分からないのかって笑うから、どこに境界線が落ちているのか試してみようと思って。皆に好きだって言ってるの。」


ライクとラブの違いってなに?
そういう話になった時、俺はただ好きの大きさ次第じゃね?って言った。そうしたら侑士は「そうやないで、根本的なところがちゃうねんで」と笑った。
根本的なところ、それは何処?
一応考えてみた、でも答えは出てきてくれるわけない。だって俺は恋をしたことがないのだから。生まれてから今までの時間、すべてをライクだけで生きてきた。ラブなんてどれにも誰にも使っていない。

でも、もしかしたら。

俺は知らないうちに誰かをラブの意味で好きになっているのかもしれない。
そう思い立ったら体はさっさか動き出していた、侑士にも岳人にも滝にも宍戸にも鳳にもジローにも樺地にも跡部にも、友達と言う友達みんなに言ってみた。「好きだ」って。


「で?その結果どうなんです?」
「分かんない。」


みんなに言えば、みんな驚いた顔して訳を聞いてくれた。そのあと「俺もだ」とか言ってくれたりもしたし怒られたりもした。…でも、何も変わらない。言う前と言った後の違いが何処にもないんだ。

実際、今だってそうだ。
日吉に言っても何も変わらなかった、やっぱりまだライクしかない人生なのだ。


「ラブって、どうなったらラブなの?」


こうなると不安になっちゃうんだ、知らないと生きていけなくなっちゃうのかなって。
色んな生徒が俺たちの横を通り抜けていく、たくさん人がいるのにラブを知らないのは俺だけなのかな?


「馬鹿って言葉を人にしたら、先輩になるんでしょうね。」
「褒められてなーい。」


意外と深刻なレベルまで迷走している俺に対して、日吉は隠すそぶりも見せずに目の前で大きくて長いため息。…まぁ、よくため息吐かれるから気にしない。
前髪で隠れちゃいそうな瞳はイライラしているようでいつも以上に細められていた、わずかに見える瞳は俺を射抜く勢いで見つめ続けている。俺は、そんな力強い日吉の瞳が好きだったりする。

面倒くさげに日吉が「大概にしてくださいよ」とぶつくさ言いながら俺の頬を引っ張った、捻りあげるってほどじゃなくて痛くないように優しくフニリと。


「待っていればいつか知れますよ、必要のない時でも嫌な相手でも否定したくなるような場合でも…いつか恋はやってくるんですよ、理不尽に。」
「…やって、くるの?」
「えぇ、それも呑気に歩いて。」


少しだけ大きな声で話し出した、と思ったら…最後はらしくもなく優しい声。まるでそれを味わって辛い場所に立っているみたいだ、お前もいずれこうなるぞと柔らかな脅迫だ。
瞳が映す俺の間抜けな顔、ほっぺた伸ばされた間抜けな顔。そんな顔を真っ直ぐ見続けてくれる日吉は、どこまでも真剣でどこまでも本気。

とことことこり、恋は不意にやってくるもの。


「……分かっちゃった。」


その日、恋は俺の所に歩いてやってきた。




恋ってやつは
笑顔で
俺の心に
綺麗なナイフを
突き刺すものの事?




「お、日吉やん。」
「また余計なこと言ったんですか。本当に悪趣味な眼鏡ですね。」
「眼鏡は関係ないやんけ。」


俺を送るついでに文句を言う日吉、でも侑士は余裕そうにニヤニヤ笑顔。その笑顔も見慣れたもの、俺は結構好きだ。だって似合っているから。でも日吉は嫌いなんだろうな、関係ない事まで持ち出して何やら一方的に怒鳴り散らしている…一応3年の教室なんだけど関係なし。


「いい加減にしてくださいよ、面倒くさいのは俺なんですから。」
「えーやん。」
「良くないです。無駄だと思わないんですか?嘘とかどうでもいいこととか言って…」
「無駄じゃないよ、俺ちゃんとラブを知れたよ。」


無駄。そう言われた瞬間、今まで黙っていた俺だけれど言葉を遮った。
急に話しだした俺に周りの空気は色を変えた。さっきまでは賑やかな、でもピリピリした黄色。今は、水色。

何も言わないで勝手に日吉の掌を引っ張ってちゃんと言う。細かった瞳を初めて見るくらい大きく開いて俺のことを見た日吉に。


「日吉の事、好きだ。」


冗談じゃなくて、本当の本当に。



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なんか
ぷらとにっく


2015,01,09


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