君が凄く好き



「May I assist you?」
「ぜひ…。」


うちにホームステイしている蔵兎座は冷たそうな見た目ほど悪い奴じゃない、むしろ優しくて良い奴だ。俺が母親に頼まれた買い物で大荷物を抱えているところを見るなり助けてくれるくらい。
ていうか母さんやい、メモ通りに買い物をしてみたらビニール袋四つになっちゃったんだけど。どういうこと?
おかげでスーパー出た時点で腕がプルプル震えた、これは家に帰れないんじゃ…と困っているところに援軍。
普段、家で英語を話すことを禁止しているけれど今回は特例だ。というよりもそこまで思考が追いつかない。なんたって、おでん用の大根が重たいからな!


「母さんに言われてきたの?」
「exactly、大変ッテ聞イタ。」


背の高い蔵兎座が少し身を屈めて俺の左手と右手から一袋ずつ取って、にっこり笑った。大変って分かっていたんですね母さん…。

おでんを食べてみたいと言った蔵兎座のために今日の晩はおでん。俺はモチ入り巾着袋と卵が好きだ。だから買い出しくらい余裕…とは思ったけれどコレはきつかった。
軽くなった荷物に「ありがと」と笑顔で返して歩き出す、蔵兎座は俺の右隣に並んで買い物袋の中を興味津々に覗き込んだりしては嬉しそうにニヤニヤ。そんなに楽しみなのか?

良い奴、とは言ったけれど学校とかじゃそうでもないらしい。こんな風に笑ったり表情豊かになるのは家にいる時くらいだと言っていた。
確かにホームステイが始まって数日はぎくしゃくと固かった、日本語も今ほど話したり理解したり出来なく大変そうで、俺が学校で習った簡単な英語で身振り手振り会話していた、あの頃は大変だった…なにせ俺は英語の成績が良くなかったから。
蔵兎座が来てからは英語の成績がぐんと上がった、蔵兎座も俺と話すたびに日本語を覚えていった。お互いがお互いのお蔭で学びあってきた。


「蔵兎座、おでん楽しみ?」
「エ、Do you understand?」
「見て分かるくらいには。」


緩みっぱなしの唇がたどたどしく「ワクワク、デス」と言い切る。わくわく…一昨日教えた言葉だ。
少しずつながら確実に日本語が上手になっていく蔵兎座を見るのは本当に楽しい、それこそわくわくする。次は何を教えればいいのか考えるのまで楽しくなってしまうくらいに。
家に着くまでの間に何か教えてやろうかな、と思っていると蔵兎座が「ソウダ!」と声を上げた。


「教エテ欲シイ事、アルデス!」
「ん?なに?」


スーパーの賑やかな声が聞こえなくなってきて住宅に囲まれた道へ入ったあたり、蔵兎座は俺の考えを先回りしたかのように話し出した。こういう時は学校で何か気になる言葉を聞いてきたときだ。
まるで子供が大人の会話を盗み聞きしては後でママに聞いている、みたいな。そんなことを一回言ったら拗ねられた、だからもう言わないでおく。…まぁ、いつもそう思っているけれど。

瞳をキラキラ輝かせながら俺の顔を覗き込んだ蔵兎座の髪がサラリ、緋色に色を変えながら揺れた。瞳はどこか緑にも見える。これで歳があまり変わらないというのは驚きを通り越して賞賛してしまう。


「ハイグウシャ、テ何?」
「…………配偶者?」


そんな素敵な見た目で珍しい言葉をチョイスされると困る。ついつい視線をそらしてため息を零した。


「どこでそんな言葉を…。」
「ドラマ。」
「あっそう。」


きっと母さんと見ているドラマの事だ、わざわざ録画してまで見ているやつ。
日本語の勉強にもなるからと言ってよく二人で見ているからだ…配偶者なんて言葉を使うドラマって何?裁判物?
何にしろ、中学生の俺たちには縁のないお言葉だ。教えたって二度と使わないだろう…別に知らなくても困らないしな、配偶者なんて使うのは将来仕事に就くときくらいだろ。
教えるだけ無駄な気はする、けれど聞かれたのだから教えなくてはならない。
先に「今の俺たちには無縁の言葉なんだけど…」そう言ってからそれに近しい英語を言ってやる。


「英語で言うなら…えーと、significant other?」
「significant other…。」
「うちで説明するなら父さんの配偶者は母さん。母さんの配偶者は父さん。」


夫婦の間で一方から見た他方、と言っても分からないだろう。とりあえずやんわり意味を伝えたが蔵兎座には難しかったらしく笑顔を消して眉を寄せた。
俺だって難しいことだと思う、そういう堅苦しい言葉は子供俺たちには似合わない。だから今はなんとなく知っていればいい。
顔を俯かせてきた蔵兎座の荷物を持っている左手を荷物を持っている右手で引いた。子供は子供らしく、おでんのために家に帰ろう。


「腹減った。」
「…So do I.」
「だからさっさと帰ろうぜ。」


見た目ほど大人じゃないし、願ったって一晩で大人になんてなれやしない。知らないことだらけの世の中なんだしゆっくり知っていけばいい。
今日はおでんを知るべきなんじゃないだろうか、配偶者なんていう味気ないものじゃないくて美味しいものをさ。

袋を持ったままだとやりにくいけれど無理やり手を繋いで家への道をさっきよりも早足で歩いて行く。あーおでん食べたい。
寒い冬、落ちゆく太陽の速さときたら。蔵兎座をいつも以上に格好良く照らしてくれる夕日がいなくなる前に早く帰ろう。暖かな家でたまには一緒にドラマ見よう、どんなドラマか気になるし。


「僕達ハ、ハイグウシャナレルデス?」
「…結婚できないから無理です。」




I'm crazy about you.
How about you?
(君が凄く好き。
  君はどう?)




「おでん美味い、おかわり。」
「ウマイ、デス。」


ハイグウシャ。
良く分からないけれど結婚した人の事?それなのにどうして僕達じゃハイグウシャになれないのかな?
夢中になっておでん食べている姿も、分かりやすい様に言葉を選んで話してくれる姿も、ポジティブに笑ってくれる姿も好きなのに。僕の片思いなら仕方ない…今はまだ…


「…ア。」
「ん?どうした?」
「ナ、ナンデモナイ!」


日本じゃ同性で結婚すること出来ないんだった…だからか。


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英語は
色んな所から
拾ってます

※タイトルの訳を乗せました(2015,03,20)

2015,01,09


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