43.まともが入ったら



テーブルクロスはエプロンを縫うよりは簡単やからか、ぱぱっと進んでいく。そらもう喋りながら進められるくらいに。


「そういえば、接客中にボケたりしなきゃいけないんだっけ。」


ふと、思い出したと手を止めた慎がクルリ俺の方を見た。視線と言葉に釣られて俺も手を止めて慎の方を見れば「だよな?」と笑って尋ねられる。
…確かにそないな事になっとったとは覚えとる、クラス合同でやることになった後の説明会の時に言うとった覚えは確かにあるんやけど。せやけど正直忘れとった。
まぁ俺や小春はもう何度も漫才を繰り返しやっとるから、ぶっつけ本番でも息はあう。それに俺はなんの準備も要らん、モノマネっちゅーもんがあるから赤いマスクだけあれば何とか出来る…せやけど、


「どうしよ。」


目の前に居る東京出身の慎は、謙也の噂やと「ボケないツッコまない」らしやないか。それは最早ある種の殺しやと言っとった。ボケ殺しにツッコミ殺し…確かに今までの会話のなかで慎自らボケたこともツッコんだ所もあんま見たことない。
しかし俺達のクラスの出し物は笑えて食えての喫茶店、店員全員がボケたりして客を喜ばすもん。なにかしら出来んと宣伝とはちゃうっちゅーこっちゃ。
「うーん…」と悩みだした慎に俺も色々考えてみる、せやな…俺は人をよう見るからモノマネが出来るようになったんやし、やっぱ自分が得意なことから何か見つけていくのが近道や。


「なんか特技とかあらへんの?」
「特技は…なんだろ。」
「し、趣味は?」
「料理したり本読んだり音楽聞いたり…。」


………


「謙也と普段どないなこと話しとる?」
「勉強のことと前の日のテレビの事くらいかな。」
「し、白石とは…?」
「勉強のことと本の事くらいかな。」


どないせぇっちゅーねん。

こ、これはボケるために生まれたわけちゃう子や…ボケさせたらあかん!
しかし今の会話で分かった事はいかに漫才やお笑いとかけ離れた生活をしとるかっちゅーことや…前の日のテレビ見とるっちゅーてもリアクションを真似ることは流石に出来んやろうな…。
聞けば聞くほど不安になってまう返事しかこない事に不安になってもうた俺を察したのか「やっぱり?」と慎は苦笑い。


「謙也にもさ言われているんだよ、お前は四天宝寺でお笑いを学ぶ以前の問題やーって。」


お笑いの一文字どころかボケとはなんぞや?ツッコミとはなんぞや?から始めんかいだってさ。…と言われた時を思い出したんか唇を尖らせ作りかけのテーブルクロスを弄りだす。
いや…おん…謙也の言う事も分かってまうから俺は何とも言えへんけど…せやけど慎が困っとるのを無視する事も出来ん。何かあらへんかな…。
最早これは天然のレベルや、あと何日で何とかなるレベルやないやろう。となるとや…ソレを生かす方がええんやろうな。さっきも思いついた通り、自分の良さを生かす方が近道や。
1人じゃ笑いがとれんのなら2人でとる、しかしそれでもフォローしきれんのなら3人でどうやろうか。それこそ俺と小春の間に入るっちゅーのもアリかもしれん、何か殺しに来た時は百戦錬磨の俺達や、何とか出来るやろう。


「…ソレしかあらへんな。」
「何か良いこと思いついた?」
「おん。俺と小春と慎で漫才する事や。」


小春と俺がコントしながらモノマネする中に入れれば…もしかしたら面白い事になるかもしれん。


「3人で、まんざい?」
「ん?な、なんか嫌やった?」
「いや、楽しみだなって。知らないユウジが見れるんだなって。」
「……俺も、めっちゃ楽しみや。」




まともが入ったら




「慎きゅん、ユウくんが誰のモノマネするか当てるんやで!」
「分かった!」
「よっしゃ!ほな四天宝寺中の近所にあるラーメン屋店主あきらさんのモノマネ!『俺は最後まであきら麺男や!!』」
「にてるーうけるー。」
「あははは、全然分からない!」
「先に答え言うとるのに分からんのかい!」
「え?そこ含めたモノマネかなーって。」
「あきらさんこないな長い自己紹介せんわ!!」


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放課後の王子さまであったやつ。


2014,01,31

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