41.まともと世界観



ヴーヴー…枕元で震えだすスマホの音が聞こえて、瞼を上げてみる。
部屋は日が昇るのが遅なったとはいえや、いつもやったら朝日が差し込むのに今は薄暗くカーテンの隙間から街灯の光が差し込んで来よる。
そしてゾワリ、肌寒さ。明らかに起きる時間間違えとる。せやのにさっき確かにアラームが…布団を掴んで肩まで上げつつ枕元を見ればスマホは静かになっとった。ただピコリと小さい明かりをたまに発する。
あぁ、アラームやなかった。暗いのに慣れた目で時計を見やればまだ5時12分。
アラームは6時設定やから一時間早い起床に重く溜め息を吐き出しながらスマホを手にする。


「…なんやねん。」


こちとら寝不足なんじゃ。
昨日、泣きすぎたっちゅーこともあったし家に帰ってきてから「夜になるまでどこほっつき歩いとったんや」とおかんからの説教。そして寝る前にリフレインした慎との出来事全部…あれは嘘やなかったよなと自問自答をしすぎてもうた。
いつもより遅い就寝になってもうて現在進行形で眠い。スマホのロックを解除してメールを確認する、こんな時間やから関係ないメールやと思っとった俺のアホ。


「……へ?」




From 天城慎
Subject おはよう
―――――――――

朝からごめんね
聞きたいことあるんだ
7時半くらいに別れ道で待ってる

---END---





「朝からどないしたん?」
「ぅお!?…なにがやねん。」


目の下が明らかに黒っぽい事を洗面所の鏡で確認しとれば、おかんが背後から洗濯物でドンと押してきよった。振り返れば「あんたがこないはよ起きるんは久々やから」感心感心と笑っとった。
確かにいつもよりかなりはよ起きた。あないなメール見た後に寝れるわけないやん、返信したら目は完全に覚醒状態。やることあらへんかなと部屋の中を掃除した位や。
それでもジッと出来んくなって俺はさっさと一階に下りた。おかんが「あかん、イカが降る」とか言いだしよったのはほんの15分前のこっちゃ。なんでイカやねん。


「朝からメールがきてん…あ、俺いつもよりはよ家出るで。」
「さっさと言わんかい。飯は出来とらんで!」
「洗濯物より飯を優先せぇや!」


朝からなんで洗濯しとんねん!と家事も何もせん息子の言葉に「じゃああんたが洗濯しぃや!」と洗濯物を俺へ目掛けてブン投げよった。おま、アホか!!


「操作の仕方知らんのじゃ!」


しかしおかんは息子の言葉なんぞ無視してさっさと台所へ歩いていきよった。クソおかんめ…洗濯機爆発させたろか!
とりあえずは洗面所に散らばった洗濯物を拾って足元に転がっとったカゴの中へ突っ込む。なんで朝からこないなこと…メール貰った時は俺は今日占い1位とちゃうか?と思ったっちゅーのに…現実は占い3位やった。ニアピンやな。
そして置いて行かれた洗濯物を洗濯機に入れるんまでは出来るんやけど……結局電源を入れるだけいれて洗剤のある場所も分からんしそのあと水量やとかコースやとか分からんくて土下座したった。


「ほな、行ってくる。」
「今度は帰るの遅くなる時は連絡いれるんやで。」
「わかっとるわ。」
「いくら中学最後の学校祭やからって調子のるんやないで。」


靴を履きながらおかんのおかんらしい言葉にちょお昨日の事を反省しながら、俺は何度も頷き返す。確かにアレは連絡入れんかった俺が悪い、その前に謙也はもっと悪いんやけどな。

玄関の扉を開けば、冷たい風にグッと家へ押し戻されそうになってまうが、そこは我慢して今年初のマフラーを口元まで上げる。おかんに首絞める勢いで巻かれたっちゅー理由で今日から登場やで。


「気ぃつけるんやで。」
「おん。」


なぁおかん、俺な好きな奴出来てん。ソイツと恋人になれるかもしれんねん。
しかも呼び出されとるんや、それで今日はよ家でとるんやで。話したい事あるんやって、俺もあるから丁度ええなって思っててん。

扉を閉めて別れ道へ向かう足は軽かった。クソ重い瞼だけが憎いんやけど、きっとこれは慎も同じやと思う。




まともと世界観




別れ道って、考え方変えれば出会い道でもあるんやな、とまた俺より先に到着しとった慎の姿を見て思った。また寒そうに体を小さくさせとる。
この前は何の前触れもなくそこに現れたんやけど、今日はちゃう。今日は「そこに居る」って知っとった。でもこの光景は新鮮そのもので心臓がキュっと寒さやない何かで縮こまるのが分かる。
また何分も待っとったのかもしれん、少しだけ小走りすれば聞こえて来た笑い声にクソ重たい瞼は勝手に上へあがっていく。


「はやないか?」
「いや、さっき来た。おはよう。」
「…おはようさん。」


…挨拶より先に不安がでてもうた、堪忍。挨拶は大事やねん。忘れたらあかん、と小さい頃におかんが何度も言っとった言葉を思い出した。

シンと静まりかえっとる住宅街に俺達二人。とりあえず学校の方へ歩きだすんやけど…昨日の今日やから、何から話せばええのか分からん。
それでもなんとなくで繋がってしまう掌にだけ愛しさが募っていく。これだけは変わらんのか、とホッとする。

話しがあるんは俺もやねんけれど、やっぱ話しがあると言い出した慎の言葉を待った方がええよな…何も話さん慎に朝の部屋と同じくソワソワしてまう。


「あのさ。」
「…お、おん。」


合流してから3分程度、突然開いた慎の口に俺は視線を慎に向ける。同じくコッチを見とる瞳の下が、うっすらとやけど黒っぽい気がした。俺よりはマシやけどな。

切りだされた言葉の先をただ黙って待っとれば、口を一の字に結んだり微か開いて音を発しようと試みたり…せやけどそのまままた結ばれたり。
…言いにくいことっちゅー事だけは伝わったんやけど、ソレって良うない話しなんかなと俺は寒いんに汗が流れ出そうやった。冷や汗っちゅー良うない汗。
やからって俺から何か言うことは無い。ただ待つだけ待ってやれば「怒られるし…」と小さい声。なにがやねん。
俺、焦っとるんやけどこうも隣で慎が焦っとると冷静になっとった。せやから出て来た言葉達をかきわけてやる。


「…あのさ、」
「おん。」
「…えと、」
「どないしたん?」
「……け、謙也がさ…」
「おん。」


俺はちゃんと聞いとるで、と掌を今一度ギュッと握り返せば。
寒いせいとちゃうやろう物で慎は顔を一気に赤くさせよって、って、え?


「お、お前ら付き合っとるんやろ、って言うんだけど…そうだって言っていいの、かなって、聞きたくて…おれ、俺はそうだと思うんだけど、その…そういう話ししてないなって思って!」


真っ赤な顔で必死に言い切った言葉はちょおデカイ声で、お互い足を止めてもうた。

い、いま…なんて言いよった。
謙也に?いや今は謙也はどうでもええ、つきあって、そうだって、話ししてない。
これ、昨日俺が言い損ねた言葉や。そう理解した途端、俺の顔も一気に熱が昇ってくる。この感覚知っとる、そう友達やって言い切る時も慎はずっと友達やって思っとってくれたんに、俺はビビっとったからそうやないと思っとった時や。
あの時もこうやって慎は「そうだと思っていた」と顔を赤くしてオロオロしとった。そんで俺は「今日から友達や」と言ったんやった。


「っ…慎。」
「え、」
「その、好きや。せやから俺と付き合ってほしい。」


あの日…俺達の関係がぐらりと前へ傾いた日を彷彿とさせる言葉と、俺達の関係が世界観を変えるほどぐらりと傾いた次の日。

俺は言いたかった言葉、ちゃんと吐き出せた。

絶対格好良うない、雰囲気もない、渡せるもんは体温と俺の言葉くらいしかない。
それでもええと思う。やって格好つけるに相応しい年やないし経験もない、あるのは目の前に居る、掌を繋ぎ合う、好きやと伝え続けたい慎への募り募った愛しさだけ。
もしも望んでくれるんやったら、俺はなけなしのソレすらも慎に差し出す。迷うことなく悩むことなく。


「…俺も、好きだから、付き合ってほしい、です。」


マフラーが暑苦しい。学校祭まであとわずか。


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朝日の眩しいこと


2014,01,14

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