37.まともの事情



小春が居る教室を通り越した先、外へ通じる非常階段がある。
普段は鍵がかかっとるんやけどどういうこっちゃ…「今日は開いとった。」っちゅー謙也の言葉を半信半疑で聞いとった。せやからほんまに開いた時はかなり驚いた。
なんで開いとるのを知っとるのかも謎やし、サボるなっちゅーた癖に結局は俺と揃ってサボっとるのも謎や。


「よっと。」


びゅう、冷たい風が吹き抜ける中。校内の賑やかさと暖かさに出るのが辛かったんやけど、謙也が階段に腰を下ろしたもんやからしゃーない。扉を閉めて一度、扉についとる窓から校内を見て誰もコッチ見てへん事を確認してから嫌やけど隣に座る、かなりスペース空けてやけど。

改めて。コイツとこうして2人で話しやなんて初めてかもしれん。白石と同じクラスやから用があって話しかけに行っても必ず白石がからかいに来とったし、言うたけど面倒やから俺は好き好んでコイツと話さへん。

せやから、


「んで、慎のことやけど。」


慎のことで話すためだけに非常階段に呼び出されるやなんて、想像できるはずないやん。まさかまさかっちゅーもんや。
俺の方を見んで前しか見とらん謙也がさっそく切り出した。前置きなんてするほど時間に余裕はないしな。今回ばっかは急いたわけやない謙也をチラリとだけ見て、俺も前を見る。まぁ景色なんて、教室の窓からも見える秋の学校の風景やけど。


「せやな…どっから話したろか。」
「…なんでもええわ。」


謙也の言葉は、遠回しに「お前よりも慎を知っとるんや」と言われているも同然。仲がええとは知っとったけど、そこまでやなんて思わんかった。むしろ白石との方が仲がええもんやとばかり。
まさか俺がそんな事を考えとるとは知らないんやろうけれど、謙也はそこを口に出した。


「まずはな、俺と慎やねんけど…普通の友達や。」
「ともだち?」
「おん、しいて言うなら『慎が大阪来て出来た初めての友達』が俺や。」


二年の春、やってきた標準語を話す天城慎は浮いとったらしい。
しかもボケないツッコまない、真面目で帰りに寄り道もしないような奴やった…と謙也は懐かしそうに瞳を細めて話しだした。


「たまたま席が隣やってん、色々話してな…そんで仲良うなった。」


謙也と慎の間にある絆は、俺なんかじゃ比べもんにならんくらいの時間でしっかりと結ばれとるもんやった。二年の絆はなんでも話しあえる位に強いもんになって。
勉強、校風、クラスメイト、趣味、家族、東京…色々、そう数えきれんほど、色々。電話もメールも毎日する仲、せやけど今年からちょお変わった。そう謙也は眉間に皺を寄せた。


「一カ月くらい前か?夜に急に電話してきたんや。」


夜の9時、突然鳴り響いた着信音。相手は慎。
明日の宿題のことやろうか、といつも通りに「もしもし」と電話に出れば、切羽詰まった声で慎は話しだした。


『蔵に、告白、された。』


「一瞬なに言うとるのか分からんかった…確かソレがな、お前に会った日や。」
「……俺と、」
「お前が慎と会った日の放課後、白石は慎に告白した。」


電話の向こう、慎は小さい声で『どうしよう』と泣きたそうな細い声を出した。それで返事はまだなんやと察して、とりあえず落ちついて経緯を話してもらって。
白石は今年の春からずっと慎に思いを寄せとって、いつかちゃんと告白したいと思っとったと。せやけどいきなり告白されても友達なんやから返事は無理やろうって白石は返事を待つと慎に託した。


「待っとる…はずやったんや。最近やったな、放課後にまた慎と話しをしたんや。」
「…、あの時の、」
「白石は急かしてもうた。ハッキリと見えとる答えを、ちゃんと慎から言うてほしくて。」


白石に呼び止められて残った、あの日。


「もうな…俺達も気付いてまうほど、慎は嬉しそうに笑うんや。」


特別やって全身から伝えてくれる。全て聞いてほしいと言葉が先走ってまうほど。笑顔が今までの笑顔やない、ソイツだけに捧げる眩しい笑顔。
間近で見るほど、堪えるもんはなかった。せやから一思いに言って思いを断ち切ってほしかった、やけど慎は何処かで迷っとった。本当に自分は好きなんかなって。

確信が欲しかった、自信が欲しかった、勇気が欲しかった。


「慎はめっちゃ不器用な奴やねん。」


謙也が語る言葉の全てが、本物やって何故か言いきれた。
本人から聞くんやなくても持てる確信の訳は、謙也がほんまに心配しとると眉間に皺を寄せたままで、声も言うてええのかどないしようかって話しながら迷っとるから。

ふーっと息を1つ吐き出して、謙也は体を後ろへ逸らした。俺を見ながら


「お前と慎がサボって学校来た日の夜………」


そこまで言うて、顔を上へ向けた、途端。饒舌やった口はピシャリと閉じた。明らかに話しは終わっとらん。今更なにに戸惑い遠慮しとるんやろうか。
急に話しを止める前の行動、顔を上げたっちゅーくらいやなぁ…と俺も顔を上げてみれば、


「っ…!」
「あっかーん…いつからそこに居んねん。」

「俺が悪いみたいに言うなよ。」


扉の向こうに見えた、慎の眉を下げた笑顔。




まともの事情




開けられた扉から「さむ」と零しながら非常階段へ足を踏み入れた慎は俺と謙也の間に出来とったスペースの一歩後ろにしゃがみこんだ。「つまらない話ししやがって」そう謙也に言い怒ったと口をへの字にして。


「堪忍な。」
「…す、すまん。」
「ユウジが謝る事じゃないよ、謙也が悪いんだ。」
「なんでやねん。」


謙也は冷たい風と話し過ぎたせいでカラカラの喉から掠れた声を出して笑った。ソレに釣られて笑う慎の笑顔に、気付いた違和感。


(目元、赤なっとる…。)


擦りすぎたっちゅーよりは、そう、あの日見た泣いた後と同じ様な赤。


「ちゃんと蔵と話ししたよ。」


俺が気付いた違和感、ソレは正解なんやろう。それでも笑う慎に、さっきまでの謙也の話しが蘇る。


『答えはまだ』


「…そんで、白石は?」
「笑ってた。」
「さよか。ほな、俺は小春にいい訳しに行かなあかんから。」


すくりと立ち上がった謙也は慎の頭をぐしゃりと撫でて、ついでにとボケっとしとった俺の頭を軽く叩きよった。


「いっ…死なすど!!」
「適当に話しすんだら教室に来るんやで。」


俺の言葉は無視をして、もう一度「ほな」と言い残して謙也は扉を少し開けてスルリと校内へ戻っていってもうて。

非常階段に、俺と慎だけになってもうて。

ひゅう、と幾分か和らいだにしろ時間のせいで冷たくなる一方の風に、俺が小さく身震いすれば、


「寒いよな。」


謙也が居った場所よりも俺の方へ寄って慎が階段へ座れば、足同士がくっついて、肩がぶつかって、掌が触れ合って。


「…おん、寒い。」


同意っちゅーよりもいい訳吐いてはまた体温を分け合いたくて掌を重ねて、それでも拒否されんで寧ろ慎の指に力がいれられることに涙が出そうになる。まだ泣いたらあかんのに、大事な話、せなあかんよな。


「俺、ユウジに話すこといっぱいあるんだ。」


何でも聞いたろう。我慢しとったやろう事も気付けたやろう事も全部全部。


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いっぱい。

2013,12,16

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