32.まともが爆発



時間が止まればええのに。
必死に願ったんやけど、そうはいかんらしい。


「…おん、ほなよろしくな。」


適当に入った昔よう遊んだ公園。平日の午前8時やとたいした人も居らんから寂しい風だけが流れとる。
その中にあるベンチに座って電話。切る前、小春は心配そうに何度も「大丈夫なん?」と繰り返した。別に腹痛いからってだけやねんけど…まぁ昨日の電話も元気ない感じで話してもうたからな…ほんまに悪い相方で堪忍な。

小春のことごっつ大事や、こんな俺に大事な事ばっか教えてくれたんやから。
せやけど今は、隣に居る奴を優先したい。


「うん、適当に頼んだ。」


俺と同じく電話をする慎はやっぱ寒いらしくマフラーを鼻先まで上げて電話相手に笑った。謙也やって。
そのあと何度か頷いて「じゃ、また」と言うて電話を切って、はぁーと長く息を吐き出した。ベンチの背もたれに体を預けたらズルズルと脱力。そんで俺を見て言う。


「初めてサボった。」


マフラーで隠れる口元、せやけど細なった瞳で分かる。笑っとるっちゅーこと。俺もつられて笑えば慎は下がった体を起こし座りなおした。
2人そろってのサボり、これは紛れもなく怪しいんやろうな。まぁ後で遊んどったとか適当なこと言えば別にどうも思われんやろうし、三年生の冬直前にサボっても大きな説教には繋がらんやろ。

それよりも大事なことやってあるんや。

何から話せばええのか分からん。けど…さっきの言葉についてはちゃんと言っておかなあかんよな。
慎の方を見たまま、俺は乾燥している唇を動かした。


「俺な、」
「…うん。」
「その…」


難しい言葉やない、せやけど俺の悪い所が出る。言ってええのか不安で、言ってしもうた後にどうなるのか不安で。マイナスな考えはそれ以外にもあって伝えるのが怖い。
やけどこのままでええ訳ない。言うた言葉に間違いなんてなかった、確かに俺は慎が好き。さっき言うたあと、「胸のつっかえが取れた」っちゅー言葉を初めて理解できたくらいやん。


「…冗談やなくて、」


切れ切れの言葉の合間にあるもんはない。遠くから聞こえるもんは登校中の小学生の笑い声やとか車の音やとか…あとは色付いたイチョウの葉が揺れる音くらいや。邪魔するもんは何一つない、これを逃すのは可笑しいやんけ。


「ほんまに、ほんまに慎が好き、やねん…。」


昨日も言うた。今日も言うた。


「友達やなくて、恋愛…てきに…」


初めて言うた、とうとう言うた。


「きっと初めて会った時から、好きやねん。」


同じ思いでおって、やなんて贅沢言わんから、どうか拒絶されませんように。
しっかり慎を見て発した言葉に嘘偽りがないっちゅー事を改めて脳は認めた。心臓は穏やかながら1つ1つの音を大きくさせとった。此処に俺が生きとって意思を持って慎を好きになったんやって教えるように。

ヒュウ、風がひと吹きすれば落ちてくる黄金色したイチョウの葉。俺達の間に落ちても気にせんで馬鹿みたいに愛しい人を見続けた。

何度か後悔して恨んだ、何度か諦めかけ泣いた、何度か喜び笑った、何度か良さを知って恋をした。


「…ばかやろう。」


とすり、心臓へ当てられた拳の意味は分からんけど、耳まで真っ赤にした慎がどこか悔しそうに口をへの字にしとった。

え、なんでそうなるん?拒否するんやったらもっとこう…と慌てる俺をよそに掌を解いて、今度は俺の心臓へ慎の額が当てられた。


「え…」


抱きしめたみたいな体制、せやけど何が起こっとるのか分からんくて回せん腕。急な距離に焦って慌てとれば少しくぐもった声、それは予想外の言葉。


「悔しい、すっごく悔しい。」


制服をギュッと握る手。後頭部しか見れんからどんな顔しとるのかまったく分からん。けど分かるのは、なんか俺のせいで悔しがとって不機嫌っちゅーこと。

(や、やややややややっぱり…!)

ちゃうかったんか!?オロオロする俺の心拍数は嫌な意味で上昇中やで、とうとうやってしもうたんや、やっぱあかんかったんや。絶望感なんか悲壮感なんかよう分からん、とにかくやってしもうたっちゅー思いでいっぱいいっぱいやで。

どないしようか迷い続けとれば、いきなり慎はバッと顔を上げた。その顔はさっきのまま、悔しそうにへの字の口に眉間に皺を寄せたもん。
このまま終わるんかな…涙が出てきそうになってしもうた、そんな俺に、


「待ってて、すぐ追いつくから。」
「…へっ?」


そう言うた慎は立ち上がった。え、追いつくって…どういう意味なん?何処から整理すればええのか分からんのやけど…き、嫌われとらんのか?これは。
ベンチに座りっぱなしのまんま慎を見とれば、くるりとコッチ見られた。ただもうさっきの顔やなくて、そう…


「滑り台とブランコ、どっちが好き?」


俺が大好きな太陽みたいに眩しい笑顔やった。




まともが爆発




「ぶ、ブランコ。」
「そっか。せっかくサボるんだし遊んでから行こう。」
「……せやな。」
「立ち漕ぎしていいかな?」
「ええんとちゃう?」


ほんま、なんなんやろう。
まだまだ知らんことだらけっちゅーことか?…ほな、言われた通り待っとこか…。
ブランコへ走るその姿は、いつも通りやねんけど。やっぱ色々引っ掛かるっちゅーか…。


(やめや。待っとかな。)


急かんから、此処で待っとくから。


「慎。」
「ん?」
「なんかあったら、俺を頼るんやで。」


俺らしくない。知っとるわ、余計なお世話やで。でも俺の知らん所で誰かを頼っとったら嫌やんけ。


「…じゃ、そうしようかな。」
「なんやその言い方、死なすど。」


そのあとブランコじゃ満足しきれんで滑り台にジャングルジムに鉄棒に砂場…気付いた時には昼休みの時間になっとった。
初めて一緒にサボった、こんなに楽しいサボりは初めてや。大きな声で一緒に笑う、こんなに幸せやと感じたんは初めてや。


待っとる、きっとずっと待っとる。


-------


まってて。

2013,11,15

(prev Back next)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -