財前光




曲を作るのが好きな後輩の曲を、何度か聞いた事がある。
なんというかスタイリッシュだ。今流行りの恋の歌の愛を囁くのとはわけが違う。そんな甘いフレーズが一個もない。スピード感あふれる曲ばっか作るのだ。
それが財前光という後輩なのだ。


「慎先輩。」
「あ、光。」
「一緒に弁当食べません?」
「いーよ。」


だいたい光から弁当に誘ってくる時は、新曲が完成したから聞いてほしいというときだ。
とはいえ俺は音楽に関しては詳しくない。まぁ普通に生きている分には光ほどの才能も専門知識もいらないわけで。そういう素人目線の意見を聞きたいとかどうのこうの言われて俺はその役を引き受けたのだ。

弁当を食べる場所は決まって屋上。たまに他の奴等も屋上で食べているからもしかしたら鉢合わせするかも、と笑いながら話して屋上へ続く扉を開け周りを見渡せど今日は先客なし。よって2人での弁当&新曲タイムと言うわけだ。
転落防止の金網に背中を預けて弁当を開いた俺の右隣に座る光は、弁当よりも先にポケットに入れていたウォークマンを取り出して、イヤホンを俺の耳にねじ込んできた。


「うお?」
「先に聞いたってください、慎先輩食べたら寝てまうでしょ。」


バレている俺の行動パターンに苦笑いして「はいはい」と笑って一度開いた弁当の蓋を閉めた。
それにしてもいつもはこんな急かさないのに。いつもは弁当食べてウトウトする俺を起こして聞かせてくる、そんでそのまま俺は音楽を聞きながら寝るのだ。それがいつもなのに今日の曲はどうも一味違うらしい。
光はなんでも有名だそうだ、詳しい事なんか知らないけれどネット上のサイトで作った曲を公開しているとか。ランキングの常連だとかどーのこーの、一回聞いたけど覚えきれなかった。

ウォークマンを操作して曲を流す、直前。俺のイヤホンをはずして来た。


「ん?」
「曲、ちゃんと聞いたってください。」
「おう、寝ないようにする。」
「俺の気持ちなんで。」


気持ち?そう言おうとしたのにまたねじ込まれたイヤホン。
そして間髪いれず流れてきた曲は、光が作ったにしてはゆっくりとした曲調で落ちつく優しいピアノの音とベースの音。
何よりも打ち込みだというのに滑らかに歌うボーカルが紡ぐ歌詞が、


(恋の、歌詞?)


最初はただの顔見知り程度の関係だったのに、最初に見た笑顔が頭から消えなくて。
たまたま話した日から、もっと話したいと願ってしまった。
些細なきっかけで話すようになった日を、歳月流れた今でも忘れられない。
自分の言葉に返事して笑って、自分が作るものを良いと褒めてくれる。

そんな、貴方が好きなのだ。

ボーカルは歌う。片思いの歌を。
ソレが光の気持ちだというのなら、光は誰かに恋をしていて今もこの曲の様な想いをしているのだろうか。
どうして良いのか分からない感情が沸き上がってくる。寂しいような切ないような、言葉にするのがもったいないような…。

曲が終わりへ向かって音が途切れた、その瞬間。


「伝わりました?俺のラブレター。」


顔を覗き込んできてそう言うなり、光の顔が近づきすぎて捕えられなくなった。
聞いてきたくせに俺の唇を塞ぐ光の行動は矛盾していると思う。
数秒間くっついていた唇同士の熱が、俺の体中を熱くさせていった。

手紙なんて柄やあらへんすわ、このほうがええでしょ?
唇と唇を離して言い笑う、新曲の歌詞が書かれた紙を俺に渡してくる光の顔が、名前の通り眩しい。
顔もまともに見られない俺は下を向いてイヤホン外しながら、呟いた。


「慎先輩?」
「……つ、」
「つ?」





伝わりすぎて苦しいよ




「それでええんです。」
「え、え、俺…俺!?」
「他に誰もおりませんよ。普通分かるやろ、慎先輩だけっすわ。」


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手紙じゃなーい。でも光にはこれくらいの大事をサラッとやってほしい。
そしてその曲をサイトに上げちゃってミリオン叩きだせばいいと思う。

2013,04,12

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