13.まともに伝える



弁当の後にマフィンを入れとる袋を開けて取り出せば、ふわりと漂ういい匂い。正直、ソレだけで心臓がドキドキしてもうた。

…まぁ、食べなあかんねんけど。

そのままが良かったんやけど半分に割って片方にかぶりつけば、甘さが広がって思わず目が細なった。なんやろ今まで感じたことない幸せが沸き上がってくる。マフィンの甘い香りが体中を埋め尽くすような、そんな幸せ。


「そんでユウくん。」
「ん?」
「お礼はいつどうするん?」


小春の直球な一言にグッと喉が閉鎖した、あかんマフィン拭きだしてまいそう。いや絶対にせんけどな!
朝からグロッキーしとって俺は教室から一歩も出んで今日の昼を迎えたわけで。ちゃうねん、一応メールしてみよかってちゃんとメール画面だしたんや、けど学校やし気付くか分からんし…なんて打てばええのかまた纏まらんくて…。

つまり、俺のいつもの悪い所が出てもうたっちゅー…。

言葉を失う俺の答えを察してか小春がふぅ、と息を吐き出す。ほんまにいつもいつもウジウジしとって堪忍。
でもな俺にもちゃんと考えがあんねん…ソレは、


「ま、次の時間は学校祭の話しあいやからええか。」


午後の授業、二組と合同になった学校祭でやる喫茶店の話しあいやねん。視聴覚室をのっとって喫茶店やるいう噂は聞いたんやけど…ほんまかいな。
でも2クラス収容せなあかんしな、デカないと難しいやろうし…今日もその視聴覚室で話しあいや。白石と小春の力って凄いな、1日で合同やっちゅー話し纏めて視聴覚室抑えて…ここまでできるって相当やで。


「そんときに、ちゃんと言うんやで?」
「おん…。」


マフィンを飲みこんで頷けば、ならええけど、そう言い小春は笑う。…きっかけとかタイミングとかあればの話しやけど、と言いかけといてほんま良かった…。

最後のマフィンを口に入れて何を言えばええのか悩む、この間のタオルみたいに「おおきに」って言うて…そんで…


「ほなユウくん視聴覚室行くで。」


なんやろ、美味かったって言えばええのか…ソレだけでええのか?それとももっとこう…店で売っとったやつやろ?とかちょおボケた方がええんか…いやでもまだそんな仲良うないで?

あー…また纏まらん。授業中に打っとったメールと同じや、書いては消して書いては消して…今も考えては却下して考えては却下して。

小春に腕ひかれながら廊下を歩く最中、ずっと頭の中はそんなことばっかやったけれど、大事なこと忘れとった。
礼をいうっちゅーことはや…


(会えるんや…。)


天城に会える。それだけでほんまに嬉しい。クッキーもマフィンも嬉しい、けどややっぱり会える方が嬉しい。ちゃんと瞳、見て話せるやろうか…どもらんで話せやろうか…しっかり「あ、慎きゅーん!!」………慎、きゅん?
え、それって天城と同じ名前やんか、小春いつの間に新しい知り合いをっちゅーか浮気か!…って、そうやなくて!!

慎、って、やっぱ、あの。

考え事しとったからボンヤリ背中を丸めとったのを、ビシッと背筋伸ばして前を見れば廊下を謙也と歩いとる天城がおった。…なんでお前が隣におんねん…謙也に心が曇ってもうたけれど、小春の声で振り返った天城が笑顔で足を止めるから意識は一気にそっちへ向く。


「金色に一氏だ。」
「奇遇やね!視聴覚室へ行くんやろ?」
「うん。」


普通に話す小春と天城の会話を聞きながら、俺は天城を見て。やっぱ、ええなって泣きたなった。
好きなんやろうかって自覚して初めて会った今、心臓はなぜか穏やか。いや確かに早足やねんけどそんな急かされん…そう、その速さはそういう感情があるからやって分かれば可愛えもんや。

話したいんやけど、少しためらう自分が憎い。数歩の距離が遠くて遠くて、肩並べて歩ける謙也が羨ましい。
はぁ、溜め息を零して伸ばし過ぎとった背筋をちょお曲げて。もう少し気楽に話せたらええのになって思っとったら、俺の腕を小春が引っ張った。


「おん?」
「慎きゅん、ユウくんと先に視聴覚室へ行っといてくれへん?」
「え、」
「謙也くん、蔵りんがどこに居るのか知っとるんやろ?」


急に何を、と突っ込む間も、ましてや「浮気か!」と言う隙もなく小春は謙也の腕を引いて二組へUターンしだす。「ちょおなんやねん!」謙也が文句を言いながら俺と天城を見るが、なんで小春は謙也と二組に行っとるのか分からん俺には何も出来ん…。


「金色、どうしたんだろうな。」
「お、俺にも分からん…。」


廊下に残された俺と天城。
チラッと横目で見れば首を傾げながら2人が見えなくなってもうた方を見とった天城が、俺の方を見て小さく笑う。そんな些細なことで顔が熱なるのが分かった。


「なんだか良く分かんないけど、視聴覚室へ行こうか。」
「…せやな…。」


小春…もしかしてもなく、狙って謙也をどっかへ連れていってもうたのか?お礼言うタイミング作ってくれたんやろうか。
そうかもしれん、小春には言わんかった言葉やったのにバレバレやったんや、流石は俺の小春や!…って、ちゃうちゃう。今はそうやなくて、ほら言わなあかんやん…。

歩きだした俺の隣に天城、羨ましい思うてた場所にいる自分に違和感と穏やかな中に感じる大きな鼓動を表にでん様にしながら、俺はそっと天城を呼んだ。


「天城…」
「ん?」
「…その、アレ…美味かったで。」
「あぁ、クッキーとマフィン?」


もっともっと言いたい事があるんやけど、今はこれだけでもええから知っといて欲しい。ちゃんと食べたし美味かった、感動してもうた事。


「天城、ありがとな…。」


そんだけしか言えん自分を呪いながら、それでも笑ってくれる天城に更に恋しながら視聴覚室までの道を歩いていく。




まともに伝える




「ユウくん…ちゃんと言えるやん…!」
「…なぁ、白石はどうなったんやっちゅー…」
「それよりも大事なことがあるやろ!ユウくん…!」
「俺も視聴覚室いかなあかんのにー…。」


--------


成長する感動。

2013,08,27

(prev Back next)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -