03.まともな会話



「あ、ユウジ。ちょおええか?」
「白石…い、今忙しい!!」
「…忙しいて、今休憩中やんか…。」


あの夢を見てしもうた日から一週間。
前に進むどころか同じクラスの白石や謙也をなんか避けてまう日々になってもうた。めっちゃ後退しとるけれど、これで何とかなるんやろうか。

…あかんのは分かっとんねん!!俺かてアホちゃうわ!!
せやけど、白石達と話すと天城慎の話しが出てきそうで怖いんや、そんなんされてもなんにもできへんし、どう返事すればええのか分からん。
それと、もう1つ心配なのがある。小春が誰かと話しとる時、俺はいつも嫉妬してまう。もしもソレが…


(天城慎の話しをされた時、嫉妬してもうたら…)


小春に申し訳ないっちゅーか、なんも話しとらんのに天城慎が小春と同じくらい大切な存在やなんて認めたない。いや認めるわけないやんけ。
せやけど、こうも踏み出せんで引っ込んどると小春に怒られそうやな…そっちのほうが怖い、嫌われたないし。

あぁもう、ラケットをぶんぶん振り回して考えを辞める。このままやったら考えすぎてアホになりそうや。練習もままならんし、一回気持ち切り替えんとあかん。水でも飲まんとやってられへん。
コートから出ようとテニス部の輪から外れれば、コッチに気付いた財前が声を掛けてくる。


「ちゅーても…どないすればええねん。」
「ユウジ先輩、どこ行かれるんすか?」
「水。」


それだけ言うて足はとめんで逃げるように手を振った。お前には分からんやろうな、ちょおモテるからって生意気や…ちゅーか財前のなにがええねん!一個も分からん!
別な事にもイライラしてもうたけれど、水飲み場へ無事ついたわけやし、まずは冷静になる事が大事や。顔でも洗ったろ、とヘッドバンドを外して適当に置く。ラケットも立てかけてから蛇口をひねる。

ザーッと勢いよく流しながらまずは両の掌で椀を作って水を受け止め口を寄せる。学校の水やから美味いと思った事が一度もないんやけど、まぁ汗かいて疲れとったら冷えとればなんだって美味いわ。
飲みほしたら、もっかい水を溜めて。今度は顔を洗う、冷たい水を浴びれば火照った体は熱を逃がしてく。蒸しとる部屋に流れこむ冷風の様に俺の熱くなってもうた頭を冷やす。

ばしゃばしゃと足元を濡らしながら顔を何度か洗って蛇口を閉めた。掌で軽く水を拭って前を向けばあることに気付いた。


「……あ、」


アホや、タオルないやんけ。
ずぶ濡れの自分は顔を洗ったろと提案した自分にキレる。なに考えとんねん、タオルないやん。くそったれ。
しゃーないからウェアの裾を引っ張って顔を拭こうと、


「あ。一氏だ。」


した手が、一時停止したみたいに止まった。


(いまの、こえ。)


俺の耳が壊れてないんやったら、その声は一週間前にも聞いた。
男のくせに少し高くて良く通る声は確かに俺の名字を呼びおった。なんでや、信じられん思いで声のした方へ濡れとる顔を向ければ、そこには確かにソイツが居った。
学ランをちゃんと着て鞄を肩にかけて、俺の方を見る…ソイツは、天城慎やった。

濡れとる俺にビックリしたのかこの前より瞳を見開かせとって、瞳をより一層見せつけとる。それが綺麗でしゃーない、少し暮れてきた日差しを受けてキラキラと輝いとって。俺よりも白くて焼けとらん肌も夕陽の色を受けて、儚い色をおびとった。


「あれ…一氏、だよね。」
「っ、え、あ…あぁそうやけど。」


あかんあかんあかん、思わず返事するの忘れてもうてた。見過ぎや俺あかん!!分かる、ちゃんと自分の事や分かる。気になるの分かるけど返事はせなあかんやろ。

何度が余計な言葉を詰まらせながらやけど、素っ気なく返事は出来た。ちゅーか俺、濡れとるしヘッドバンドしとらん。
急いで顔を拭こうと裾を引っ張り上げたら「待った」と声がかけられてまた一時停止。お前はリモコンか!?

なに言われるか不安で心臓が大げさに騒いどるのを押し殺して、今一度顔を上げる。鞄をごそごそ漁りながらコッチに歩いて……あ、あるいてこっちにきとる…!?
なんでやねん、なんでコッチに来んねん!!「小春」と叫びだしそうなのを堪えてジッと待てば、鞄を漁っとった手は白いフワフワの物を取り出し俺へ差し出される。


「今日体育あってよかった。タオル貸すよ。」
「……へ?」
「無くて困ってたんだろ。」


ウェアを掴んどる俺の手の上にぽふりと置かれるタオルを見ながら、近い場所で天城慎の笑い声が聞こえた。
ビックリして何も言えんし、タオルをどないすればええのか分からん…なんやこれ無茶ぶりの領域を越えとらんか?なんやドッキリ過ぎるやろ、ちゅーか何言えばええんや!?お礼か、お礼を言わなあかんのか!せやけどなんて言えばええんや、おおきにでええのか?せやけどコイツ東京育ちや言うとったよな、ありがとうか!?

なんか思考が変な所へ行っとるけれど、まずは貸してくれとるタオルで顔を拭こか…自分の家のタオルとは違う匂いに心臓は破裂しそうやし、考えは全く纏まらんし、小春は助けにきてくれへんし…と、とりあえず、お礼や、挨拶とお礼は大事やからな…。

ごしごしと顔を拭いた後、ヘッドバンドをつけてから恐る恐る天城慎を見る。俺が顔を拭いとる間にどっか行ってまうかも、と思ったが一歩も動かず待っとった、嬉しい半面…やっぱ怖い。
とにもかくにも、お礼を!俺は今出せる勇気の120%を使って声を絞り出す。


「お、おおきに…。」
「どういたしまして。」


や、やっぱありがとうの方が良かったんか!?…って、それはもうええか…。
それよりもタオル濡らしてもうた、これはこのまま返すのはあかんと思うし小春に怒られそうや…。
立てかけといたラケットを持って何度か話すタイミングをうかがってから、俺はタオルを小脇に抱えた。


「これ、洗って返すわ。」
「いいよ別に。」
「え、ええねん!洗って返す!!」
「…はは、ならお願いします。」


どこがおもろいのか一切分からんが、俺の一言で笑っとるのが脳も含めた全身むず痒い。ソワソワと、ジリジリと、髪の一本一本から足の爪の先までを何かが走り抜ける。いったい何なのか分からんけれど、悪いもんやないと思う。

怖い思っとったのがウソみたいに、そろそろコートへ戻らなあかんよな…っちゅう事実にガックリしとる自分が居る。なんやねん…逃げたいんか話したいんかどっちや、自分。まったくもって分からなくなってもうた自分の感情に呆れてまう。

…ちゅーか、天城慎。コッチになんの用なんやろ。同じクラスのアホ2人に用か?
思いついたら最後やった、気になる。あの2人になんの用なんやろって。仲ええんかな、普段どんなやり取りしとるんやろ…さりげなく聞いても怒らんかな。

天城慎をチラっと見ればさっきまで通りの普通の顔やった、き、聞いてみよか…。

「…もう俺は戻るんやけど、なんや白石達にでも用があったんか?」
「うん。忘れ物届けに。」


や、やっぱりか。ちゅーか忘れ物を届ける程度には仲がええんか…あかん白石達を今以上に避けてまいそうや……まぁ、気にせんでおこう…。

なんでか知らんけれど落ち込んでまう俺をよそに、くすくすと笑う声に誘われるまま天城慎を見れば楽しそうに俺を見とった。
な、なんか変な顔しとったのか!?とビビる俺に対して、天城慎はゆっくり唇を動かした。


「一氏って俺が感じた以上に面白いんだな。」
「お、おもしろい!?」
「うん。」


今一番の悩みの原因は、優しく頷いては俺の隣に並んでコートへ行こうと言う。
それだけやのに、どうして鼓動は大きくなって俺は頬が熱くなるんやろう。頭の中は空っぽになってもうたんやろなって位、天城慎のことばっかやし…。
どうしてか悔しなった、俺はどうしたらええのか分からんのに白石や謙也は普通に接しとるんやっていう事実に…そんで悔しいって分かっとるのに動き出せん自分に。

あかん、もっと話したい。
俺の名前を覚えとってくれた天城慎と。

一歩前に、もっと前に…これって我儘なんかな。




まともな会話




「あれ、ユウジはどこ行ったん?」
「部長。ユウジ先輩やったら10分前から水飲みに行っとります。」
「それサボりとちゃう?」

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約二カ月寝かせたら
大きく進展いたしました。
これからゆっくりお友達に
そして…と考えております。

2013,07,26

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