▼01.まともな幸せ
会いたくて会ったわけとちゃう、嫌々やった。
昼休み、白石達に用があったから2組に顔を覗かせた。ほんまやったら小春といちゃいちゃしながら弁当やのに、わざわざ足を運んでやった。原因はテニス部顧問のせいやけど。流しソーメンの時、流したろか。
「白石」と弁当食べとった白石に軽く声をかければ、いつ見ても嫌味な顔立ちのそいつは振り向き俺を見れば笑った。
「おぉ、ユウジやん。どないしたん?」
「練習試合の資料、オサムちゃんが渡せて俺に頼んでな。」
俺は基本的に小春以外信じとらん、テニス部のレギュラーであってもや。元々人付き合いなんかクソ喰らえと思っとる。小春と誰かが話すたびに言う死なすどって言葉に、本気の意味を込めたこと何度もあったわ。俺の小春やから。
でもな、小春に恋なんてしとらん。フリってわけでもない、なんて言葉がぴったりなのかよう分からへん、そうしいて言うなら小春はアンテナ。アンテナがなかったら何も喋らんラジオが俺。そんなところやな。
ズカズカと2組の教室に入り込んで持っとった紙の束を白石に押し付ける。コレで俺の仕事も終わりや、やっと帰れる。
白石の隣にいる謙也が「珍しいなぁ」と言ってくる言葉に苛立ってまう。アホな騒ぎ起こす前にはよ帰らな…と、2人のほかに一緒に弁当食っとる人間に気付いた。
「わざわざおおきに。」
「…おん。」
「ん?…なんやユウジ、慎と会うの初めてか?」
慎?こんなやつ居ったかいな。
今まで黙って弁当食っとった知らん顔が俺の方を見た。大人びとる白石や謙也と並ぶと幼さと線の細さが目立つその慎とかって言う生き物は、もごもごと口を動かし何かを食べながらペコっと頭を下げた。
別に知り合いたいわけちゃうわ。
まぁ口にせんで真似して、ちゅうても下げられた角度の半分くらいしか俺は下げへんけど。
「慎、コイツ一氏ユウジ。小春小春うっさい人見知りやねん。」
「適当なことぬかすな、死なすど。」
「コレが口癖や。」
からかい半分に白石が俺を紹介する、ほんま死なす。此処が学校やなくて小春の目の届かん場所やったら殺しとる。冗談とかネタとかちゃう、ほんまのほんまに。
何が楽しくてバカにされなあかんねん、しかも興味ない人間に俺の事をそないな風に言われて…あぁ、小春に会いたい。
こないな紹介受けたら普通「そうなん?」とか「物騒な口癖やな」とか言ってくるんやろ、当たり前の当たり障りない返事なんやろ、お前らはそうや、いつもいつも…
「蔵よりまともな口癖だな。俺は天城慎、東京生まれ。」
いつも……………まとも?
死なすどっていう言葉がまとも?
意味が分からん。どこをどうとったらこの言葉がまともやねん、言ってやりたいのに何も言えんとただボーっとソイツを見てもうた。
「エクスタシーのどこが変やねん」と白石が言ってくるんも軽くかわして、ウインナーと食べるソイツは、俺がずっと見とったことに気付いて初めて俺の前で笑った。
ただ口の端を上げて瞳を細めただけやのに、その顔を見とったらどうしようもなく小春に会いたくなった。
「……ほな。」
「ユウジ?」
居るのが窮屈やった、とにかく逃げたかった。
出来るだけソイツから離れる事だけ考えとった。
分からん。分からん。アンテナがない。何も生み出せんラジオに命を吹き込んどくれ。はよ会いたい。廊下へ出て小春がいる教室までダッシュしていた、口から自然と小春を呼ぶ声が出とって。
この動揺はなんやろうか。小春なら何か知っとるかもしれん。
大慌てで教室へはいってきた俺の話しを全部聞いた小春は、小さく笑うだけやったけど。
何も教えんと「時間が解決してくれるで」と優しく言う小春の笑顔が寂しそうで、俺は思う。「小春がそないな顔するんやったら解決せんでええ」って。そう思ったけど小春にはバレとった。俺の頭を優しく撫でてこう言った。
「ユウくんが幸せなら、アタシも幸せやで。」
まともな幸せ
その夜。
眠った俺の夢に出てきたのは小春やのうて、天城慎やった。
なんで俺の夢にでてくんねん。
嫌な気持ちで夜が開けたばかりの薄暗い部屋で起きて、
ぼんやり瞳を閉じれば浮かぶはずの小春の顔すら、天城慎に塗りつぶされとって。
なんでお前なん?
そう思って必死に原因を考えれば頭の中に響いたあの言葉。
『まともな口癖だな』
「……」
まともとちゃうよ、アンテナがないと自分の事も分からへんのにまともて。
「あかん…」
いますぐ天城慎に会いたくなった。その声で俺の事を包んでほしくなって…。
雀の鳴き声が聞こえてきた頃、俺は瞼をソッと下ろして透明な液体を零した。嗚咽も何も発さずただソレだけ零して、瞼の裏に居る笑顔に寂しさを覚えた。
俺の事、覚えとるかな。
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ちょっとややこしくなった。
初ユウジは、大人しい感じに
なっちゃいましたね。
もう少し拍手の時みたいに勢い
たっぷりならいいのだけど、
しっとりしました。
何気にめっちゃ人見知りですいません。
2013,05,01
2013,07,26お引っ越し
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