千歳千里



部活やら委員会やらで人がいなくなった教室まで届いてくる「小春ーーー!!」という一氏の謎の叫び声(いや全然謎じゃないけどね)を聞きながら、俺は1人で飾りっけのない便箋と向き合っていた。
別に書く内容に悩んでいるんじゃない、内容ならもう決まっているから悩む必要性がない。

問題はこれを渡すかどうかだ。

便箋には何行も書けるスペースがあるのに、俺はと言うと贅沢にもど真ん中にたった8文字、漢字にして7文字しか使っていない。あ、俺の名前を隅に書いてあるけどね。
そんな短い文章を渡すには少々、いやかなりの…そうしいて言うならば地球に隕石が降ってくるとしよう、そしてそれを受け止められるのは俺一人、でも隕石を受け止めたら俺は死ぬだろう、でも受け止めなくては地球がーって位の勇気がいると俺は思っている。


「…バカか俺は。」


とりあえずソレは置いといて。
便箋をお揃いの封筒に入れてしまおうと鞄に手を伸ばした所で、がらりと教室の扉が開いた。
こんな時間に誰だ?と見上げれば見上げきれない程の巨人…もとい、


「ち、千歳…。」
「慎?なんばしよっと?」


こっちのセリフだ。
なんで部活で汗を流しているはずの千歳が教室に…しかも絶対に部活中じゃない、ジャージですらないし汗1つかいてない。絶対に何処かで寝ていたに違いない。
今一番会いたくない奴にあった時って冷や汗半端ない。
でもそんなの千歳には伝わるわけもなく。飄々と歩いて俺のところへやってくる。やばい、あれを隠さなくては。
慌てて机の上に置いていた手紙を鞄へ入れようと勢いよく手を伸ばした、が、たまたま開いていた窓から風が吹き込んできた。


「あ、」


封筒がヒラヒラと飛んでいった、よりによって千歳の方へ。なんでやねん、突っ込まずには居られなかった。
天井高くまで舞い上がってゆっくりと千歳の目の前まで落ちてくるシンプルな封筒を、何の戸惑いも無くキャッチしてみせた千歳の髪が少し風で乱れていた。それを見て俺は改めて思ってしまっていた。


(くそ、イケメンめ…!)
「なんねこれ?」


じろじろと表を見ていた千歳がくるりと封筒を裏返す流れを見て、思いだした。書いてしまった宛名を。ひやっと全身から血の気が引いていくのが分かった癖に、俺の体は千歳めがけて走ってた。


「み、見るな!!」
「……千歳千里へって書いとっとよ。」
「返せ!」
「でも手紙には…」
「かーえーせー!!」


千歳が俺に取られないようにか封筒を上に上げてジッと見ている、こうなれば俺は椅子にでも乗らない限り千歳から封筒を救出出来ない。
自分宛なら今貰っても構わないだろうとでも思っている千歳は俺に返す気などないのだろう、意地の悪い笑顔で飛びまわって手を伸ばす俺の頭を一撫でした。


「慎、落ちつきなっせ。」
「落ちつけるか!!」
「なんね、大事な手紙と?」


大事。その言葉に大声出していた口は閉じてしまう。ジャンプして手を伸ばすのもやめて千歳の顔を見た。静まった俺を不思議そうに見ている。あんだけ暴れていたから不思議だよな、そりゃそうだ。

大事だよ、大事。
その中に入っている手紙には俺の思いが7文字も書かれているんだ。でもそれよりももっと大事なのは、今この瞬間の俺と千歳の気持ちの距離だ。こうやってからかってくれるのも頭を撫でてくれるのも、笑ったりしてくれる今のこの距離感は、きっとその手紙が壊してしまうから。

大事だよ、千歳、お前がな。


「…お前宛だよ。」
「慎から俺に?」
「そうだよ。さっさと読め!」


さっきまで返せ返せと騒いでいたのが一変、いきなり読めと言われては千歳も驚いたようで。あーもう知らない、俺は踵を返して自分の席に置いていた鞄を手にさっさと教室から出ようと、千歳がいる扉とは逆の扉へ向かう。


「慎?」
「…じゃあな。」


俺の視界に入らない場所で読んで。そんで棄ててしまって欲しい。
俺の、地球に隕石が降ってきたとして受け止められるのは俺だけで、受け止めたら俺は死んでしまうだろうが受け止めなくては他の誰かがたくさん死んでしまうんだぞっていう究極の二択を迫られて、答えを口にする時くらいの勇気を、俺は振り絞って、俺はその手紙に書いたんだ。

たった7文字の、俺の、




『千歳が好きです 


    天城慎』





「……慎、慎!!」


教室から俺の名前を呼ぶ大きな声から逃げようと、走り出した。
玄関で靴を履き替えて勢いよく飛び出して、やっとそこで振り返る。教室にまだ残っていた千歳が手紙を指差して名前をずっと呼び続けるから、笑ってしまった。


「はは、ばーか!!千歳、大好きだぞー!!」
「…慎!好いとうよ!!ばってん、こげな手紙卑怯ばい!!」


お前の笑顔の方が卑怯だよ。

窓際から姿を消した千歳はきっと走って此処まで来るんだろうな。
その前に更に走って門の所でまた振り返れば、鞄を持たず俺のラブレターだけ持った千歳が玄関から出てきたところだった。

本当に好き。
だから瞳を閉じて唇を突き出して空気にキスして見せた。
遠くにいる千歳とのキスは、きっと恥ずかしくて出来ないと思うから。



7文字のラブレター



「そ、そげなむぞらしか姿ば他の奴が見たらどげんすると!?」
「はぁ?」

「俺の前だけにせんね!!」


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熊本弁だったんですね、千歳。知らんかった。
調べてみてもなんか、ね。博多弁は熊本弁ですか…?
なんか千歳が余裕なさ過ぎました、それぐらい両想いだったってことで。

…すいませんでした。

2013,04,11

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