佐伯と四ヶ月目



慎と一緒に住むと決めた時、一応周りには報告したらひどく驚かれた。
興奮気味に経緯を聞いてくる剣太郎に、クスクス笑って応援してくれた亮に、たまには遊びに言っていいかと聞いてくるいっちゃんに、「同棲生活、どーせいちゃいちゃ…ぶっ」と相変わらずなダビデ。その中でバネは冷静にこう言った。


『大丈夫かぁ?埋もれないようにしろよ?』


いったい何のことなのだろうと思いながら頷きながら聞いたあの時。何かを忠告してくれたバネは『コレ』を案じてくれていたんだろう。


「今日も酔っ払いましたー!!」


ご機嫌な慎は片手に鞄、もう片手にコンビニの袋を持って帰ってきた。朝はきちっと着てたはずのワイシャツは第2ボタンまで外してネクタイも原型がない。
遅くなると電話を貰った時はシラフだったのに…呆れつつ立ち上がって慎の手に持っている物を持ってあげる。


「随分とまた飲んできたな。」
「うん、えとビールとチューハイとカクテルと…あと初めて日本酒飲んだよー。」
「明日、仕事休みで良かったな。」


絶対明日の朝、起きては昨日の酒の量に後悔しているだろうから。今は本人へらへらと笑いながら服を脱ぎ散らかしているけれど。

しかし…これが連日となると困るな。
寝るためにスウェットに着替えに別の部屋へ行った恋人を横目で確認してから、申し訳ないが鞄から財布を取り出す。シンプルな黒の財布を開いてお札いれを覗けば諭吉さんが数枚、朝渡したお金だから中身は全く減っていない。
上司が出しているのか全く知らないけれど、誰かのお金であそこまで酔いつぶれるとは少し心配になってしまう。


「埋もれる…ねぇ。」


連日、というか2カ月程前から、慎は会社の大きなプロジェクトにかかわっているらしく。
朝から遅くまでバタバタと動き回っては、こうしてお付き合いで飲んで帰ってくる。今日の様に酔ってくるものだから甘い時間もご無沙汰。最近は休みの日も会社からの電話を長々としては、結局出勤。

埋もれるというのは、こういうことなのだろう。
愛も俺も、仕事に追われる慎の瞳では、そこに存在する人物の一人ではなくて風景の1つとして目に入らなくなる。愛だって、優しく触れたって慎は常に仕事ばかり考えていて。


「こりゃ困った。」


このままは嫌だけれど、4か月でギブアップなんて格好悪い。ましてや俺は初めて会った時から愛を途切れさせたことはない、今も慎を思い続けている。
財布を鞄にしまいフッと息を吐きだした。

そういえば、着替えてくるのが遅い。慎が着替えながら寝ていないか心配になり、そちらへ向かう。一昨日、着替えている途中で眠ってしまった事を思い出して苦笑いしてしまう。
開きっぱなしの引き戸を軽くノックしながら電気をつけていない部屋を覗き込む。


「慎、起きてる?」
「…サエ。」


脱いだワイシャツやネクタイ、ズボンを床に散乱させながら座り込んでいた慎は、かろうじてスウェットの下だけ穿いていた。上は裸なのは呆れてしまうが、全部着ていないよりはマシだろう。

まだ酔っているから、いつもより舌足らずな俺を呼ぶ声。甘えるような声は、ご無沙汰な自分の体には良くない。
ゆっくりと振り返る慎の表情は、先ほどの高いテンションを何処へやったのか。シュンと眉を下げては涙を瞳に浮かべて俺を見る。


「…どうした?」


少しの間になにを悲しんでいるのだろう、傍へ歩み寄っては隣に座って熱い額にかかる前髪をかきあげる。それを嬉しそうに瞳を細めて甘んじる姿は、猫の様。
2度ほど撫でて手を下ろし、スウェットの上を探す。その格好は寒いだろう、風邪をひいては困るからと立ち上がってワイシャツなどを回収しながら歩き、出そうとした足に回される腕。

両足を捕まえては離さないと言いたげに力が込められた。とはいっても、適当に足を動かせば抜け出せるだろう優しい檻に俺は何も言わずただ振り返っては慎のつむじを見た。


「おれ、また飲みすぎました…。」
「うん。」


小さな声で反省しているらしい思いを呟く。自覚はあるんだなと感心しつつ次の言葉を待てば、更に込められた力が愛おしい。


「おれ、いつもはやく帰ろうっておもってるよ…」
「なんで?」
「サエが、まってるから。」


当たり前じゃん。
縋りつく腕も気にしないでゆっくり膝を曲げれば、腕は俺の腰に落ち着いた。向き合うように座っては俯いている顔をしっかり見たくて、頬を両手で挟んでコッチを見てと上を向かせる。

潤んだままの瞳は俺だけ映っていた、隣の部屋から差し込む光を受けて煌めく綺麗な光景は俺の心を掴んで離さないわけだ、と納得せざるを得ない。思わず笑ってしまうほど。

あぁ愛してよかった。


「分かっているなら、たまには早く帰っておいで。」
「うん。」




4ヶ月目の発掘作業




「ほら、服着ないと。」
「…サエ。」
「ん?」
「俺…明日、仕事休みです。」
「知ってるよ。」

「……休みです。」
「…あぁ、こりゃ失敬。喜んで。」


next...侑士
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単体では初のサエさん。
私の本命(笑)

2013,07,12

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