財前と二週間目



「慎さん、もう寝るんすか?」
「だってもう11時じゃん、明日も仕事だし。」


知っていたとはいえ結構辛い、このすれ違い生活。
まだ一緒に暮らして二週間…つまりは半月な訳ですが、同棲相手の財前光が夜になっても寝ません。

夜の12時、日を跨いだところから何でも深夜のテンションになって大好きな作曲やら動画めぐりやら色々やり始めて、寝るのは俺が起きて朝ご飯を作っている6時です。一緒に朝ご飯(光からしたら何ご飯になるのか分からないけれど)を食べて、俺が仕事へ行く時にはベッドで着替えることなく眠る…てか気絶する。


「たまには光も早く寝ろよ。」
「今日は見逃せん大事な生放送あるんすわ。」
「…それ、一昨日も言ってた。」
「ソレとはちゃう放送なんで。」


光は有名な何とかプロデューサーらしく、色々と交流が広い、勿論ネット上での交流であって実際に顔を合わせた事ある人はほんの少しらしい。
別にそこになにか不満があるわけじゃないし光が知り合いになる人を疑ったりするわけでもないし…けど、けどだよ、目の前に一緒に暮らしている大事な人がいるときくらはさ、


(大事って使うなよ。)



俺だけであってほしいなんて、いつからこんな我儘になったんだろうね。
あーぁ、と歯を磨きながらパソコンのある部屋へ入っていく光の背中を見る。片手には500mlのペットボトル、ソレだけ。だから朝部屋から出て来た時お腹すいたって言うんだよな…そんでお腹いっぱいになったらすぐ寝るんだよな…。
同棲前はほんの少し知っていた恋人の生活サイクルを完璧に知ってしまった今、呆れると通りこしてほんの少し尊敬の領域だ。よくそんな事やって仕事もやるよ…光も昼から夜までの仕事持ちだ、いつか体を壊すに賭けてもいいくらい。

歯磨きを終えて洗面所から出れば、光の部屋の扉が人の足一個分くらい開いていて。珍しいなと中に声を掛けて閉めようとドアを押して中へ顔をのぞかせる。
デスクに向かって椅子の上に胡坐をかいている光の耳を、大きめのヘッドフォンが塞いでいるから聞こえるかは不安だが、まぁ聞こえなかったら何もなかったかのように閉めておけばいいか、と声を出す。


「光ー、開いてるぞ。」
「…慎さん。」


なんだ、ヘッドフォン見かけ倒しだなと思いながら、コッチを向きながらヘッドフォンをずらし耳を出す光に僅かに喜ぶ。こういうときは一緒にいて良かったなって思うよ。
じゃ、と手を振って部屋を後にしようとしたら、手を振るよりも先に光の右手がコイコイと手招きする。

正直、この部屋には入らないように何時からか自分から避けていた。だって此処は光が音楽を作るための機材やら資料やら色々あって触ったら怒られそうだから。
だから手招きされても困った、入っても良いのだろうか、そう控えめに目で伺えば「はよ」と笑って膝を叩いておいでと誘う。
なんとなく嫌だという思いを隠しきれない俺は、ソロっと部屋へ一歩踏み込む。久々に入ったこの部屋は相変わらず混雑していた。


「…なに。」
「ええから、コッチ。」


何かを隠しているのは目に見えている。なにか変なものだったら嫌だ、という思いを込めまくった視線を向ければ椅子から立ち上がって傍へ来る。
逃げもしないでただ光を待てば、そっと左手を捕まえられた。そのままパソコンの方へ戻る光に反抗する理由が上手い事見つからないので仕方なく後を追う。

キィっと甲高い音を立たせながら椅子を俺の方へ向けて、床に落ちていたクッションを上に乗せて何度か叩いて、そこに俺を落ち着かせた。
まったくもって落ちつかない空間に視線はウロウロとしてしまうのだが、そんな俺には目もくれず光は何やら大きなモニターのパソコンを操作して。


「…眠いんだけど。」


そう不機嫌気味に零せば、「知っとります。」と即答される。
ならなんでだよ、と言ってやろうとして光がこちらへ顔を向けた。


「慎さん、ベッド買い替えません?」
「……え、」


いきなりの提案に、なんと返せばいいのだろうか。
というか引っ越してまだ二週間なのにこの男は何を真顔で言っているのだろうか。

鳩が豆鉄砲を喰らった時の気持ちが凄く分かる俺に対して、光はあぁやっぱりそうなりますよね、と視線で言ってくる。
今のベッドは光が同棲する前から使っていたもので、シングルよりも少し広いからお金貯まるまではコレで我慢しようと2人で話し合って決めたはずなんだけど、嫌だったようで。


「狭いでしょ。」
「まぁ大人二人には狭いです。」


思わず敬語になってしまう光の正論に頷く。というか、今のベッドで我慢しようと話しだしたのはお前じゃ…というツッコミはまぁ伏せておくとして。
なんでいきなり今その話なのだろうか、と光に問えば「えぇベッドが売っとるっていうんすわ。」って誰がだよという突っ込みをこれまた伏せて、光がモニターを指さす。いくつものベッドが並ぶ、どうにもネットショッピングのページ。その中の1つ、大きなベッドが確かに良い値段で売られている。


「で、でもお金…」
「溜めたんで。買いましょ。」
「いやいやいやいや、どう言うこと?」


大事な事ばかり、そうやって隠して直前になって言いだして。
置いていかれる俺は眠たいせいか何だか感情的に暴れたくなる、どうしてこう身勝手なんだろう。買う前に言えば良いとでも?俺の事、いつも放っておいてパソコンばっかり見て、それでたまにコッチ向いたと思えば、こんなことばかり。

モニターから視線を外して下を向く俺に気付いたのか、光がしゃがんで俺の頬を撫でる。真剣な顔で見てくれる光は、大丈夫と小さく呟いて体を起こし俺の髪を掻きあげては額に口付けた。


「…俺、あのベッドに2人で寝るんは辛いんすわ。」


狭い以前に、我慢するんが。せやけど慎さん寝とるし大事すぎて手だせんし。


二週間目にして知った。光がパソコン部屋で一晩越す理由を。




二週間目の秘密暴露




「二週間、此処で我慢したんやけど眠いっすわ…。」
「………あ、アホ光っ!!」
「いや成人男性としては普通とちゃいますの?好きな人が抱きついてくるとか寝顔見せつけてくるとか、ほんま食ったろうかと…」
「あー!!分かった、そのベッド買えよ!!」
「おおきに。」

「…それ買ったら、一緒に、寝てくれるの?」
「…買ってからと言わんで今日、一緒に寝ます?」


next...鳳
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シリアスとでも思っt(ry
意外と我慢する紳士っぽい光とか
美味しいぱくむしゃぁ。

2013,07,05

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