56.まともとは



「じゃー…自称偉大な先輩らが、やっとこさいなくなってくれはる事を祝ってー…かんぱーい。」


緩すぎる財前の乾杯の声に「どういうこっちゃ!!!!」と三年全員でツッコミを入れると同時にジュースが入ったコップを上げて乾杯する。
近所のカラオケ店の大部屋を貸し切ってテニス部恒例の引退カラオケ会は次の部長の一声で始まった。
テーブルの上に並んだお菓子やらを摘まみながら大会がーとか、受験がーとか、次はーとか、様々な話しをする面々に俺はらしくもなく頬を緩ませた。


学校祭から時間は流れに流れて、受験もすんだ三月。あとは桜が満開になるんを待つだけ。


ほんまにあっちゅー間に此処までやってきたって感じやから、ときたま今が何月なんか分からんくなってまいそうやった。
嬉しい事に受験は受かっとった。俺の進学先は四天宝寺高校、ちゅーか小春も白石も謙也も…だいたいはその地元校へ進学しよる。俺もその中の1人っちゅーだけ。
まぁレベルもそこそこええ所やったし、なにより四天宝寺の名前でテニス部優勝させたろかっちゅー地元愛もあったり…するんは白石達だけやけど。


「よっしゃ!歌ったるか!」
「おー…で、元部長は何を歌ってくれはるんですか?」
「せやなぁ…よし!全員でフォーチュンクッキーいったろか!!」


若干古いチョイスに周りが笑うなかちゃっかり予約を入れた白石は前の方へ出てマイク片手に準備完璧やった。金太郎さんはタンバリン持って前に出ていって音楽が流れるたびに派手にシャンシャン打ち鳴らす。
そうなると、そらうちの校風なもんやからテニス部全員が立ち上がってPV見ながら踊りだす…あ、銀も財前も踊るんやな…意外。
俺はと言えば一応立ち上がって昔、小春とノリで練習して覚えとったからPV見んでも踊れる。やから、ポケットからスマホを取り出して今日の朝にもらったメールを読み直す。


「ユウくん?慎きゅんから?」
「おん。」


サビの所でゆっくり回りながらスマホを弄っとれば小春が画面をのぞき込んでくる、見られて困るもんやないし小春やから気にならん。



From 天城慎
Subject おはよう
―――――――――

3時でだいじょうぶ?
場所わかるし迎えに行く

---END---



「三時に待ち合わせしとるん?」
「おん…まだ時間あるからええけど。」


ハートを作るのは小春に任せて俺はスマホをポケットにしまう。今が一時やから大丈夫…やろうけれど。ノリノリで歌い踊る面々になんとなく嫌な予感がしてまう…。そういえば去年は一時に始まって五時に終わった…なぁ…。
ま、このメンツで遊べんのは今日だけやし付き合ったるか。


「よっしゃ次はヘビロテいくでー!!」


どうでもええけど、小指立ててマイク持つのやめんかい。




まともなテニス部です




三時、こっそり部屋の扉を開けて逃げる。ばたりと扉を閉めても聞こえてきよる賑わいにはちょお後ろ髪引かれてまうけれど…それでも待ってくれとる人が居るから。

結局踊りまくって菓子を食う事が出来んかった、ジュースは飲めたんやけど…卑怯やろヘビロテからの女々しくてとか。そら本能で踊ってまう、その後は何故かLoveマシーンやと?盛り上がるなっちゅー方が無理やったわ。なんで選ぶ曲が古くなっていくんかは謎やけど。

スマホをポケットからだして通話履歴の一番上の番号を選ぶ、これは昨日の夜に電話した時の履歴。毎日電話しても飽きんから不思議なやっちゃ。
廊下と接する同じデザインの扉の前を何個も通り過ぎるたび、それぞれの盛り上がりが微かに聞こえてくる。
電話するには辛い、と思いながらコール音を何度も聞いとればプツリ、途切れる。前なら戸惑う所やけど…毎日のことやから慣れた。


「慎、今何処に居る?」
『あーと、店が見えて来たって所。』
「さよか、いま外出るさかい待っとって。」


鞄を担ぎ直して早足で店の受け付けに一言言うて自動ドアをくぐる。店の前は人通り多い所で探すとなると大変、やけど。


「『ユウジ。』」


見つけてもらうんは楽やった。

スマホを当てとる右耳でも、当てとらん左耳でも聞き取れた俺を呼ぶ声。左を見れば手を振ってコッチに来よる寒がりの姿。コートのボタンを全部締めていつものマフラーをしっかり巻いた慎が鼻を赤くさせとった。
今日は暖かいほうやねんけど、と笑い返しつつ通話を切って俺も歩み寄ってやる。今日は今更やけど合格記念にうちのオカンがたこ焼きパーティしよかって提案してくれよった。勿論慎を誘って。やからこれからうちに帰る、慎と一緒に。
「さ、帰ろか。」と言いながらお互いどちらともなく手を繋ぐ。もう人の目を気にする事もない。気付いてもうたから…俺達は周りの目を気にする余裕もないっちゅーこと。


「たこ焼き楽しみだ。」


目の前で好きな人が笑ってくれる、それだけで胸はいっぱいやし頭の中は明るい色だけになる。


「おん、楽しみやな。」
「あと泊まるのも。」
「狭い部屋やから楽しみにせんでええって。」


まともになりたかった、そう願ったのはいつやったやろうか。
中学卒業するわけやけど…結局俺はまともなんかにはなれとらん気がする。別にソレが俺の生きる上での目標や夢っちゅーわけやないからええねんけど。


そもそも、まともってなんやろう。



「ていうかもうすぐ入学だけど準備出来てる?」
「多分終わった…はずや。」




まとも【まとも】とは
正しく向かう事、道筋が通っていると認められる事。




誰がなんと言おうと、俺が俺達が選んだ道は正しいと言い切れる。
ひねくれとる様に見えるかもしれんけれど、それでも俺には真っ直ぐに見えんねん。

今日も手を繋いで歩いて行こう。俺の全てを受け止めてくれよる愛しい慎と一緒に。


「早く暖かくならないかなー。」
「もう暖かいやろ。」




『まとも』になりたい一氏とシリーズ END


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2014,06,13

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