52.まともかつ素直な



一悶着あった俺と財前やけど、財前も出し物終了時間となれば一応クラスに顔を出さんとならん言うて、また不敵に笑いながら俺達の前から姿を消した。あんなんが来年の四天宝寺テニス部の部長…悪い噂が聞こえてこん事を祈るばかりや。


「財前くんって相当面白いよね。」


校庭へ向かう道すがら、隣から聞こえた何も知らん慎の率直な感想…アレやな、毒舌な芸人がオモロイっちゅー感じやろうな。そら芸人の毒舌は演技かもしれんけれど、財前のはかなり…いや絶対に本心やからターゲットにされとる俺としては何も言えん。
「せやな…」と頬を引きつらせながら一応同意する俺の背後から謙也や白石からも乾いた笑い声が聞こえて来よる。知らないってええな…今だけ羨ましいわ。
俺達三人の心情を汲み取ってか小春が慎の正面へ回り込んで色んな意味を含めた笑顔を向ける。


「慎きゅんにはええ子やねんけどね〜、でも生意気な光も可愛えんやよ〜。」
「には?って、小春も可愛いよ。」
「嫌やわ、そんなん言うて!」


きゃっきゃっと盛り上がる2人は俺から見たらやっぱ天国みたいなもんやねんよな…さっきまで財前にボコボコにされとった分が癒される。
それに、これから校庭へ行ってなんやっけ…一番繁盛した店を表彰してキャンプファイヤーやと。この学校は祭りとなると見境なく金を注ぐなぁ…キャンプファイヤーもそうやねんけど花火て。
全校生徒が集まるやろう校庭を思うとちょお面倒やねんけど…上手く行ったら慎連れて端の方でゆっくり話せたらええなやなんて思っとる。やって今日は財前のせいでまったく話せてへんねん。
今年で最後の学校祭、ええ思い出で締めくくりたいやん。


(そう思うの、俺だけかもしれんけど。)







祭りっておっそろしい。


なんやあの勝ち誇った顔が似合うイケメンは。ちゅーかこんな光景を俺は朝も見たで。いや場所やとか時間やとかちゃうねんけど…あれ、デジャヴュやな。
お立ち台に颯爽と上がる白石に連れていかれた謙也とついて行った小春は新鮮な光景やねんけど…白石、お前はどこまで目立てばすむんや。


「ユウジ。」
「おん。」
「俺さ、今朝もこんな光景見た気がする。」
「俺もそう思っとった。」


完売したうちの店がまぁ一番繁盛したって言われたら「そらそうやろ」の一言やねんけど、なんであいつは自ら壇上へあがっていくんや…しかもあの「あんたがええおとこ」タスキ付けていくんや。
周りからは賞賛の拍手やなくて何故か「エクスタシー!」とアンコールのように叫ぶ声。ソレに嬉しそうに笑う白石は役者やと思う、そして謙也はご愁傷さまやな。

結局、白石はああいう奴や。目立つんは好きか嫌いかっちゅーもんやなく得意っちゅーもん。生まれ持ってのスター体質なんやろう。こう言ったらあれやけど…その体質はイケメンやないと通用せぇへんで。ほんまお前でよかったわ。
リズムよく鳴らされる手拍子を一応する俺達は行ってもうた友達三人の姿を見守るばかり、流石にエクスタシーコールはせんで。
呆れるほどの祭りの雰囲気、確かにこれだけの声援を一心にうけるんはさぞかし楽しいんやろう。けれど俺は…俺は、行かんで良かったって思う。

生徒会から賞状と無駄にデカイトロフィーを貰って白石から「エクスタシー」と声が上がればボルテージは上がる一方。
あぁうっさい、うっさい、うっさい…けど、


(俺達のクラスが、取った賞…なぁ。)


去年はやる気も無かったし、協力なんて柄やなくて逃げてばっかやった。
でも今年は白石達ほどやないにしろ、まぁ頑張った方やないかな…って思うと白石が持つトロフィーが眩しくて価値の大きなものなんやって知れる。たかが学校の祭りの賞やなんて興味も無かったし価値も見出せんかったのに。


「良かった、嬉しい。」


隣から聞こえた短い、せやけどとても思いが詰まった声を噛みしめる、嬉しい…せや、嬉しい。


「…おん、めっちゃ嬉しい。」




まともかつ素直な




盛り上がりはそのままに時間は進んでいく。次はダンスやと生徒会が言うたら、生徒達は木を組んで作られた点火前のキャンプファイヤーの元へ我先にと集まっていく。
そんな人の流れの中で俺達は立ち止まったままお互いの顔を見合わせた。ダンスて…あれやろ、定番の…俺は行く気ないねんけど。
どないする?と首を傾げれば返ってきたのは笑い声、ちょっと困った顔をしてから、そっと、引かれた右手。


「ダンス苦手なんだ、端の方で見てない?」
「お、おん…せやな。」


俺が頷いた、それと同時にボッと点火の音が聞こえた。流石四天宝寺、まだまだ祭りは終わらんらしい。


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2014,06,13

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